「心理検査」アド・アストラ いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
心理検査
やたらと出てくる心理計測シーンは、常にロボットのような無機質さを宇宙飛行士に課しているのと同時に、ストーリーとして主人公のその瞬間の心理描写を表わしているのだろうと思うのだが、逆にそれがしつこい位に差し込まれるので何かこのテストそのものが伏線なのかと思いきや、管理社会、又は他者評価的なものをフワッとした暗喩めいたものとして表現しただけだと感じたのだが違っているのだろうか・・・。それ位物語の遠心力とは成り得ないカットが続くのが疑問な作品である。
展開としては、主人公心の闇のトラウマである父親が実は生きていて、海王星からのサージ電流に因り地球への被害が酷くなっている原因をもたらしていると分ったアメリカ宇宙軍が、実の息子を火星基地から説得させて攻撃を止めさせる計画を立てるところからスタートである。途中、遭難船を救助しようとして実験動物のヒヒに襲われたり、火星降下中にサージ攻撃に会い、制御不能なロケットを主人公が見事な操縦手腕で無事到着させたり、月での資源採掘権を巡って各国の無秩序な争いに巻き込まれたり、結局呼びかけない応じない父親を片付ける為に向かうロケットに主人公が忍び込み、攻撃してくる搭乗員を全員殺してしまうし、等々、イベントをこなしながら、文字通りラスボスの父親の船へ辿り着く。で、もうすっかり自分の世界に閉じ籠もってしまった父親は帰るよりも、取憑かれた様に未知の生物への遭遇を負うことを望むが、結局主人公は、父親を捨てて地球へ帰還するという粗筋だ。ほぼほぼ全部話してしまったので、話として複雑さはない。テーマは人と人との結びつき、信頼みたいなものが当てはまるであろう。ラストに主人公が別れた奥さんとのよりを戻そうとするシーン等も含めて、『人に心を委ねる』という協調性みたいなものを重要とするメッセージを幾つかモノローグで説いていた。
さて、感想なのだが、近年の哲学的、難解なSF作品に比べた大変分かり易いシンプルな構造である。ただ、果たしてそれをブラッド・ピットやトミー・リー・ジョーンズが出演してまで映画化する価値のある作品なのかといったら、正直なところ答えに迷う。難解で意味深な作品が高尚だという評価自体は諸手を挙げて賛成は出来ない。しかし、もう少し味付けに深みが欲しいと思う自分も否定できない。しかもあれだけの有名俳優が演じるのだから、そこに物語を鑑賞する意味を求めてしまうのは勝手な客の我儘なのだろうか・・・。テーマが教育的な、もっと辛辣に言えば“説教”、又は宗教上の“説法”みたいな内容故に、奇を衒わずストレートに伝えたかった意図は感じられるが、もう少し外連味溢れるイベントや登場人物との絡みも欲しかった。
映像的にはVFXの本場らしくリアリティを以ての作りと何故かしら匂うレトロフューチャー感が漂う作りで、尖ったモノは無く、安心して観られるといってもこれもまた物足りなさが…。
SFホラーとしてはヒヒ襲来のシーンだけで、月面のカーチェイスは西部劇、そして、月や火星、又はオープニングシーンのステーションのシーンが“落下”というアクションで対になる編集が多用していて、意図が狡賢く映ってしまうのは鼻白む気持になってしまうのは残念である。化学調味料が入っていないから安心なのだが、しかしパンチに乏しいボヤけたラーメンといっては言い過ぎか…。“インターステラー”を対比させるのは酷なのだろうけど。