「ライフ・イズ・スエニート」イン・ザ・ハイツ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ライフ・イズ・スエニート
そこはNY、ワシントン・ハイツ。
この町で移民の両親が遺した小さな商店を営む気のいい青年、ウスナビ。一風変わった名前の由来が笑える。
ウスナビの陽気。
町の人々や町そのものの陽気。
照り付ける陽気。
踊り、歌わずにはいられない。
町中の音も“音楽”になって。
躍動感に満ちた圧巻のOPパフォーマンス。
これぞミュージカル!
今年だけでも本作と『tick,tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!』『ミラベルと魔法だらけの家』の3本。
今やミュージカル界に欠かせない存在になったリン=マニュエル・ミランダ。
そんな彼の代表作である傑作と名高いブロードウェイ・ミュージカルを、自身の製作/原作/作詞/作曲で映画化。
初監督を務めた『tick,tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!』も良かったが、開幕の楽しさはこちら!
他にも魅力的なミュージカル・シーンの連続。
先述したが、開幕の話題の8分に及ぶ群衆ダンス。
名門大学へ通っていたニーナの帰り。美しい独唱。
ウスナビが想いを寄せるヴァネッサ。彼女もまた美声。
開幕に負けず劣らずのプールでの群衆ミュージカル。
同じく、突然町を襲った大停電とある不幸を乗り越え、皆が、町が、歌い踊る。物語的にも最高のハイライト。
でも個人的にお気に入りは、ニーナと恋人ベニーが、アパートの壁を重力を無視して踊る本作随一のファンタスティックでロマンチックなシーン。
時にはウキウキ楽しく、時には美しく、時には切なく、時には勇気付けられ、ミュージカルの醍醐味たっぷり!
しかし、ただ『マ○マ・ミ○ア!』のようにノーテンキなだけじゃない。
登場人物はラテン系移民の子たち。
夢を抱き自由の国にやって来たものの、差別や格差に苦しむ。
町の希望だったニーナは大学で孤立。差別扱いも。
“子供たち”全員のアブエラ(=祖母)はその昔アメリカに渡った時、多くの苦難を経験。
低所得。都市開発によって住む場所さえも奪われる。
差別と格差、彼らの苦難は今も尚続く。
ミランダと、監督のジョン・M・チュウ。彼らも移民の子。
彼らの問いが聞こえてきた。
アメリカン・ドリームとは…?
ミュージカルは好きじゃない。
アメリカの人種問題はよく分からない。
だからと言って、敬遠するには勿体なさ過ぎる。
この町で育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニー。
町を愛しながらも、“故郷”に帰る事を夢見るウスナビ。
服飾デザイナーを目指すヴァネッサ。
大学に通う事を悩むニーナ。
彼女の父親が経営するタクシー会社で働くベニー。
それぞれ、夢を見、抱き、躓き、挫け、それでも…。
大切な人。大切な存在。
家族。故郷。
それらへの思い。
ウスナビとヴァネッサ。
ニーナとベニー。
若者たちのラブストーリー。
等身大の青春、恋、普遍的なテーマや物語は誰の心にも響く。
喜怒哀楽、見事体現したフレッシュな逸材たち。
『アリー/スター誕生』で主人公の理解者役で思い出したが、確実に本作で大ブレイクのアンソニー・ラモス。
歌もイケる!踊りもイケる!普段男優には滅多には使わないが、笑顔も魅力的。なるほど、舞台の頃からのミランダの秘蔵っ子な訳だ。
そして、二人のヒロイン。レスリー・グレイスとメリッサ・バレラ。
共に美人でセクシーで、もうメ~ロメロ!
ホットな若者たちもいいが、そんな彼らを年長者を支え包み込んでくれてこそ。
舞台からアブエラを演じているというオルガ・メレディスが泣かせてくれる。
自分の夢、人それぞれの夢。
町の外にある。この町にある。
それは誰が決められるもんじゃない。
自分で決める。
どんな逆境、苦難、差別、格差、不幸、悲劇があっても。
夢を諦めない。
ここは大切な場所。
音楽と歌が満ち溢れている。
愛する人たちと共に。
スエニート=小さな夢。
でも人生は、最高の日々。