「思ったより血が出ますので。」パラサイト 半地下の家族 るんさんの映画レビュー(感想・評価)
思ったより血が出ますので。
前半はコメディ。
友人が「偽装してバイトしてくれ」と言い、それに乗ったに過ぎない主人公は、これだけいい給料なら自分だけでなく家族もこの家で仕事につけば良いのでは?と考えたのか。
そこから計画を立て始めて次々と家族を金持ち一家の元へ就職させる。
その流れや時々飛び出るおかしな英語、主人公のお前それいいのか!?大丈夫か!?みたいな行動も見ていて笑っちゃいました。
元家政婦の旦那が勝手に金持ち一家の地下に住んでいた(元家政婦が住まわせていた)のは縦の構図としてとてもよかったです。
金持ち一家(地上)、主人公家族(半地下)、元家政婦の旦那(地下)となっていて、更に洪水が起きたときに金持ち一家は庭で遊ぶ息子をほのぼのと見ているのに対し、命からがら逃げ出した(これは勝手に寛いでたのが悪いけど)主人公家族の家は浸水(この時点で家族は全員生きていて避難できている)
しかしその一方、地下では主人公の母親に蹴り落とされ階段の下で静かに息を引き取る元家政婦と、愛する女性が無力に死ぬ様子を手足を拘束され口を塞がれて何もできずただ眺める旦那。必死にテープをちぎって?解いて?その場を離れ、漸くモールス信号を送れるという状態で、金持ち一家の息子に信号を血塗れになりながら送るが…正直、あの信号を子どもが本当にそこに誰かがいて送っているものだと考えているとは思えません。
ただライトの点滅をモールス信号に見立てて遊んでいたのでは…?
だとすると、下の者が必死に命を乞う状態を、遊び半分で面白おかしく見ている上の者といった図にも見え、映画自体、とてもうまく社会の構図を見せてきていると感じました。
ただ、ここからの話の流れが私個人はあまり好きではなく、とくに元家政婦の旦那が無差別に(と後のニュースで公開されていましたが、実際は妻を殺した奴らに復讐をしていたように見える)人を殺していくシーン。
この映画、友人に勧められてあまり怖くないからと言われて観たものでした。
しかしあの最後の血塗れシーンが本当に怖くて…。
金持ち一家からすれば全く知らない男が突然現れて、周りの人を無差別に刺し出した。
しかも彼らが信じていたはずの主人公一家はまさかの全員詐欺。
金持ち一家の視点で見れば、本当に突然起こった恐ろしい事件です。
しかし主人公一家の視点で見れば、これはなるべくしてなった事件。
計画通りに全てを動かしていたと思い込んでいた主人公と、その計画の駒として動き続けていた家族。そこから計画にはなかった元家政婦の旦那や地下室の存在、豪雨…人生計画通りに行くとは限らない。
そして人の心は更に思い通りに動かすことなどできず、元家政婦の旦那は妻を殺された怒りで家族を殺そうとする。
しかし主人公の母にBBQ串で刺し返され…ちょうどその頃、気絶した息子を自車で病院へ連れて行こうとする金持ち一家の父が、主人公一家の父に車の鍵を渡すよう怒鳴りつけた。
それまで散々人のことを臭いと言っておいて…その臭さは、半地下で染み付いた貧乏人のもの。それはその更に下である地下室に住む旦那も似たような、または同じ臭いだったのかもしれない。その臭いに思わず顔を顰めた金持ち一家の父を見て、主人公一家の父は我慢の限界を迎え、刺し殺した。
勿論、勝手に詐欺をして金持ちの家に入り込んでいたこちらが悪いのですが、主人公一家の父としては侮辱であり、許し難かったのでしょうか。
この映画では、人間が必ず誰かを下に見ている様子が描かれているようにも思えました。
金持ち一家>主人公一家>元家政婦と旦那
実際そういった順で縦になっているのですが、主人公一家の視点では確かに自分たちより下である地下室の元家政婦と旦那がいて、そんな意地汚い奴ら(これは例えですが、細かく言えば働くつもりもない、税を払わないなど)と同じ臭いがすると顔を顰められたのです。
それも目の前で愛する娘や息子が血塗れになって死にそうになっているのに。
でもこれ、どこかで見ませんでしたか。
そう、地下室で起こったことと酷似しています。
主人公の母が元家政婦を蹴り落とし、その死ぬ様を何もできず見せつけられた旦那。
娘が目の前で刺され、息子が遠くで血塗れで運ばれていくのを何もできずどこか遠くの出来事のように見つめる主人公一家の父。
そしてつい顔を顰めてしまった金持ち一家の父は、主人公一家の父に刺され死亡…。
今までの順が金持ち一家>主人公一家>元家政婦と旦那というものだったのが一変、元家政婦の旦那(の復讐)→主人公一家→金持ち一家と、まるで洪水時に便器の水が逆流するように復讐の連鎖が始まります。
物語の全てに伏線があり、1度観ただけでもこれだけの情報量。
何度も観ると、きっとまた新しい視点や何か気づくことがあると思います。
書き足りないくらいですが、これ以上はどうぞご自身で。
観て損はありません、ただ私のように血が苦手な人は要注意。