「理解はするが共感はしない、これは幸せなんだと思う」ジョーカー 木神さんの映画レビュー(感想・評価)
理解はするが共感はしない、これは幸せなんだと思う
一般人化したジョーカーを主役に、腐敗した社会と貧困問題を取り上げた社会風刺映画。社会風刺は基本興味ないが、ジョーカーというキャラが好き、名作感にあふれる予告にホアキンが主演は趣味外でも大いに惹きつけられる要素だったので劇場鑑賞、結果アメコミ特有の派手アクションは無いものの見応えとカタルシスに溢れる名作であった。
本作を傑作と評するのも頷ける、全体的に陰鬱で何度も通して見るのは精神的にキツイが後半のジョーカー完堕ち後の階段下りは、作中屈指の気分爽快シーン。この階段は主人公の帰路で何度か見るが、堕ちる前は辛そうに上っていくのに対し、堕ちた後は一転してノリノリで明るい曲をバックに、煙草をくゆらせながら心底楽しそうに踊り下っていく。悪堕ちのはずが、まるで祝福してるように見える演出は最高に皮肉が効いていた。
もっとも堕ちる布石と降りかかる不幸の数々をこれでもかと見せられた所にこの描写は『今が楽しくて仕方ないんだろうな・・・』と納得しかない。それはグラディエーターの腹立たしいクズ皇帝を演じきったホアキンの技量も大いに貢献している思う。
痛ましい痩躯に病気で起こる苦しそうな笑い、懸命に母の世話をするいじらしさ、徐々に精神を蝕んで生まれる狂気、衝撃の事実を知り全てに絶望し咽び泣く姿、終盤の本心からの笑いとコメディ的逃走劇・・・ジョーカーを熱演し急逝したヒース・レジャーの件も含め、最後までよく演じれたなと恐怖を覚えるほど鬼気迫る演技だった。
加えて話の構成も社会問題を提唱しつつ、現実と幻覚が混ざり合った出来事を伏線にしラストで従来のジョーカーらしさを含ませた締めくくりには成程ねぇ!と唸らされた。このオチは虚言癖のキャラだからこそ相乗効果を生んだが、普通は禁じ手に近い。この起用キャラの特性とジャンルの混ぜ合わせの巧さにもじわじわと感心してしまう。
所で本作を観て共感した人が多い事に驚かされた。同じ状況に陥ったらと想像すると彼の選択も仕方ないと理解はするが、共感するほど社会や人に不満を感じた事はない。これ自体は幸せだと思うが、もし少数の考えなら今の社会はかなり危ういのかと少々不安を覚える…ゴッサムシティな日本は勘弁してほしい、まず生きていく自信は無い。