「独りは寂しい、独りは怖い。」アド・アストラ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
独りは寂しい、独りは怖い。
壮大な舞台、壮大な旅、重大な任務、極めて個人的でミニマムな物語。
果てしない宇宙を文字通り飛び回り謎に犠牲者を出しながらも、ミッションなんて二の次とも感じるほど、かなりパーソナルに寄った描き方が好き。
父子で争うSFアクション大作かな、なんて予想していた私の考えを悠に超えられる。
想像外の展開が続き、面白く観られる。
特殊なロードムービーみたいだった。
起こる物事は多いのにスローペースに感じ、繊細な人の機微を描く一方でどこか大味で投げやりな部分も見られる。
ベースは緻密で静かで、宇宙を舞台にした映画の中でもとても好きなトーンだった。
断れず、致し方なく、請け負った機密任務。
どこか曖昧で誠実さのカケラも無いそれ。
その中身を探るうちにもはや独りよがりにも近い願いが出てきて一気に行動に移す様が好き。
「俺が世界を救うんだぜ!」だなんて力まれても困るので。
無欲に見えるロイの奥底でギラギラしている欲望の形に高まった。
自分の行動によって意図しない死がいくつも生まれてしまう絶望感と虚無感、長い本物の孤独に対する恐怖感も強くて、どうしたって緊張しながら観てしまうでしょう。
遠く遠く、やっと会えた父の掴み所の無さと確かに感じる狂気がまた悲しい。
結局「リマ計画」って何だったの。
何のためにそこに留まるの。せっかく迎えに来たのに。これでまた本当に決別か。
なかなか理解しがたいその執着、結果のサージ現象、数万人の死。
「YES!YES!YES!」と強く書かれたポスターがもはや恐怖だった。
ここまで遥かな旅をしないと実感できなかったものの正体に気が抜ける。
独りは寂しい、独りは怖い、人が愛しい。
そんなシンプルなことに気付くための旅だとしたら、リスクも払った犠牲も大きすぎる。
世界がかなり広い映画なのに、辿り着く終着点の小ささと言ったら。
でもそのギャップに胸を刺されてしまった。
「私は帰還する。生きる。愛する。」の言葉に思わずこみ上げる。
表情らしい表情のなかったロイが最後に見せる顔も。
つくづく人間って単純なだけではいられないものだなと実感した。
もっともっと取り返しのつかないことが起きて、もっとホラーな展開になっても良かったなとは思いつつ。
父親の道連れになったり、あの猿みたいに爆発したり。
そうなってもおかしくない空気だったし、私は宇宙モノは絶望エンドの方が好きなので。
まあそうならなくて良かったでしょう。今回は。本当に。
途中に起こるわりと大きなハプニングの扱いが面白かった。
月での略奪者襲来も、寄り道した船内での猿襲来も、どっちか一つだけで長編映画ができるんじゃないの。
それをほぼ本筋と関係ないところで多少のスリルを感じさせつつサラッと触れてあっさり捨て去る独特の進め方。
人間の愚かさは遥か彼方でも変わらないことを示して微かに失望させ、感情を置いてきたロイに怒りを思い出させる。
ストーリー的には唐突かもしれないシーンだけど、その中身を考えると少しゾッとするくらい大切なシーンだと思う。
それにしても、施設を核爆発なんてさせたらもっと大きな影響が地球にやってくるのでは?とハラハラしてしまった。
あの核爆発で新しい星が生まれたりして。無理か。
でももしそうなったら、なんだか絶妙にロマンがあるな。
火星での隊長的な女性がこちらを向いた瞬間の目つきに鳥肌が立った。あの人好き。