劇場公開日 2021年7月30日

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イン・ザ・ハイツ : インタビュー

2021年7月28日更新

アンソニー・ラモスはNextウィル・スミスジョン・M・チュウ監督が太鼓判を押す理由

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リン=マニュエル・ミランダがブロードウェイで演じた役を、彼自身から任される。そんな光栄を得たのが、アンソニー・ラモスだ。

ラモスは「ハミルトン」に、ミランダの息子役で出演。また地方公演の「イン・ザ・ハイツ」にソニー役(映画版ではグレゴリー・ディアス4世が演じる主人公の従兄弟)で出演したこともあった。彼の仕事ぶりを目の前で見ていたミランダは、映画版「イン・ザ・ハイツ」のウスナビにはラモスしかいないと信じるようになったのだ。(取材・文/猿渡由紀)

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「10年前にオーダーしたスーツを見て、今は自分じゃなくてあの人にぴったり似合うなと思う、そんな感じ。アンソニーは僕よりこの役に適していると僕は確信した。彼をジョン(・M・チュウ監督)に紹介するのが楽しみだったよ」と、ミランダは語る。いざ、ふたりが顔合わせをした時、ふたりは感動で涙を流したのだそうだ。「会った瞬間に、彼こそウスナビだと思ったから」と、ジョンはその理由を述べている。

プエルトリコ系アメリカ人のラモスにとって、メジャースタジオのミュージカル映画の主役を飾るのは、信じられない出来事。幼い頃からミュージカル好きだったが、映画やテレビで見る作品に、自分のようなタイプが出演していることはまずなかったからだ。

だが、「イン・ザ・ハイツ」のウスナビは、まさにラモスのような人が求められる役。ウスナビは、ニューヨークのワシントン・ハイツに住む移民の青年。小さな食料品店を経営するが、心の中にはひとつの大きな夢がある。そんな彼にはちょっと気になる女性もいて、ややいたずらっ子の年下の従兄弟ソニーが、彼女とのデートのきっかけを作ってくれる。彼を取り囲む同じくラティーノの人々も、みんな温かい。暑い夏の数日を舞台にした今作は、恋愛、家族愛、コミュニティ愛に満ちたヒューマンストーリーなのだ。

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「『ウエスト・サイド物語』は良い作品。音楽も、コレオグラフィーもすばらしい。でも、あの映画でプエルトリコ系を演じている俳優はプエルトリコ系ではなかった。僕みたいな人を映画で見ることはなかったんだよ。学校で演技と音楽を学んでいる時には『回転木馬』などいろんなミュージカルの歌を練習したけれど、結局、そういう作品に僕が出してもらえることはないんだろうと思っていた。オーディションを受けても、回ってくるのはステレオタイプな役ばかりだったしね。自分が主役をやらせてもらえることなんて一生ないと思えたんだ」と、ラモスは過去を振り返る。

しかも、今作では、歌とダンスの才能を思いきり披露することができるのである。やはり音楽映画である「アリー スター誕生」にもレディ・ガガの友人役で出演したが、あの映画ではそのチャンスがなかった。今作は最初から最後までラモスが出演。数多くのナンバーを、さまざまな状況で、自分と同じラティーノの共演者に囲まれながら歌って踊ってみせる。

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「実は僕の母や妹も出ているんだ。妹は、オープニングナンバーのダンスシーンで、僕のすぐそばで踊っている。この興奮は言葉で表せないよ。この映画を、僕のコミュニティの人たちだけじゃなく、世界中の人たちに見て欲しい。君の国の人たちにもね。世界にはプエルトリコがどこにあるか、知らない人も多いと思う。僕の家族はプエルトリコから来たんだと言って、『どこ?』と聞かれたこともあるよ。この映画がきっかけで、やっと人々はプエルトリコがどこにあるか気にしてくれるだろう。少なくとも、僕はそう願う」。

映画の後半には、中南米の国の旗がすべて並ぶ、ラティーノ文化の究極のセレブレーションと言えるナンバーもある。そのシーンを撮影した日は、みんなが興奮し、「カット」の声がかかっても、誰もダンスをやめなかったほどの盛り上がりだったそうだ。そんな映画の監督を務めたのがアジア系のチュウであることに、ラモスは何の抵抗も感じなかった。

「ハートに人種の違いはない。彼のハートは、この映画の精神にぴったりだった。彼は最も正しい人だったんだ。ジョンは、僕が人生で出会った中で、最も謙虚で優しい人のひとり。ラティーノ文化の細かいディテールについて、彼はたくさん僕らに質問をしてきた。テーブルのセッティングはどうするのが正しいのかとか、食卓に並ぶ料理とか。彼はできるだけこの映画を僕らの日常に忠実にしようとしてくれたんだよ。そして彼はいつもみんなの意見に耳を傾ける。そこにエゴはなく、一番良いアイデアが採用されるんだ」。

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ミランダのクリエイターとしての、またリーダーとしての優秀さにも、ラモスはあらためて感心させられたという。「イン・ザ・ハイツ」はミランダが生み出したものだが、彼はチュウ監督にしっかり任せつつもでしゃばらず、頼れるコラボレーターとして手助けをしていたというのだ。「リンは俺様タイプじゃないんだ。人の邪魔をしない。そこが賢い」と、ラモス。

「リンは天才。だが、才能があればその人は天才だというのは誤解だ。才能だけでは天才になれないと僕は思う。彼は、ストーリーを進めるために、あえて前より知的ではない歌詞に変えることだってする。そのほうが作品のために良いから。それに、リンは全員が輝けるように配慮して書く。この映画では、みんなにハイライトがある。ひとりだけじゃなくて。だからみんながこれは自分の映画だと感じるんだよ。彼はチームプレイヤー。彼は地上で最高に才能豊かな人だが、最高のチームを結成することにも優れている」。

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尊敬するのはお互い様で、ミランダも、チュウも、ラモスのことを絶賛する。チュウは「アンソニーこそ次のウィル・スミス」とまで言うほどだ。「アンソニーは、歌えるし、踊れるし、演技力もある。ロマンチックなこともできるし、ファニーなこともできる。この地上で起こり得ることは全部できるよ。それに彼は仕事熱心。みんなに対して優しく、エゴがない。世界が今、彼を発見してくれることを嬉しく思うよ」。

事実、これからラモスのキャリアが大きく花咲くのは間違いない。彼が現在撮影しているのは、「トランスフォーマー」シリーズ最新作「Transformers: Rise of Beasts」。しかも、主役だ。これまでシャイア・ラブーフやマーク・ウォルバーグが担ってきたこのシリーズの主役を、ラティーノの彼が引き継ぐのである。北米公開は来年6月。だが、そこまで待てない人には、現在日本で公開中の「ファイナル・プラン」がおすすめだ。リーアム・ニーソン主演のアクションスリラーで、ラモスが演じるのはなりゆきで悪いことに加担してしまう刑事。罪悪感、迷い、不安、恐怖など、感情表現の見せ場がたっぷりある。

チュウの言うとおり、ラモスは次のウィル・スミスになるのか? これからの活躍を、ぜひ見守りたい。

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インタビュー2 ~リン=マニュエル・ミランダ&ジョン・M・チュウが語り尽くす「イン・ザ・ハイツ」製作秘話

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