ペイン・アンド・グローリーのレビュー・感想・評価
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“人生を振り替えるお年頃”を肴にしたアルモドバルの万華鏡
古くからの盟友A・バンデラスが演じる映画監督が、明らかにアルモドバルと同じ髪型をしていることからも、本作は自伝的作品と思われるだろう。実際、主人公のアパートは、アルモドバルが暮らしている住居で撮影されたという。
だとしたら、ある映画をきっかけに主人公と仲違いする人気俳優は、いったい誰がモデル? もしかして『アタメ』の頃のバンデラス? なんて深追いをしたくなるが、さすがはアルモドバル、簡単に謎が解けるような告白映画を撮ったりはしない。
いくつかの時代を振り返りながら人生の断片を俯瞰する構成がとりとめもないからこそ、余計にリアルに思えてしまうのも巧妙な引掛けに思えた。自分の人生をモチーフに、老境に差し掛かった感慨を描いてはいても、やはりこれは架空の世界であり、だからこそ純化されていて美しい。映画は現実に勝るのだ。
過去作でも使っていた手だが、メタな映画内映画で遊んでみせるあたりも、本当に映画作りを楽しんでいるのだなという気がする。
アルモドバルの最新作が観客を温かくもてなす理由
心身共に消耗し切っている映画監督が、過去に体験した切実で痛々しい恋愛や、愛してやまない母親への思いを再確認することで、再び創作意欲を取り戻していく。数ある職業の中でも、苦痛を創作の武器に換え、そこから作品を生み出せるのは、美術家か小説家、または、映画監督ぐらいではないだろうか。初の自伝とも言われる本作のために、作者のペドロ・アルモドバルは盟友のアントニオ・バンデラスに自身の分身と思しき主人公を演じさせ、自宅から所有しているアート(ギジェルモ・ペレス・ビジャルタの抽象画等)やインテリア(月の満ち欠けが楽しめるエクリッセ・ランプ等)や食器(エルメスのティーカップ等)を持ち出し、セットの中に自分が生きてきた時間と空間を見事に再構築している。稀代のアートコレクターとして知られるアルモドバルらしい舞台設定の下、語られる物語は、だからこそ観客を温かくもてなすのだろう。
色彩はとても印象的だが、「ニュー・シネマ・パラダイス」は少々言い過ぎでは…
名匠ペドロ・アルモドバル作品ということと、アントニオ・バンデラスが第92回アカデミー賞主演男優賞でノミネートされた作品ということで鑑賞。
予告編での「アルモドバル版ニュー・シネマ・パラダイス誕生」とのキャッチで期待値が必要以上に上がってしまったせいか、観終えた率直な感想としては正直いまひとつ。ニュー・シネマ・パラダイス感はさほど感じられなかったし、やたら抽象的な会話の連続でストーリーが展開していくあたりは何が言いたいのか何をしたかったのか、とにかく何が何だかよくわからない。恥ずかしながら、途中からは眠気のとの闘いになってしまった。
とはいえ、やっぱりスペイン映画らしく色彩はビビットでとてもきれいで良い。特にホワイトに塗りたくった洞窟の壁と、グリーンのレザージャケットはとても印象に残った。
もう少しペネロペ・クルスの出番が多ければ、ラテン感にも拍車がかかり観応えも出たのかも知れない。
☆☆☆★★★ 『ニュー・シネマ・パラダイス』発 『オール・ザット・...
☆☆☆★★★
『ニュー・シネマ・パラダイス』発
『オール・ザット・ジャズ』経由
『8 1/2』行き
…と、思わせての『オール・ザット・ジャズ』へと戻り…。
…やっぱり『ニュー・シネマ・パラダイス』が終着駅(笑)
観客2名。 簡単に。
フェリーニの『8 1/2』は、その後の映画史に画期的な変化をもたらしたのだと思う。
それまで、映画中映画は成立してはいたが。そこに芸術家の苦悩を織り込むなど、誰も考えないものだった。
(当時の状況を完全に把握している訳では無いので、おそらく…って事で)
ところが、『8 1/2』の更に凄いところは。肝心の映画の中身を一言で表現するならば…。
「浮気してごめんなさい!」m(__)m
コレ…当時の状況を考えたなら、ほとんどの人が呆気に取られたんじゃなかろうか。
本作品、何だか『ウルトラQ』バリのオープニングから。主人公である映画監督役アントニオ・バンデラス(老けたな〜!ちょっとショック)が、水中リハビリ?をしながら、過去を回想する場面から始まる。
この回想場面には、過去の自分と一緒に。母親役のペネロペ・クルスが必ず登場し、ノスタルジーな回顧映像となっている。
それより何より、バンデラスの名前は《サルバドール》なのだ。『ニュー・シネマ・パラダイス』の主人公の名前が《サルヴァトーレ》なだけに…(笑)
更に言えば、バンデラスは背中の痛みを始めとして、身体の異変には薬物に依存し、その痛みを抑える毎日を過ごしている。
この日々の繰り返しは、『8 1/2』を下書きとして。ボブ・フォッシーが、自らの命を投げ出し完成された『オール・ザット・ジャズ』のロイ・シャイダーを、投影させているかの様に見える。
映画本編のほぼ半分以上は、この『オール・ザット・ジャズ』を参考に、アルモドバルは演出していたのでは?と、私には見えたのですが…果たして。
ところで『8 1/2』は、フェリーニが妻であるジュリエッタ・マシーナに対しての【謝罪】を、映画を通して描いていたのですが。アルモドバル版では、誰に対して謝罪をしていたのか?
