劇場公開日 2020年1月24日

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「ぐちゃぐちゃなのに端正。自己投影奇作」テリー・ギリアムのドン・キホーテ andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ぐちゃぐちゃなのに端正。自己投影奇作

2020年1月28日
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鑑賞方法:映画館

呪われた題材、それこそがドン・キホーテ。オーソン・ウェルズも完成させられなかったドン・キホーテ。正直この映画が完成して日本で公開されたのが奇跡感ある。ワールドプレミアである、2018年カンヌでのクロージング上映すら危ぶまれたんだぜ...。
物語を現代に移していても「ドン・キホーテ」の枠組みは健在である。「ドン・キホーテ」の中に「ドン・キホーテ」が入れ子になっている感じ。
ドン・キホーテ役はジャン・ロシュフォール、ジョン・ハートから最終的にジョナサン・プライスになり、サンチョ(に勘違いされる、この罪つくりな状況を作った男)はジョニー・デップからアダム・ドライバーになった。奇しくも今年のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされたふたりである。
嫌なやつ感満載で登場するアダム・ドライバーが、卒業製作で撮影した映画の舞台を訪れ、映画が村人を破壊してしまったことを知る。それがドン・キホーテを演じたハビエルであり、「スターになれる」と言われたアンジェリカ。ハビエル(改め?)ドン・キホーテに「おお、サンチョ!」と言われたトビー、一旦逃げ出すもあらゆるものに見放され、結局旅に出る羽目に。
端正で冷静というイメージのアダム・ドライバー、序盤中盤と映画で何回禁止用語を叫んでいるのでしょうかというくらい弾けきっている。数えてみると面白いかも。CMディレクターとしてイけてても従者として全くイけてないのが彼の特徴である。そして一番「自意識」が強い。ジョニー・デップがやってたらもっと鼻持ちならない奴だったろうな、とは思う。
そして撮られて人生が変わってしまうハビエル=ドン・キホーテ。ジョナサン・プライスは「面白い顔」と言われつつも、やはり端正さが残っている(その上な、美声なんだ)ので、狂気に見えるようで見えない、「こいつ...まさか...?」という不思議なおじいちゃんになっている。そしてどんどん透徹化(こんな言葉ないけど)していく。
展開は捻りつつも大体ドン・キホーテだし、ラストも概ね予想どおりで、ビッグ・サプライズはない(というか、原題からしても隠す気持ちないよね)。自分が生み出した狂気にどう落とし前をつけるのか、といえばこれが決着点なんだろうなあと。
面白いのは、「自分が自分が」となるサンチョ...いやトビーが(ジョナサン・プライスが "Me, Me, Me!"って言うの最高感あるよね)結局小物でしかなく、ただただ踊らされているところなのかもな、と思った。そこから抜け出した果てに見つけた"Me"もまた、ってところが面白い。
テリー・ギリアム、私は初めて観た。このぐちゃぐちゃに自己を突き詰めてしまった感じは好きである。ただ最近の発言については全く同意できず、悩ましい...。
なんとなく、監督の発言の感じを読み取ってしまったのがオルガ・キュリレンコさんの役。オルガ・キュリレンコさん、まじ怖かったです。怖いよ。あんな怖かったっけ?と思うくらい怖かった。あの描き方自体がなんかな、と思ってしまう。
それにしてもなぜ邦題を「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」にしちゃったのかしら。別にそのままで良かった気がするけどね...。

andhyphen
andhyphenさんのコメント
2020年2月6日

多分、「テリー・ギリアムの」があることはそんなに一般観客には影響ないと思います。映画好きならこの映画のこと知ってるから逆に「テリー・ギリアムの」はいらないと思います。

andhyphen
町谷東光さんのコメント
2020年1月29日

「テリー・ギリアムの」がなければ、誰も映画館に行かないんじゃないの?

町谷東光