「近づいているのに遠くなる」ハイ・ライフ いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
近づいているのに遠くなる
なんていう、哲学的な台詞も登場するが、それ程神秘的な世界観と、箱に閉じ込められた人間の精神の崩壊を縦糸横糸に織込みながらの抽象的テーマを表現した作品である。ストーリー構成の時間軸を、現在のパートと、その中のシーンの印象的な部分のカットバックを使って過去に起った出来事を振り返るように置き換えながら展開していく。なので初めの内はかなり複雑で整理が難しいと感じた。なにせ男が自分の娘とおぼしき赤ちゃんを育てているシーンが続き、かなりそのシーンが長いので少々飽きてきてしまうのである。女性監督という事も手伝ってか、SFディストピア(レトロフィーチャーでもある)とはいえ、スペース感は余り描かれない。“ペンローズ過程”なんてサラリと台詞でいうだけで、実はその論理はブラックホールからエネルギーを得る理論のことを指していることなんてのは普通の鑑賞客は分らないと思う。当然自分もだ。この語彙で、宇宙船はブラックホールへ向かっていて、エネルギー探索を目指しているということが説明できるのだが、ストーリー的にはそこは重要なところではないのであろう。犯罪人を集めて、半端実験台のような形で棺桶に入れて飛び出させるアイデアも、その犯罪人達が実はそれぞれの高等訓練を受けてきていたり、専門分野の人間であったりとするご都合主義が入ってくるのも、SFというより医学的又は倫理的な内容がベースなのであろうと思う。宇宙はあくまでも舞台装置なだけで、その逃れられない状況内で、一人の女医が自分の欲望の儘に非人間的実験を繰り返し、方やその対極にある修行僧のように禁欲を枷に生きる主人公を対比させることで、人間の本質を表現することが重要なのである。
官能的なシーンが多く、よく分らないが、オナニー部屋みたいなものがあるのも面白かった。シーンはなかなか激しい演技であったので集中させて貰ったがw
光速の99%で動いているのに宇宙に出て作業していたり、そんなハイレベルな船なのにモニターはパソコンモニターであったり、これは或る意味テーマ性と絡んでくるのだろうが、宇宙内で人が物が落ちていく演出(主人公が犬を殺されたことに腹を立ててガールフレンドを殺した凶器である石を井戸へ棄てる事にリンクさせている)ことなど、かなり無理のあるツッコミどころ満載さが邪魔してしまうが、最終的に、娘に成長した子供と共にブラックホールへ目指す結末は、これだけの非日常を経験した故の結論なのかもしれず、凡人には理解出来ず当然なのであろう。
序盤で主人公がまだ赤ちゃんである娘にタブー(禁忌)を教え、そして成長した子供が父親に禁忌を犯しそうになる事も、父親は拒むのも、そのタブーということに対しての絶対的遵守を訴える道徳的な側面も持ち併せている作品であると考える。