エンテベ空港の7日間 : 映画評論・批評
2019年10月8日更新
2019年10月4日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
複雑怪奇なテロ事件をソリッドにまとめ上げた、掛け値なしの問題作
まず声を大にして「ふざけるな!」と言いたい。映画に対してではなく、映画批評サイト「ロッテントマト」に対してである。傑作「エリート・スクワッド」二部作の、そしてNetflix「ナルコス」の鬼才ジョゼ・パジーリャの最新作の満足度が24%だと? 映画は他人の評価で測れるものではないし、人の好き嫌いはジャッジするものではないが、それにしてもこのハイクオリティでこのスコアはないだろうよ!
本作は1976年に起きた「エンテベ空港ハイジャック事件」の映画化だ。イスラエル発パリ行きのエールフランス機がパレスチナ人とドイツ人からなるテログループにハイジャックされ、ウガンダのエンテベ空港に着陸。細かい経緯をすっ飛ばすと、イスラエル政府が特殊部隊を派遣して空港ターミナルを襲撃し、100人以上の人質を強引に救出したのだ。
世界を騒然とさせたこの事件は過去にも3度映像化されている。そして40年以上を経て改めて描き直すにあたってのパジーリャの狙いは三つ。可能な限り史実に即し、正確を期すること。イスラエル政府内の水面下での政治的駆け引きを描くこと。そしてテロリスト側である犯人グループの内面に踏み込むことだ。
実はひとつ目と三つ目は互いに矛盾する。犯人グループは全員殺害されているので、彼らの心情を“正確に”描くことなど不可能なのだ。しかしパジーリャと脚本家のグレゴリー・パークは、状況証拠や当時の世相から類推することで、あえて犯人たちの心理ドラマを探求することに決めたのだ。
こんなシーンがある。ロザムンド・パイク扮するドイツ人活動家、ブリギッテ・キュールマンが機内を制圧している時に、乗客のひとりがためらいながらも指摘する。「ブラウスのボタンが外れていますよ」と。
ほんの些細な描写だが、その瞬間、犯人と被害者、脅す側と脅される側の垣根が一瞬だけ消える。テロもハイジャック行為も許されることではないが、確かにそこにいた人々の人生が、想いが、それぞれの立場を超えて邂逅する瞬間が確かにあるのである。
最初に“ハイクオリティ”と書いたが、本作は実にソリッドに、複雑怪奇な事件を107分にまとめ上げている。その手腕だけでも賞賛に値するにもかかわらず、極端に評価の点数が低いとすれば、この映画にはある種の人たちにとって、感情的に承服しがたい、どうしても呑み込むことができないゴツゴツした何かがあるのだろう。つまりは掛け値なしの問題作であり、ぜひ、その問題の在処を探しに劇場に出かけて欲しい。
(村山章)