「新鋭の監督による「郊外映画」の傑作。」レ・ミゼラブル yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
新鋭の監督による「郊外映画」の傑作。
冒頭、鮮やかな三色旗の色彩と波のような群衆の只中に放り込まれます。この場面は本作のポスターなどのアートワークでも使われており、高揚感に溢れています。
だが本作の主要な舞台となるパリ郊外のモンフェルメイユは、全く異なった表情を見せます。荒れた住宅地に住む住民はすさんだ眼差しで肌の色の違う隣人を眺めています。主人公ステファンはこの地区の犯罪対策班(BAC)に配属され、二人の同僚と共に巡回に出発します。この(警察官としては無能な)同僚達に導かれて、彼はまるで地獄巡りのようにこの地区を体験します。
ユゴーの名作『レ・ミゼラブル』と本作とは直接的な結び付きは少ないものの、「無情」を重要なキーワードにしていることは間違いありません。住民達の内実をよく理解しているはずの同僚が引き起こした事態、大人の暴力にさらされる少年達など、一つひとつの事態の積み重ねが、やがて大きな動きへ発展していきます。誰かが事態を操っている訳ではないのに、結果的に重大事件に関与してしまう、そこに大きな無情を感じさせます。
本作は大きく二部に分かる構成で、前半と後半である要素や関係性が反転する仕組みとなっています。その転換の幕間に挿入される短い映像が、後半のやるせなさを一層強めています。
フランスには本作のような「郊外映画」が分野として確立しているそうで、他の作品も観たくなりました。
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