劇場公開日 2019年9月6日

フリーソロ : 映画評論・批評

2019年9月3日更新

2019年9月6日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

CGや合成いっさいナシ。人間の肉体を駆使して映す究極のドキュメンタリ

米アカデミー賞を長編ドキュメンタリ部門で受賞したのをはじめ、世界各地の映画賞を総なめにした作品。20賞を受賞してるというのだからスゴイ。いったいどんなにスゴイのかと思って観ると、本当にスゴイスゴイで圧倒させられる。

エル・キャピタンというヨセミテの巨大な岸壁を、ザイル(ロープ)をいっさい使わずに手と足だけで完登したクライマー、アレックス・オノルド。その登攀の様子を頭上のドローンや撮影クルーの手持ちカメラ、下からの超望遠レンズで追い続ける。この最後の20分間のシーンだけでも、映画の歴史に残る記録映像だ。

私は30代のはじめごろまで谷川岳や北アルプスでのクライミングに夢中になっていた。レベルの低い四流クライマーだったが、本作の中で登攀ルートの核心部分「ボルダリングプロブレム」がグレード5.12dで、地面から700メートルの高みにあり、そこをザイルもなしに乗り越えるということが、まったく人間の仕業ではないということは理解できる。

クライミングというのは体験してない人にはイメージしにくいと思うけれど、たとえば東京スカイツリーのてっぺんあたりで、鉄骨からほんの数ミリぐらい飛び出ているリベットの頭に両手両足を乗せてるようなものだ、と頭に浮かべてほしい。そして次の手がかりは手を思い切り上に伸ばしても届かず、その状態のまま15センチぐらいジャンプして飛びつかなければならない、と想像していただければ、だいたいは理解できるかも。

それをCGや合成などいっさい使わずに、人間の肉体を駆使して撮影し(ドローンは使ってるけど)、身体性の極地のような迫力のある映像を、21世紀のテクノロジーの時代にどーんと見せる。まさに究極のドキュメンタリである。

本作をさらに魅力的にしているのは、撮影クルーの苦悩もきっちりと描いていることだ。「もし撮影中に、目の前で墜ちたらどうするんだ?」「それでも撮影を続けるのか?」ということにクルーたちはひたすら葛藤し続ける。撮影のプレッシャーが与える悪影響もある。実際、最初のトライではカメラが気になってアレックスは登攀を途中でやめてしまった。本人に圧力を与えずにするには、どう撮影すればいいのか?

アレックス本人も撮影クルーも、さまざまな苦闘に苦しみながら、ラストの20分間の映像へと収束していく。そして登攀の間、アレックスは完全にフローの状態へと入り、まるで楽園にいるかのように微笑み、ジョークを飛ばしながら垂直の岸壁をクライミングしていくのだ。

佐々木俊尚

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