本編の始めの内は、過去の作品で仲違いをした主演俳優に対しての様に見える。
実際問題、2人の間にあるわだかまりは。映画祭での上映(ここはかなりクスクスと笑える場面)後に、本音をぶつけ合った事から、新たな作品も生まれる。
その作品で題材になるのが、バンデラスが本当に謝罪したかった人物。
その人物が唐突に登場するのが、映画本編のほぼ半分辺り。
しかも、その人物の名前が《フェデリコ》だったのには、思わず椅子から崩れ落ちそうになりましたけどね〜(´Д` )
そのフェデリコが語る言葉に、「君の作品は常に祝祭だった」
(メモを取っていた訳では無いので、完全ではなく。大体、こんな感じの字幕だった)
思えば、『8 1/2』でのラストに、フェリーニ本人の分身と言えるマルチェロ・マストロヤンニが叫ぶ台詞が「人生は祭りだ!」(だったと思う)
このフェデリコ。作品中で唐突に現れては、また唐突に去って行くので、更に呆気に取られるですが。
1番始めに記した様に。
(こちらが勝手に最初に記した3作品を思い浮かべてしまってはいるのですが…)
この男が、アルモドバルに於けるジュリエッタ・マシーナにあたるのか?…と思うと、実に複雑な思いを抱くモノですなあ〜!
そんな唐突に現れる人物がもう1人居て。子供時代のバンデラス=サルバドールが出会うエドゥアルド。
彼は(確か)3〜4回本編で登場するだけなのですが。彼が何気なくしていた事が、その後のサルバドール=アルモドバルに多大な影響を与えていた、としたのならば…。
何とも言い難い不思議な感情が湧いて来るモノですなあ〜(u_u)
…………と、言いつつ。果て?俺は一体全体、何を見せられているのだろう?…とも。
今や巨匠扱いされているアルモドバルですが。この場面などは、初期作品の『アタメ』の頃の《変態性》が垣間見れ、ちょっとばかり懐かしさを感じたりしましたが…。
その様に、アルモドバル自身が。(自分の)過去を振り返っているかの様に見える作品ですが。その画面を見つめているこの俺は、一体何なのだろう?…とも同時に(;´Д`A
ただ、アルモドバルは、以前にも『抱擁のかなた』で、映画中映画を撮っていて。その際には、ヒッチコックの『汚名』を意識している(こちらが勝手にそう思ってはいるのですが)様な秀作が存在し。今回は、アルモドバル自ら、自身の人生を振り返るが如くに映画中映画を撮って…と。アルモドバル自身が人生の老朽に入りつつあるのだなあ〜と思って観ていたところ。映画は『8 1/2』のフィナーレを想起させるエンディングへと突入。
花火と照らし合わせた、映画の魔術を示すエンディングへ。
そこに映っていた〝 モノ 〟それは?
