「あまりの展開に、観客は唖然とするしかない。」レ・ミゼラブル shihoさんの映画レビュー(感想・評価)
あまりの展開に、観客は唖然とするしかない。
フランスの貧困を描いた映画は、ダルデンヌ兄弟がまず頭に浮かぶ。彼らの厳しい現実の中にかすかにも希望を見出そうとするのとは対照に、ただあるがままの現実を目の当たりにさせ、結論は観客に委ねる展開に唖然。
たった2日間であり得ないほどの急展開を見せるストーリーに全く違和感がなく、観客はただ傍観するしかない。
序盤、目まぐるしいカメラワークに、アップの連続が多く、力業で押してくるかと思いきや、盗みを働くイッサが、故郷のアフリカで「泥棒が焼き殺されるのを見た。盗みは重罪だ」と語る場面が最後大きな意味を持つなど、伏線もしっかり張ってあり、見終わった後に胸にズシリとくる。
全編を通して感じたのが、なぜ誰も冷静に話し合おうとしないのか。大人たちは絶えず不機嫌で威圧的で、怒鳴り合い責任をなすりつけ合う。子供が犯した罪を言い聞かせて嗜めるのではなく、威嚇し力で押さえ込もうとするばかり。
鬱屈した負のエネルギーは、いつも身近な弱者に向かう。
日本の通り魔事件などでもそうだけど、自身を苦しめる人間では無く、自分が力を振るいやすい人間に憎しみが向くのは、なんて悲しい事だろうと思う。
この映画で、騒動の原因を作ったイッサが復讐の相手に選んだのは、騒動を沈めるべく奔走した警察官たち。警察官たちにも大きな落ち度はあったけれど、大きな抗争さえ起きかねなかった事態を発生させた自分の行為は棚に上げた逆恨みに、地域の子供たちを巻き込んで凄まじい暴動を起こしていく様は、まさに地獄絵図。
さらに怖いのは、子供たち一人一人に明確な意思がなく、集団心理で暴走していくこと。
最後に流れる、「世の中には悪い草も悪い人間もいない。ただ育てるものが悪いだけだ」という、ユーゴーの言葉があまりにも重い。