「罪深き人間を神の怒りから救い出してくれるのは、次の世代の子供たち。命を繋ごう。」魂のゆくえ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
罪深き人間を神の怒りから救い出してくれるのは、次の世代の子供たち。命を繋ごう。
心に傷を持つ牧師が、信仰と現実の狭間で苦悩する様子を描いたサスペンス・ドラマ。
主人公であるトラー牧師を演じるのは『ビフォア』三部作や『ガタカ』のイーサン・ホーク。
トラー牧師に夫のことを相談する妊婦メアリーを演じるのは『マンマ・ミーア!』『レ・ミゼラブル』のアマンダ・セイフライド。
第84回 ニューヨーク映画批評家協会賞において、脚本賞を受賞!
第24回 放送映画批評家協会賞において、オリジナル脚本賞を受賞!
非常に宗教色の強い作品。
主人公は信仰心に篤い牧師さん。ちなみに神父はカトリック、牧師はプロテスタント、らしい。カトリックとプロテスタントの違いはよく分からん。
イーサン・ホーク演じるトラー牧師は、戦争で子供を亡くし妻とは離婚。心に傷を負い酒浸りの日々。身体は病魔に蝕まれている。
イーサン・ホークが演じるキャラクターは大体いつもこんな感じ。ちょっと暗めの顔面のせいかしら。
ちなみに、牧師さんは結婚出来る、神父さんは結婚出来ない、らしい。
心に傷を負った男が、ある女性との出会いによりテロリズムに走る…?
これ『タクシードライバー』にそっくりじゃん!
主人公は日記をつけてるしっ!鏡の前でポーズ決めるしっ!パクリか!
…とおもったら、本作の監督は『タクシードライバー』の脚本家さんだった。なるほど、納得。
はっきり言って『タクシードライバー』の焼き直し。クライマックスでテロを踏みとどまる所まで同じ。
とはいえ、本作では信仰と環境破壊の狭間に揺れる牧師というわかりやすい軸があるので、『タクシードライバー』よりも共感しやすい物語になっている。
キリスト教徒でない人でも、トラー牧師の心境は十分に理解できると思う。
なにより、信仰と環境破壊という形ではないにしろ、何かしら理想と現実のギャップに悩んでいる人にとっては、トラー牧師が身近に感じるんじゃないだろうか?
物語的にもBGM的にも静かな映画なので、前半はかなり退屈🥱
しかし、物語が進むにつれてだんだんとサスペンス的な要素が増えていく。BGMも不安を煽るような低音がブーンと響くようになる。
後半はどんなクライマックスになるのか気になって目が離せなかった。
メアリーの旦那から取り上げた爆弾ジャケットが、こんな風に物語に絡んでくるのか!と素直に感心しました。
よく出来た物語だが、演出が今ひとつなところも多々ある。
トラー牧師とメアリーが「マジカル・ミステリー・ツアー」をする場面は、あまりにもぶっ飛んでいて笑っちゃった。心象風景だということは分かるがもうちょっとなんとかならなかったのか…😅
あとクライマックスねー。凄く唐突に終わるのは結構好きだったんだけど、キスシーンが迫真すぎて…💦
全体のトーンと合ってないからなんかギャグシーンみたいになってた。
牧師の有刺鉄線、メアリーにも刺さるんじゃない?とかいらんことが気になってしまった。
つまらない映画っていえばそうなんだけど、割と嫌いじゃない。むしろ結構好きな映画かも。
心身ともに深く傷ついた男が、どうしても納得出来ない物事に対し怒りを燃やし、ついには我が身を擲つ暴走を起こす…。こういう設定、好き。
トラー牧師は最後、自らの体を有刺鉄線で痛めつける。あれは明らかにイエス・キリストの茨の冠。
トラー牧師は人類の罪を背負い、信仰に身を殉じようとするが、メアリーの登場により思い止まる。
トラー牧師はイエス・キリストのように命を捧げなかった。つまり、トラー牧師がイエス・キリストを表しているわけではないのである。
メアリーは名前からも分かる通り聖母マリア。
となると、トラー牧師はヨセフを表していることになる。これはトラー牧師の亡くなった息子の名前がジョセフだったことにも暗示されている。
つまり、メアリーのお腹の中にいる新しい命こそが、救世主たるイエスなのである。
人類の傲慢さ(プライド)は環境破壊を引き起こした。
映画のセリフの通り「絶望はプライドが生み出す」のである。
聖書に記されている「神の怒り」は間近に迫っている。しかし、それから人類を救う救世主は、暗い時代に産み落とされる新しい世代に他ならない。
次の世代へ、命のバトンを繋いでいくことへの希望が、強いメッセージとして映画に込められており、観賞後胸がすく思いだった。
宗教色が強いので飲み込みづらいところはあるが、観るべき価値のある一作!
『タクシードライバー』ファンには特にオススメ!
※原題は「First Reformed」。「Reformed」は「改革派教会」を意味するらしい。プロテスタント教派のうち、カルヴァンの思想を汲む教派の教会を指す。ルター派だのなんだのと、ややこしすぎてさっぱり分からん。