ハウス・ジャック・ビルトのレビュー・感想・評価
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堕落
「ハウスジャックビルト」
まずこの映画の嫌な部分は主人公の話す持論が今作の世界観の中では妙な説得力を持つこと。そんな道徳・倫理観完全無視の悪趣味で苛烈な「芸術」が観客の胸中を抉る。そして、全ての非道行為を己の論理に従い芸術の域にまで昇華させようとする彼の傲慢性。
また、退出者続出というのは、グロテスクなシーンがどうこうというよりは残虐な描写や行為そのものが観る者に与える不快感・嫌悪感。それらが引き金になっているのではないだろうか。だがそればかりではなく前半ではコミカルなシーンも見られる。それはサイコスリラーの中にあるブラックユーモアと言えば聞こえはいいものの、結果を知ってしまうとこれらはとても笑えるものではなくなる。
元々主人公はサイコパスの気質があったとはいえ、一線を超えるまではそれとなく一般社会に溶け込んでいた(はず)。しかし、一線を超えたときに歯車は暴れ狂い堕落する。その結果として芸術家・Mr.洗練が誕生する。
惨いシーンとは裏腹にデビッド・ボウイの「Fame(名声)」が流れる。このコントラストもさることながら、主人公が求める名声への欲望を如実に表現している。シリアルキラーには
欠かせない要素である。劇中に起こる事件の順番は彼の思いつきであり時系列もグチャグチャ。
その中でも笑えるのは被害者の面々。一人目は初対面で車に乗せてもらっているのにもかかわらず主人公を侮辱しまくるし、二人目はあんなあやしい不審者に言いくるめられて家の中に入れちゃうし、三人目はまだしも、四人目も四人目であんなサイコ彼氏を信用しちゃう。そんな誰も彼もが女性っていうところがまたトリアー監督の意地の悪さというか笑
主張が多くハッキリとしたテーマを一つ選出するのは難しいが、圧倒的で並の外れたセンセーショナルな作品に仕上がっていることは間違いない。
まあ、本当に恐ろしくて凄まじい映画を見た。
テーマを詰め込み過ぎて結果的に物議を醸すだけになってしまった?
狂気と暴力の視覚化
建築設計技師のジャックが、ふとした衝動で人をあやめ、悦びに目覚めて連続殺人犯になっていく過程と手口を、丁寧かつリアルに描いた作品。
サイコパスとかそんな範疇を超えて、「いくら作り物の世界でも、これ見せたらダメでしょ!」って猟奇的なグロが延々と続く2時間40分。
おまけに、ジャック自身が淡々と独白解説するスタイルのため、やたら時間が長く感じる。
テンポの悪さが不快感を増し、面白みがなくなる。
スプラッタホラー系が好きな人にはオススメしない。
被害者が60人超えたあたりで、退屈とイカレ具合に付き合いきれなくなり、観てるこちらの精神が壊れそうに。
狂気と暴力のビジュアル化と、地獄へ落ちる大罪の描写が目的だと思うけど、ひどい吐き気と目眩がしましたわ。
面白かった!
誰でも心に闇を持ち、悪しき感情や妄想、傲慢、卑屈、自己嫌悪は一旦そこに押し込める。そしてその闇の中から「正しく生きたい!」という原初の欲求(光)が生まれ、激烈に発動するのだ。
何でもかんでもSNSに発信し、つまびらかに自分の感情にスポットライトを当てる現代人。心の闇が問題なのではなく、きちんと闇を持たないことが問題だと思う。
閑話休題
ドラクロワもブレイクも、自分の闇や悪魔と葛藤しながら様式を破壊し、欲望を昇華させた芸術家だ。
ところが欲望の彼岸には「享楽」がある。享楽は闇を必要としない。光と闇の境界線がないから、葛藤がまるで無い。だから享楽者は決して芸術家にはなれない。
マット・ディロンにいつも寄り添うブルーノ・ガンツは葛藤を生じさせない。従者のようだった。
いくら生涯をかけて「理想の家」を構築しようとしても芸術が生まれるはずがない。
フイルム写真は、薬品を使って光の中から陰影を浮かび上がらせる、どこか魔術的なイメージを持つ。光と闇の境界線を感じさせる象徴のようだと思った。
ラスト。葛藤も感動も持ち得ない主人公は有機的なマグマではなく、モノクロの最も濃い黒点に同化した。
サイコものでありながらコメディ要素も含む、一筋縄でいかない作品!
"ミスター洗練"
Mother Gooseの詩
2019年に入りユマ・サーマンの映画を観るのは3本目でどれもこれも"a box office bomb"になりそうな映画ばかりで、鼻をつんとあげてしゃべるオーストラリアの女優ニコール・キッドマンのように出演作品は決して当たらないということになりそうだ。
本作は、ジャックというシリアルキラーの物語をまるでモキュメンタリー映画のような撮影の仕方で、わざと画面を揺らして手振れ感を出したり、ズームにしたと思えば引きで撮ったりと観ていると段々ウザいものとなる。
アメリカのアマゾンではすでに公開されていて、いいか悪いか両極端な評価となり、☆1と☆5が均等に40%と別れている。
最初、ジャックともう一人の男との会話から始まる。それから物語が始まるのだが、最初のほうはシリアルキラーとしての凄惨な殺し方を見せたりするのだが、途中で始まる二人の押し問答のような会話を聞いていると訳が分からなくなる。ラストにはコーキュートスのような世界観に誘うブルーノ・ガンツ演じるヴァージという人物が登場すると意味不明となってしまう。しかし一見の価値があるのは、この俳優のすごいところが何気なく見ることが出来る。なぜそこまでしたのかこんな映画のために聞きたいくらいだ。
アメリカの新聞紙Chicago Tribuneの記者がこのように述べている。「この映画は連続殺人鬼のつまらない映画の歴史の中で最も退屈な連続殺人の映画かもしれない。」
グレン・グールドの映像がたびたび出てきたが彼の言う「芸術の目的は、瞬間的なアドレナリンの解放ではなく、むしろ、驚嘆と静寂の精神状態を生涯かけて構築することにある」というところからきているのか?デビッド・ボーイのフェイムがいちいち流れるし。
3人ほどマンハンティングするところが出てくるが、惜しいのは人の皮をはぐシーンが出てくるのではないかと期待したが、期待を裏切られた。つまり、中途半端な映画だと個人的に受け止めている。しかも2時間半もある。
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