「「これが真相なのでは」と本気で思ってしまう」罪の声 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
「これが真相なのでは」と本気で思ってしまう
予告からミステリーの雰囲気を感じ取り、予備情報なしで鑑賞してきました。開幕してほどなく、これが昭和最大の未解決事件をモチーフにしたものだとわかり、当時の記憶が少しずつ蘇ってきました。と同時に、当時はまったくわからなかった事件の真相が少しずつ明らかになっていく過程に興奮を覚えました。これは、事件の記憶がある者にしか味わえない感覚だと思いますが、事件を知らない若い方たちにも本作をきっかけに事件について調べてみてほしいと思います。
ストーリーは、子供の頃の自分の声が、日本を震撼させた未解決事件で使用されたものであることを知った男と、たまたま同じ事件の真相解明を命じられた記者が、協力して手がかりを追い、真相にたどりつくというものです。わずかな手がかりを必死で手繰りながら、着実に真相に近づく過程がテンポよく描かれ、ミステリー好きにはたまりませんでした。そこにはかなり多くの人物がさまざまな形で関わり、油断すると置いていかれそうになるのですが、終盤で真相が明らかになると、映像でおさらいしてくれるので、鑑賞後の印象はスッキリしています。
構成の面でも、主演の星野源さんと小栗旬さんが、全く異なる立場と事情で、たまたま同じ事件にアプローチし、やがて合流して協力し、最後はまた別々の場所でそれぞれに決着をつけるという流れがよかったです。それにしても、未解決事件にこのような真相を与えた想像力と、その中で自身の声を使われた子供たちのその後の苦悩にスポットを当てた着想、それをミステリーとしてこのようなストーリーにまとめ上げた構成力には恐れ入ります。中でも、不遇な人生を歩んだ生島総一郎と、何も知らずに幸せな生活を送ってきた曽根との対比が切なかったです。生島から曽根に発せられた「あなたはどんな人生を送ってきたのですか」という素朴な問いかけが胸に刺さります。さらに、母と再会した生島が、当時の姉の声を母に聞かせるシーンも悲しすぎます。
フィクションだとわかっていても、現実と想像の区別がつかず、「これが真相なのでは」と本気で思ってしまうほどでした。140分という長めの作品ではありましたが、終わってみればあっという間で、むしろこれだけの骨太の内容をよくこの尺で収めたと思います。原作未読なので映像化による是非はわかりませんが、ベテラン俳優陣をふんだんに用いた、いぶし銀の一本に、仕上がっていると思います。
最後に一言。グリコ森永事件は未解決のまま時効を迎えましたが、犯人、被害者、捜査員、その他の関係者にとっては、永遠に終わりなど訪れないでしょう。もし犯人が本作に触れる機会があるのなら、真相がどうであれ、事件が与えた影響について今一度考え、それを心に刻んでこれからの人生を歩んでいってほしいものです。