実にあっけらかんとしたハッピーエンドだった事に、思わず【草生える】思いっス(@ ̄ρ ̄@)
2020年6月24日 TOHOシネマズ流山おおたかの森/スクリーン5
最高だった。
アルモドバルの赤
初めて見たのは「キカ」
真っ赤なポスターが印象的で、オシャレな映画として観た。
内容は忘れてしまった。
スペイン=ガウディというカタルーニャモダニズム。
地中海のイメージそのままに、カラフルで陽気なモザイクデザイン。
アルモドバルのデザインは、ガウディのデザインにプラスして鮮烈な赤色が
とても印象的だ。(ガウディはどちらかと言えば青のイメージ)
本作でもそれは象徴的で、母親ペネロペの衣装や
サルバトーレの赤スーツと自宅。
そこに反対色の緑をアクセントにし、デザインに緊張感をもらたらしている。
さすがスペイン。さすがアルモドバル。といった本作。
映画は落ちぶれ監督の再起がテーマ。
そういったテーマの作品は、こちらにも「痛さ」が伝わってきて
重苦しい印象になりがちだが、本作はそれが軽めだ。
巨匠の「81/2」などと比べると、本作を物足りないと感じる人も多いであろう。
しかし、それこそが本作の魅力。
母親目線で見れば、貧乏な洞窟暮らし。
しかし、子ども(サルバトーレ)目線で見れば、
楽しい洞窟生活。美しくやさしい母。男の肉体美。
その後の自身のアイデンティティを育んだ綺麗な思い出。
陽気でオシャレで美しく描くのは当然だ。
そしてそれが最後のオチに続く。
本作では、「水」も印象的だ。
冒頭のプールのバンデラス。川での洗濯。
赤のスタイリッシュスーツで顔を洗う。
白い漆喰の洞窟、カラフルなモザイクタイル
陽光に照らされ水浴びするキラキラ肉体美。
重苦しいテーマを軽やかにするイメージとして
水の使い方が非常に効果的だった。
アントニオバンデラス。
屈強なロン毛マリアッチが、
背中痛くて歩くのもおぼつかない。
でも、目の力だけは健在でした。
母に「監督の目で見ないで」って
言われちゃうけどね。
自伝?
スパニッシュ!
「監督の目で私を見ないで」。 老いた母親が息子バンデラスに言う。
アントニオ・バンデランテスも、フリオ・イグレシアスも、彼らはサッカー畑から転身したアーティスト。
格好良すぎて嫉妬のため息です。
本作、劇作家が、その台本を演じる役者と火花を散らし、自身の家族とも創作過程でぶつかる・・実に興味深いストーリーでした。
役者に対しては自作を思い通りに表現させるために衝突するし、
家族の日々の生活は、作品の創作のためのネタにもさせれてしまうわけで・・
このあたりの描写が、とても舞台裏の事情を明かしてくれていて興味深いものでした。
物語はドキュメンタリーであり、インタビューでもあり、優れた舞台会話劇として珠玉の輝きを放っています。
それにしても何と言う、役者たちの素晴らしい表情!
子役にも若者にも一本取られましたが、でもやっぱり大人たちの演技には勝てません。
白、黒、赤、緑、
光と影がスペインです!
“スペイン版ニューシネマ・パラダイス”との評、
なるほど、伏線も落ちも、観る者に無理なく寄り添って、オーソドックスに最後には心に温かいものが流れる。
単純なお話です。しかしそれをここまで高めて観衆の魂を揺さぶるとか、アルモドバルは大家なんですね。
・・・・・・・・・・・・
「ペイン・アンド・グローリー」
それは「痛みと恵み」。
人生を振り返りそこに感ずる痛みは、必ず愛の思いから発する。
痛みは、愛に裏打ちされている。そして愛は痛みを伴う。
いつもこの二つは不可分で、一体で、僕たちが生きていることの避けがたい生体反応なのだと思います。
母親にとっては、子はいつまでも子。
好きだった人も、いつまでも好きだった人。
この人間関係のまま、塊のまま、一人残らず全員が一緒に老いていく。
痛い後悔をしないように、愛を見失なって素通りしてしまうことのないように、僕も語るべき相手と、語るべき時に、しっかりと心と言葉を交わしておきたいと念じました。
(ヘロインをあそこまで魅力的に登場させるとか、気持ちが動いてしまいます、大変危険ではありました 笑)。
哀愁漂い心地よい
痛みを知っているからこそ描ける世界もある
心身共に痛みを伴う疲れによるブランクの後、
優れた半自伝的映画を作った
ゲイの映画監督の話
主人公サルバドールはいろいろな
痛みを抱えていて、
嚥下困難な為、沢山の薬を粉々にして水に
溶かして飲んでいる
これは彼の生き方にも通じるものがある
かつての恋人との再会
ヘロインに逃げた後の断ち切り
喉の障害を手術で直せることを知る
過去を作品(演劇・映画)化する、など
「痛み」を昇華させる事で克服しようとする
痛みを知っているからこそ描ける世界もある
回想シーンとラストでびっくり!な
自伝的映画とをリンクさせていた作りが
面白かった
スペインには、独特の暗さと秘めた情熱、
貧しいけれど芸術には誇りを持っている国、
のイメージがある
これもそんな作品のひとつでした
色づかいが素晴らしかった。
してやられた。
回想シーンを見てると、いくつになっても、世界中で知られ巨匠と呼ばれるようになっても、親子は親子なのかなと。元恋人との距離感がよかった。きちんと折り合いつけられたからこその…。それで最後はまんまと。
観てる途中よりも、あとからじっくり考えた時の方が、よい映画に思えた。
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