「父さん、母さんになろうと思う。母さんって呼んでいいぞ。」おいしい家族 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
父さん、母さんになろうと思う。母さんって呼んでいいぞ。
トランスジェンダーとかでもなく、女装癖とかでもなく、ただ「母」なろうとする父の話。そんな恰好をしなくたって母親の役目はできるだろうけど、より「母」近づこうとする努力。愛って、女とか男とか、恋とかセックスとか、そうものとかにとらわれることなんてなんもなくて、ただそばにいたいって感情なんだと思えた。カズオは「いろんなものをなくした俺たちに愛だけをくれた」と言って穏やかに笑う。そんな、仰向けの犬が腹を見せて甘えるような無抵抗感。そういう愛を持ちえた父だと気づいたからこそ、父さんの「いいんだなんでも。生きていればそれでいい」の言葉が橙花の心にドカンと響いてくるんだろうな。
多様性を受け入れるのは、愛。そして人間、食うことで感情がリセットできることがある。おいしいものならなおさらだ。お母さんになるって、つまり母性愛で家族を包んであげますよ、って宣言なんだ。女装の中年男が周りに違和感なく溶け込んでいるのがはじめはシュールに見えたのだったけど、最後にはそのどこが変なのかさえも感じなくなっていた。つまり、見ためなんてそのくらいつまらないこだわりなのだ。
結婚式。入り江じゃなくて大海をバックにしたラストショットが実にいい。狭い世界から、大きな世界に解放された気分になれた。この映画は、自分の環境につまずいているいろんな人々へのエールだね。
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