「面白かったぴょん!」劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん みりぽんさんの映画レビュー(感想・評価)
面白かったぴょん!
あまり話題ではないのに評価の高さからこれは映画好きな人向けな作品だろうと感じていた。その予想はまさに的中した。
作品自体は全く知らずネットで話題になっていた程度の知識だった。後にテレビドラマで既に放送されていたと情報を得る。逆にファーストインパクトだからこそ楽しめたかもしれない。
ドラマとの比較については後々検証したいが、まず圧倒的な違いとしては尺の長さだろう。いかに余分な部分を削り重要な場面を魅せるかが問われるだろう。
作品に全くと言っていいほど無駄なシーンが無い。それぞれの場面は必ず後の場面に繋がり、より深みのある印象を視聴者に与えている。
今作の見どころである父親がFF14というゲームの世界に溶け込んでいくようすは単純そうで難しいと思う。
まず、今の60台の男性はゲーム世代より上。あまりゲームに馴染みのない世代である。しかも家族とのふれあいも少ない。
その設定で主人公からゲームを与えられて溶け込んでいくまでの流れを作るのは難しいのではと感じていた。
しかし私の心配は早々と無用なものだと分かった。
冒頭の父親が仕事人間であることを説明するシーン。ただ仕事や会議の場面だけではなく、接待ゴルフで上司をおだてるなど少しひょうきんなキャラである一面も見せている。
このお陰で後にオンラインゲームに没頭する父の姿が違和感のないものとなっている。彼の処世術がそのままゲームにも活かされていることが重要だからだ。同時に、彼が実は家族思いの人間であったということが伝わってくる。
その後の父親がゲームに没頭していく流れも見事だ。最初はゲームが理解できず投げてしまうが、キーボードを与えられコミュニケーションを覚えるうちにどんどん上達していく。
思わず語尾に「ぴょん」が移ってしまうところは今作の一番の笑い処。もちろんそれは父親なりの努力の成果でもあるが、思わず母親が振り返ってしまうところは笑いのツボを抑えていて上手いなと思った。
マイクに喋りかけるところはオールドゲーマーなら誰しもクスッと来るところだろう。最近の若い子には少し難しいかもしれない。
30代以上だとお得なシーンである。
もちろん父親以外にも見どころが散りばめられている。
物語の中にいくつも相反するものがあり、それがパズルのように組み合わさっている。
家族との団らんを求めながらも仕事に時間を奪われていく主人公。
安定した生活のために仕事を取った父とは裏腹に不安定な彼氏を持つ妹。
ゲームの中でも主人公が女の子で後輩の子がゴリマッチョなのも上手い対比である。
一方でゲームと現実とはうまくシンクロさせている。
後輩の女性との接点もFF14である。ちゃっかりしてるなあ。
しかしこれも彼女なりの処世術か。この話はなかなか世渡り上手が多い。
また指輪のくだりで周りを勘違いさせるシーンは良い。陣内智則のコントのようで笑いのレベルが高いと思う。
また、最後転勤で離れ離れになってしまったが、ネットでは繋がっているというくだりがまたオンラインゲームの良さを感じて素晴らしい。こういった説明を長々と映像で経過を見せるのではなくさらっと一言でまとめることができるのはすごい。
出演者の中で演技が光っていたと思うのは佐藤隆太氏。
まさに名脇役。演技力の高さはさすがである。
彼の台詞で一番残っているのが「親が死んだら想像以上に堪えるものだった」という旨のもの。
自分とほぼ同じ世代なので胸に来る台詞である。
ひょうきんに振る舞う彼ではあるが、人一倍情にもろいところが伺える一コマである。
遺品である官能小説をまるでお守りのように会社に持ってくるのは一見笑えるようで深い。
唯一残念だったところは映像的に安っぽい印象が否めないところ。これは日本映画全体に言えることなので仕方がないが今年は映画の当たり年。6月の萎む時期ですらディズニーやマーベルが台頭して幅を利かせている現状ではやはり比較されてしまう。2時間ドラマなら家でDVDや配信で見ればいい、という層が多い。
話が申し分ない反面、映画館で敢えてみる理由はと問われると返答に困るのが現状である。これではただの映画好きの作品という域を出ない。
細かいところだが映画にするならもう少し力を入れてほしい部分を挙げる。
FF3の頃のブラウン管テレビはあんなに新しくないと思う。あれは90年代後半から00年代にかけて製造されたものだと思われる。今ではなかなか手に入らないのかもしれないが、映画ならもう少し年代を感じさせる映像があってもよかったと思う。実家の古いテレビを貸してあげたかった。
時代劇モノでも時代考証が必要であるように、90年代はもはや30年前である。その30年というのは短いようでかなり長い。
映像を見てあの頃を思い出す懐かしさがあればもう少し感動したと思う。
街角の玩具屋のシーンがあったが、どこか作り物といった印象が強かった。こういう場面こそ当時の面影を忠実に再現できるような熱意が欲しい。
例えばあの頃はゲームそのものが珍しかった時代、FF3の発売に子供たちが大挙して押し寄せ我先にと争奪戦が繰り広げられた時代である。
それなのに玩具屋は現代の地方の寂れた商店街のよう。当時の玩具屋は子供でごった返すほど活気があった。
キーボードを打つ演技に違和感。人差し指だけで下の方のキーは押さないだろう。役者さんはパソコンを使い慣れていないのだろうが、これでは明らかに適当な文字を打っているだけということがバレてしまう。
音だけカタカタ言っているのにキーボードが全然押されていないところなど、オンラインゲームを得意とするような人間とは思えないぎこちなさを感じてしまう。
ずず。。という映画特有の重低音が関係ないシーンで聞こえてくるのはミスなのか映画館の音響のせいなのか。
ゲームの画像はそのまま使うしかないので仕方ないが、カクカクとしたCGの動きは少し脱力してしまう。映画のためだけに特別にCGを起こすのは世界観を壊しかねないが、工夫次第ではもう少し豪華な絵面にできるのではないか。
2000円近く払う価値があると思わせる映像づくりは今後の日本映画の課題だと思う。