台風家族 : 映画評論・批評
2019年9月3日更新
2019年9月6日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
シニカル&コミカルに描き出す「家族あるある」。底にあるのはヒューマニティー
「箱入り息子の恋」の市井昌秀監督の新作。クズな一家、という宣伝文句から、もっと犯罪絡みのえげつない極悪一家の話かと思ったが、かなり違ってた。親の“葬儀”に集まったきょうだいたちが繰り広げるドタバタは、意外に普通の「家族あるある」なのだ。
10年前に老年にして銀行強盗をし、2000万円を持ったまま行方不明になった父(藤竜也)と母(榊原るみ)。長男(草なぎ剛)、長女(MEGUMI)、次男(新井浩文)、三男(中村倫也)は世間の避難を浴び、それぞれに人生を変えられていた。10年経ったいま、彼らは区切りを付けるために親を弔うことにし、遺体なき葬儀に集まる。財産分与でもめたり、暴露話で険悪になったり。そんななか、驚きの事実が浮かびあがる――。
父の起こした事件で人生を狂わされた4人だが、うらみぶしや暗さはなく、財産分与という生々しい話題もシニカルでコミカルだ。きょうだいたちが知らなかった老親二人の暮らしぶりや、父が事件を起こした理由などには現代社会の事情が絡み、ホロリとすらさせられる。
「箱入り息子の恋」もそうだったが、市井監督は微妙に「いや、それはないでしょ(苦笑)」という要素をあえて入れることで、物語を構築するタイプのようだ。今回はラストに大きな「それ」が隠されている。「家族」を描くことを好み、役者選びのセンスがいいのも特徴か。元・お笑い(漫才)出身で、小説版は奥さまと共同名義で執筆しているそうで、ふと脚本家・木皿泉氏の世界への近似も感じた。
新井浩文氏の登場シーンも再編集なし。さまざまな事情をかんがみつつ公開に踏み切ったのは、この映画の底にあるものがヒューマニティーだ、という理由に他ならないだろう。
(中村千晶)