劇場公開日 2020年2月28日

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「社会派アクション映画の秀作」レ・ミゼラブル 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5社会派アクション映画の秀作

2024年6月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

先日観て衝撃を覚えたラジ・リ監督の「バティモン5 望まれざる者」。パリ郊外の移民労働者たちが暮らす地区における行政と住民との対立や、多数の移民を受け入れた社会を描いた同作でしたが、同じラジ・リ監督作品で、2020年に日本公開された本作「レ・ミゼラブル」も、コンセプト的には「バティモン5」と軌を一にするものでした。題名の「レ・ミゼラブル」は、本作の舞台となったモンフェルメイユ地区が、ヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル』に出て来るところから付けられたそうです。地理的には、パリ中心部から見て東側の郊外にある地区みたいですが、 「バティモン5」の舞台にしても本作の舞台モンフェルメイユにしても、パリにはこうした地区がそこそこ存在するようで、”花の都”のイメージと裏腹に、今やパリは”燃える都”の様相を呈しているようです。

両方の作品に共通して言えるのは、フランスの移民問題が、旧住民や地元行政と、新住民(移民)との単純な二項対立的な構図ではなく、行政側にも移民側にも様々な立場や考え方の人がいて、それぞれに利害対立があるということを的確に物語に盛り込んでいたことでした。「バティモン5」においては、移民系住民の中にも、副市長として権力側に立つ人から、行政サイドに従順で保護を受けている人、移民系住民の権利獲得のために立ち上がる女性(主人公)、さらには暴力に訴える主人公の友人に至るまで、様々な立場の人がいることが示されていました。(因みに主人公の女性・アビーが、登場人物中”自由”、”平等”、”博愛”というフランス革命の正の部分を最も体現していたのに対して、アビーの友人であるブラズが、文字通り暴力革命的なフランス革命の負の部分を体現していたのが非常に面白かったです。)

本作では、主人公の警察官3人が居て、それに対して移民系の市長グループ、地元のマフィア集団、地元のティーンエイジャー集団、さらには各地を転々するロマのサーカス団が、ある時は対立し、ある時は談合していました。警察官3人にしても、リーダーのクリスは白人で強硬派、移民系の黒人であるグワダは中間派、そして主人公というべきステファンは白人で良識派という感じで、「バティモン5」と同様に登場人物それぞれに明確な役割が与えられており、監督の問題意識が伝わって来た感じがしました。

「バティモン5」との比較で言うと、クライマックスに向かって事態がどんどん切迫し、緊張していく展開は共通していました。ただ本作はよりアクションシーンが多くかつ過激で、物語の内容はさておき、その点で血沸き肉躍る面白さがありました。特に暴れる主体がそれまで大人たちにいいように言いくるめられて抑圧されて来たティーンエイジャーたちであり、彼らの怒りが終盤になって爆発し、留まるところを知らない極限にまで行ってしまったことから、「おいおい大丈夫か」という驚きとともに、爽快感すらも覚えさせてくれました。

また、強硬派の白人警官・クリスが、どこかで見たような気がしましたが、なんと「バティモン5」でやはり強硬派の市長を演じていたアレクシス・マネンティでした。ラジ・リ監督作品の常連ということなのでしょうが、若い頃のプーチンに似た見た目が、実にそれっぽくて素晴らしいキャスティングだと感じました。

「バティモン5」を観た時も思いましたが、こうした問題は対岸の火事ではなく、日本においても既に起き始めている話であるだけに、観客に対する問題提起は重く受け止めるべきと思いつつ、印象的なアクションシーンで興奮させてくれた本作は、非常に意義深い作品だったと思います。

そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。

鶏