「求道者を取り巻くひとびとの葛藤も見どころのひとつ」フリーソロ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
求道者を取り巻くひとびとの葛藤も見どころのひとつ
アレックス・オノルドは、フリーソロの若き第一人者。
フリーソロとは、安全装置を使用せずに、自分の手と足だけで岩壁を登るクライミング・スタイルのこと。
命綱もない。落ちれば、確実に死ぬ。
アレックスは、永年目標にしていたカリフォルニア州ヨセミテ国立公園の絶壁エル・キャピタンにトライすることを決意する・・・
というところから始まる映画で、フリーソロの求道者アレックスの行動を丁寧にキャメラがとらえていきます。
フリーソロに至るまでは、随伴者とともに安全装備をつけて予行演習をしていく。
随伴者もフリーソロの第一人者、トミー・コールドウェルというひと。
ルートの各場所にはナンバリングと名前がつけられており、小さな窪みや出っ張り、それぞれの距離を確認して、どのような動きであれば攻略できるかを確認し、訓練する。
当然だ。
フリーソロでは、ひとつの動作の誤りは即、死を意味しているからだ。
そんなアレックスにも彼女がいる。
サンニ・マッカンドレスという女性で、アレックスと知り合ってから、クライミングをはじめたという。
個人的に、この映画でもっとも興味深いのが、彼女を捉えていることで、彼女の存在そのものが、アレックスのフリーソロに影響を及ぼすかもしれない。
サンニにすれば、愛するひとを喪いたくない、という想いは当然あるが、アレックスのフリーソロへの情熱を邪魔することはしたくない。
フリーソロを失ったアレックスは、もうそれはアレックスではない、と知っているから。
この葛藤。
これが映画に撮られている。
サンニには、死も含めて、それがアレックスだと受け容れているのだろう。
アレックスのフリーソロに影響を及ぼすものにはもうひとつあり、それは映画を撮っているクルーそのもの。
安全装置もなく、自分の手と足だけで登るフリーソロでは、技術もそうだが、精神を通常に保つことだが、やはり他者に見られることで、メンタルに影響を及ぼしてしまう。
撮る側の葛藤も描かれている。
終盤のエル・キャピタンのフリーソロは、本当にスゴイ。
息をのむとはこのこと。
くりかえすが、本当にスゴイ。