「明確なテーマ性と若者たちへのメッセージ」五億円のじんせい R41さんの映画レビュー(感想・評価)
明確なテーマ性と若者たちへのメッセージ
冒頭に登場する女子中学生が自殺しようかという場面で、主人公の声でナレーションが入る。その瞬間、この作品の方向性が示される。
それは、生きる意味 自分の価値についてもう一度考えてみようとこの作品は提案している。
女子中学生のセリフ「死ぬって、最強じゃないですか」「生きていれば嫌われるけど、死ねば愛される」は、多くの若者が共感する言葉なのかもしれない。
主人公のそもそも愛される人間性がこの作品のプロットを作っているが、一般的にはトオルのような人物や自殺願望のある少女のような性格の人物が主人公の中にないと、どうしても絵に描いた餅のように見えてしまう。
主人公は、
なりたくてなった病気じゃないし、何だかんだで5億円が集まって、アメリカで心臓移植手術が成功し、そうして11年が経ってもなお毎年のようにTVで特集が組まれ、「望来」という人間像が「作られて」いく。「僕の人生は偽物 凡人 クズ…」
「嘘つき」
SNSで「キヨ丸」という謎の人物から届いたメッセージ。
望来の本心を次々に言い当てられる。彼は「全部ボクが望んだことじゃない。どうしろっていうんだ」と反論するが、そもそも嘘の自分像を世間に言い続けてきた苦しさから逃れるため、自殺を決意し家を出た。
しかしキヨ丸からの追及は止まらない。
そして5億円稼いでから死ぬことにした。
このプロットも、主人公の性格に依存しなければ成り立たず、すぐ乗せられてしまうことが特殊詐欺のメンバーに加担させられるという人生の落とし穴にもはまってしまう。
路上生活者の話と、彼への信頼、嘘をつく隣の路上生活者。
彼の言葉はその通りだ。人生で出会うきついお灸だ。それは確かに人生勉強だった。
キヨ丸も登場人物に関係しているはずだと思っていたが、まさかアスカの妹アキラだったとは思わなかった。
しかしアスカがアキラに託したという話からは、ピンポイントで病院の屋上に望来が来ることは予想できないと思うが、アキラ(キヨ丸)の思いは、まったく望来には伝わってなかったことは理解できた。そのためにそこに来た。ただそれが年下の女の子があたかも望来を操るようにしていたという設定は微妙だった。
「もういいだろ。俺は5億稼いだ。だからもういいだろ」このような望来の考えをおそらくアキラは読み切ったのだ。合図になったのが彼女に渡されたコインロッカーの暗証番号だ。
このシーンのアキラのセリフに作品が若者に伝えたかったメッセージがあった。
「自分で考えろ。自分で探せ」
望来は「探してから死ぬよ」と答える。
路上生活者の嘘がこの後出てくるが、この「騙された悔しさ」こそ、人生で必ず起きる物語だろう。
そのようなエッセンスを散りばめたのは若者にとってもいい情報だろう。
教訓のような教育のような作品で、面白さと現実の厳しさも教えているのに嘘はないと思う。
ただ同時に若者は、「優しくしたくなるヤツ」と、「優しくしたくならないヤツ」を分類したくなる。ここにこの作品の見落としがあるような気がしてならない。