「恵まれた高校生の死の謎に迫る」ホームステイ ボクと僕の100日間 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
恵まれた高校生の死の謎に迫る
自殺した高校生ミンの体に「ホームステイ」しているボクが死の理由に迫るサスペンスであり、青春コメディのようでもある。
デジタルの恩恵を最大に活かしたいくつかの映像は見所で、映画として娯楽度は高めだ。
死を扱う作品でありながら暗くなりすぎないのはいい。特に前半は本当にただの青春コメディで陽気だ。
オチ的にも内容的にも暗くなりすぎるのは間違いだろうからこのバランスはいい。
ボクがミンの体で小遣いが多く喜ぶところが目を引く。学校では優等生の先輩パイといい関係になれそうだ。そして同級生からも好意を寄せられているようでもある。ここだけ切り取ってみると、つまらないアニメの主人公のような恵まれた高校生だ。
後にミンの死の理由が分かってきたときにボクは「こんなの誰だって死にたくなる」と言うが、本当にそうだろうか?
冷静に考えて死ぬようなことか?自分の存在を全て消したいと願うほどのことか?
父親は売れないサプリメントを作り、母親は余所に男を作る。こんなこと高校生のミンには直接関係ないことだ。ミンが悩むようなことではない。
嫌いだと思っていたドリアンを先入観がなければ美味しく食べられたように、死にたいと思う気持ちは単なる思い込みなのではないか。
自分を客観視することの難しさと、客観視できたときに現れる己の思い込みの激しさについて。そんな物語だった。
それはパイにも同じことがいえる。
優秀な成績を修めなくてはならない。オリンピックに出場しなければならない。そんな気持ちは死ななければならないと信じたミンと変わらない。
今が最大幸福でなければ人生が終わってしまうかのような若者らしい視野の狭さが実に青春って感じなのだ。
大人の目から見れば「どうでもいいこと」でも本人たちには大問題なのだろう。誰もが通る道であるから、それを否定する気はないけれど、それで死を考えてしまうところ、そして実行してしまうところが実に現代的。
自分の死で自分が楽になることしか考えない。そのくせ自分の死でダメージを与えられると信じている。
自分中心に世界が回っているわけではないと気付くタイミングの高齢化はある種の社会問題のような気もする。