屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ : 映画評論・批評
2020年2月11日更新
2020年2月14日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
孤独な殺人鬼の異常な日常。あまりのアンチ丁寧な暮らしぶりに戦慄が止まらない
殺人鬼が主人公ではあるが、スラッシャーとはだいぶ毛色が違う。これは、フリッツ・ホンカという男の日常を描いた作品である。屋根裏の部屋に1人で暮らし、暇があればバーで飲み、また部屋に戻る。他のキャラにフォーカスする場面もあるが、基本的にはこの繰り返しで話が進む。ここまでならただのダメな男の生活風景だが、普通の人とは明確に異なるところがある。この男は完全に自制心のブレーキがぶっ壊れており、衝動的に人を殺してしまうのだ。目を付けた女性を酒の勢いで家に連れ込む。そこで反抗されると、ブチ切れて殺す。彼の殺人には計画性もへったくれもない。後先考えずに殺し、とりあえず死体を解体して壁の奥に隠して、そのまま放置する。この最悪のルーティーンが、彼の日常の中に組み込まれている。彼の生活と殺人が地続きで、切っても切れない関係になってしまっているのだ。この異常な日常が、本当に彼の当時の姿をそのまま切り取ったかのような演出で淡々と描かれており、それが余計に恐ろしさを生み出している。
ホンカが最悪野郎なのは間違いないのだが、悪意100%で害を与えるというよりは、人恋しさが大暴走して明後日の方向にいってしまうように見えて、そこに恐ろしさと同時に哀しさも感じる。人に飢えているが、行動の結果出来るのは友人や恋人ではなく、死体の山というのが誰にとっても不幸だ。ホンカの日々の行動を通して、彼のピュアだけど捻じれ切っているような人間性が見事に表現されている。また、バーにいる面々もホンカ同様に鮮烈な印象を残す。全員が画面の奥で本当に生きているかのようだ。
暴力シーンも淡々としており、それゆえに異様に生々しい仕上がりとなっている。行き当たりばったり感満点な殺人は正に地獄絵図。画面越しにホンカの部屋から死臭が漂ってくる錯覚すら覚える。あまりのアンチ丁寧な暮らしぶりに戦慄が止まらない2時間。体力があるときに鑑賞するのをお勧めしたい。