「「ボラプ」の悲劇性と単純比較はできない。"愛の喪失"を綴ったミュージカル。」ロケットマン Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
「ボラプ」の悲劇性と単純比較はできない。"愛の喪失"を綴ったミュージカル。
公開前から話題が先行していた、エルトン・ジョンの半生を描いた作品。
世界的メガヒットが記憶に新しい「ボヘミアン・ラプソディー」(2018)と比較されがちだが、共通点は1億枚以上のレコード売上記録を持つポップスターの楽曲を使い、その半生を描いた映画ということだけである。一応、監督は同じデクスター・フレッチャーだが、「ボラプ」はブライアン・シンガー監督の降板後の代役なので監督としてクレジットされていない。
本作は完全にミュージカルであり、主演のタロン・エガートンがエルトン・ジョンに成りきりながら自ら歌っている。つまり「ロケットマン」は、"ミュージカル作品"。一方の「ボヘミアン・ラプソディー」は、"音楽伝記映画"。映画としての作りはだいぶ違う。
また「ボヘミアン・ラプソディー」は "盛者必衰の理"を描いた「平家物語」のごとく、"死"に結び付く主人公の最期を描いた"悲劇"だったという点で、よりドラマティックなので、本作と同列に語れないし、単純比較は酷だ。
とはいえ、エルトン・ジョンの初期の大ヒット曲がズラリと並ぶ、感涙モノのミュージカルである。
ロックミュージックといえばギター中心の楽曲が多い中で、エルトン・ジョンの「土曜の夜は僕の生きがい」や「クロコダイル・ロック」、「パイロットにつれていって」など、ピアノマンのロックンロールはやっぱり魅力的である(ピアノロックにはビリー・ジョエルもいるけどね)。もちろん「ユア・ソング」や「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」など美しい旋律のバラードもたくさん詰まっている。
ミュージカルとして、とてもよく整っている。ミュージカルファンなら大満足だろう。
当然ミュージカルなので、ストーリーは歌詞に寄り添うことになる。いずれも聴きなれた楽曲ばかりなのに、本作を観ることによって、これほどまでに赤裸々に自分を語った絶望的な"愛の喪失"を綴った歌ばかりだったのか!と再発見できる。ひしひしとエルトンの哀しみが迫ってくるミュージカルだ。
主演のタロン・エガートンの歌唱力が驚きである。タロンといえば、「キングスマン」の若きスパイ、"エグジー"役である。2作目の「キングスマン ゴールデン・サークル」(2018)では、エルトン・ジョンが本人役で出演しており驚かされたし笑ったが、今思えば、本作への伏線的な共演だったということになる。
ちなみに現在上映中のディズニーの超実写版「ライオン・キング」(2019)で流れる「愛を感じて」や「ハクナ・マタタ」など、歌曲のすべてがエルトン・ジョンの書下ろしだということを再認識すると、エルトンがいかに稀有なソングライターかということが改めて分かる。「ハクナ・マタタ」のノリはまさにエルトン・ジョンっぽい。
これまたサントラCDは必聴である。
(2019/8/23/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕翻訳:石田泰子)