「イタリア人にとっては一大事件だったはず」シチリアーノ 裏切りの美学 shunsuke kawaiさんの映画レビュー(感想・評価)
イタリア人にとっては一大事件だったはず
この映画を観るまでは全く知らなかったシチリアマフィアで実在した人物トンマーゾ・ブシェッタの人生にスポットをあてた映画。
コルレオーネ一派というのが出てきて、彼はそこと仲が悪く、シチリアに残れば命を狙われる気配を感じ、ブラジルに家族と一緒に引っ越すが、残してきた親族がつぎからつぎへと殺されていく。
マフィアの抗争が激しさを増すなか、ブラジルで捕まりイタリアへ強制送還。そして、組織を裏切り、これまでの組織の悪事を告白していくことで、マフィアが崩壊に向かっていく。これは、イタリア人にとっては世紀の一大事件だったんじゃないだろうか?
ところが、そうした一大事件も、マフィアものの代名詞ともいえる裏切りと報復の世界も、劇的にではなく、淡々と描かれていく。たくさん犯罪して人殺ししても、犯罪組織の解体に協力すれば、恩赦で少ない刑期で出所でき、アメリカに移住できる。そんなところもさらっと描かれている。
予備知識がないと誰が誰の敵で、あるいは味方でといったことはなかなか捉えづらい。一番詳しくその人となりや人生を描かれる主人公のブシェッタがいい人に見えてしまうというのがなんとも不思議。
ブシェッタはマフィアだから当然悪い人だけど一部を除いたイタリア人にとってはマフィアを壊滅に追いやった英雄でもあったわけで、批判を恐れず、あえてバリバリの英雄として描いていればもっとエッジがきいて面白かったかもしれません。
ただ、シチリアの人たちにとってはマフィアは仕事をくれるいい存在。マフィアという組織を単純に悪い組織だと描くのは芸がないし、かといっていいものでもない。
ここらへんの相反するところがマフィアや日本のヤクザにも共通する面白さだが、そうしたことを考えさせられることはなかった。