劇場公開日 2020年10月2日

「冷静で丁寧」浅田家! アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0冷静で丁寧

2020年10月4日
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鑑賞方法:映画館

実在の写真家・浅田政志さんの実話をベースに構成された映画だという。家族によるコスプレ写真集は実在しているので,映画に出てきた写真と比べてみると実にソックリで,よくここまで寄せて撮影したものだと恐れ入ってしまう。写真の存在価値は何かと突き詰めてみれば,時を切り取って後で見返せるものと言えるのではないだろうか。最も実用的なものは遺影であろう。撮り直しがきかない写真ほど貴重なものはない。

前半は,主人公が写真家として認められるまでをコミカルに描いている。アイデアは面白いし,撮影の苦労話も丁寧に描いてある。伝わる人にしか伝わらないという商業写真の難しさもしっかり描かれている。家族写真は家族の思い出の最たるものである。だが,家族というのは馴れ合いではない。辛いこともまた家族には付き物であり、その最たるものが家族の闘病や家族との死別である。やりたい放題の次男という設定はまあいいが,家族の誰かが病気で倒れた時まで他人任せでやりたい放題でいいのだろうか?という疑問が消せなかった。

東日本大震災の後の話は,決してこの映画のメインではなく,あくまでエピソードの一つという扱いであり,大震災ネタを期待していくと少し肩透かしを食らう。泣かそうと思えばもっとあざとく撮ることもできたはずだが,東北人として物足りなさを感じるほど淡々としている。前半とのバランスを考えた結果なのかもしれないが,個人的にはもう少し泣かせて欲しかった。それでも十分泣かされたのだが。

大震災の風景はセットで再現したのだろうか?引きのアングルのは CG かも知れないが,既視感が半端なかった。基礎だけになった家の風景は,東北の太平洋岸にいくらでもあった。亡くなった人の喪失感は,一人でも大変なものなのに,それが一度に何千人も出てしまったのである。あの時の日本人として言い知れない痛みを,私は死ぬまで忘れることがないだろう。そこに踏み込むかどうかで,映画の質は大きく違ったはずであるが,この映画では当事者ではないという姿勢を貫いている。

役者は,二宮と妻夫木は流石に実力者だと思わせたが,彼らに増して素晴らしかったのが黒木華と菅田将暉である。どちらも,オーラを封印して引き立て役に徹していたのが見事で,しかしながら自分の見せ場だけはしっかりハマっていて感服させられた。風吹ジュンも演技の幅の広さに感心した。北村有起哉も出番は僅かだったが印象的であった。彼の役は当事者であるので,もっと踏み込んだ演技でも良かったのではないかと思う。

演出はいずれの場面でも客観的で,非常に冷静だったのが印象的であった。これが人によって物足りなさを覚えたりする原因かも知れないが,とにかく丁寧だったのは褒めるべきだと思う。東北人は,見ておいて損はないと思う。
(映像5+脚本3+役者5+音楽3+演出4)×4= 80 点。

アラ古希