「太古から続く変化の一瞬と変わらぬもの」ワイルドライフ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
太古から続く変化の一瞬と変わらぬもの
1960年代、まだまだ男は男らしく、女は女らしくという時代だ。
父ジェリーが男らしく家庭を守ることは己のプライドを守ることと同じだ。
失敗続きでどん底になりそうな時、山火事を消しにいく仕事は最後の希望に見えたに違いない。
一方、母ジャネットは、失敗続きのジェリーにずっとついてきていたのは、女は誰かに依存しないと生きていけない時代だったからだ。
家族がどん底になりそうな時、よりによってジェリーは山火事を消しにいくという。それを受けてせめて自分と息子のジョーだけでもと、新たな依存先を探すことになる。
ジャネットにしてみれば、薄給で命の危険もある山火事の仕事に着くジェリーは頭がおかしくなった(タイトルにもなっているワイルドライフ)と思っただろう。
ジェリーにしてみれば、薄給とはいえ仕事に行っている間に他に男を作るなんて頭がおかしくなった(やっぱりワイルドライフ)と思っただろう。
現代でも通じる単純な男女の考え方のズレだ。
ある程度交際などを経験していれば、男ってよくわからない、女ってよくわからない、という感覚はあると思う。
私は男なので山火事を消しに行く、愚かに見えるかもしれない行為になんとなく理解を示してしまうし、私には理解しにくいが、女性ならば、アホな男に見切りをつけて生き残る道を模索するジャネットを理解できるのかもしれない。
そんな両親を主人公のジョーが見つめる物語。
60年代の男らしさ女らしさから少しだけ脱皮するように、父に薦められているフットボールを辞め写真店で働き始める。
ジェリーがフットボールを薦めるのは男らしいからだろうし、それを向いていないからと、ジェリーが考えるような男らしさにとらわれず辞められることに新たな世代を感じさせる。
それは現代まで続く小さな変化一つだと言えるだろう。世代を越えるごとにバージョンアップされていく地続き感が良い。
一方で、父の愚かさを見せるために山火事が見えるところまでジャネットはジョーを連れ出したが、そこでジョーは父に対して共感を示す。
男らしさや女らしさとは違う、感覚の違いはあるというバランスの取り方も良かった。
14歳というのは、両親の間で起こっていることが理解できる程度に大人で、2人の好きにしたらいいと思えるほど大人ではない微妙な年齢だ。
喧嘩しないで、離婚しないでと泣きわめけるほど子どもでもなく、素直に受け入れられるほど大人でもない。
それがラストの三人並んでの写真撮影に表れていたように感じた。
ジョーにとって二人は離婚してしまっても父と母に変わりはないのだから、子どもっぽい望みを大人の手段で叶えるたと言える。
物語としてはバッドエンドかもしれないが、ハッピーエンドだったと思えるほどに素敵なシーンだったと思う。
新世代のジョーが旧世代の両親との変わらぬ一瞬をカメラにおさめるのは、作品全体を捉えた一瞬と同じようにも思える。