劇場公開日 2019年9月27日

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「ずっと胃が痛かった」宮本から君へ キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ずっと胃が痛かった

2019年10月21日
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原作もドラマも見ず、「熱量の凄い映画」という前評判だけを理由に劇場へ。

比較的私の苦手な俳優(池上壮亮とか佐藤二朗とか)が顔を揃えていて、比較的苦手な感情(怒りや泣きわめく)を登場人物がむき出しにして、比較的苦手な分野の出来事(家族や性暴力)が物語を引っ張っていくという、個人的には観ているのが辛くてたまらない映画だった。

で、映画館を出て振り返る。
何がそんなに辛かったのか。

おそらく、感情やエゴをむき出しにしてぶつけ合うことをそもそも私自身が「嫌い」だからなんだと思う。
加えて、ドラマの登場人物といえば「大声を出す」「怒鳴る」「泣く」「まくしたてる」といった行為で感情表現をするのがお決まりのスタイルという定型への嫌悪もある。

でもこの映画ではむしろ、それがより高いエネルギーで畳み掛けられる。
そして劇中、康子が宮本に放つセリフで私は思い知る。
「ビビってんじゃねーよ!」
そう。登場人物の感情のぶつけ合いが見ていられないのは、私自身がいつも感情表現を「ビビってる」から。それを上映129分エンドロールが終わるまでずっと突きつけられる。

かといって、この映画がエゴをぶつけ合うだけの作品かというとそうじゃない。
ラストシーンの弱々しい宮本の姿には「うわ、やられた!」って感じになった。

起こった出来事にはちゃんと落とし前がつけられるので(個人的感情を除けば)ひとまず映画そのものは気持ちよく終わってくれるし、時系列の入れ替えも私の様なバッドエンドを好まない観客を不安だけにしない構造になっている。

でもまあ、なんと言ってもこの映画を支える蒼井優の存在感の凄さ。
強くて、でも寂しがり屋で、意地悪で自分勝手で奔放で、でも優しくて愛嬌があって気遣いができる。
そんな康子の一見相反するすべてを、一本の映画で、それもあのMAXボルテージで表現できる女優が他に何人いるだろうか。
そしてあの、雨の浜辺で雷雲をバックに語りかける康子の美しさと優しさと恐ろしさ。

チクチクと胃の痛みを感じながらも、好き嫌いはおいておいて「これぞ映画体験だよな。」とあらためて思い知らされた。

苦手な映画だし、決してまた観たいとは思わないが、でも心に突き刺さった作品。

キレンジャー