劇場公開日 2019年8月16日

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永遠に僕のもの : 映画評論・批評

2019年8月13日更新

2019年8月16日よりシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

アンバランスで危険な魅力を放つ初主演のロレンソ。天使どころか悪魔的新人か!?

タバコを吹かしながら閑静な住宅地を歩いていた少年は、突如、柵を乗り越えて豪邸に侵入し、高価なジュエリーをポケットに入れて、何事もなかったかのように逃走する。すべてに於いて罪の自覚がない彼の信条は、「自由に、心の赴くままに、行きたい所へ行く」。1971年のアルゼンチン、ブエノスアイレスに実在した17歳の凶悪犯、カルリートスの行状を再現しようとする作品は、犯罪映画と呼ぶにはあまりにも甘美でグロテスク。ペドロ・アルモドバルと彼の弟、アグスティンの共同プロデュースだけに、観客のモラルを挑発するようなタッチが連続する。

中でも、カルリートスが転校先の学校で出会った青年、ラモンの中に自分と似た野性味を見出し、恋に落ちる瞬間がさりげなく刺激的だ。カルリートスのブロンドヘアと真っ赤な唇が、ラモンにとっても魅力的だったことは確かだが、所詮、2人は相容れぬ仲。ラモンが2人を「ゲバラとカストロみたいだ」と言うのに対し、カルリートスの方は「エビータとペロンだ」と反論する場面に、彼らの性の違いが分かりやすく表現されている。

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物語は、カルリートスとラモンが強盗と殺人を繰り広げていく過程で、2人の犯罪に対する意識の違いも浮き彫りにしていく。宝石店に陳列されているジュエリーを急いでバッグに流し込むラモンに、カルリートスはこの瞬間をもっとゆっくり楽しむべきだと諭す。カルリートスにとって自由こそが目的なのであり、そのための手段でしかない犯罪行為にあくせくするのは退屈だと言わんばかりに。

果たして、カルリートスは希代の犯罪者なのか? それとも性格異常者なのか? はたまた、冒頭で自らが語るように、地上に舞い降りた神の使者(原題は"EL ANGEL")なのか?

映画は答えを保留したまま、印象的なエンディングを迎える。そこには、自由を求めて駆け抜けた先にある、絶望にも似た孤独が横たわっていて、カルリートスと一緒に我々もしばし言葉を失うのだ。

カルリートスとラモンの報われぬ愛を代弁するカンツォーネの女王、ジリオラ・チンクエッティの名曲"夢見る想い"や、カルリートスの暴走を後押しする"朝日のあたる家"等、場面にマッチにした音楽のチョイスが絶妙だ。そして、1000人の候補者の中からカルリートス役に選ばれた映画初出演&初主演の新人、ロレンソ・フェロが放つ、ルネサンス絵画を思わせる薄い皮膚感と、相手を挑発するような態度のアンバランスが、危険すぎでしばらく脳裏から離れない。もしかして、天使どころか、悪魔的新人の降誕か!?

清藤秀人

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