ハウス・ジャック・ビルトのレビュー・感想・評価
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この映画で狩られたり傷つけられた動物はいません
確かにカンヌでは途中退出者が出てもおかしくないとんでもない評判通りの作品である。いわゆる“シリアルキラー”の殺しの哲学や行動を嫌と言うほどみせつけられるストーリーと、ラスト前はその連続殺人魔が辿る黒寓話という構成になっている。監督がどこまでこの筋書きをリアルに調べているのか、それともあくまでも空想の産物としてのフィクションとして作ったのか、一応wikiでは前者のようだが、多分実際にその類の犯人とは直接には話を訊いていないだろう。というのも余りにもこの主人公の主張する人生観が通常の人間とはかけ離れていて幾らそれを劇中で説明していても頭に入ってこないのである。それは通常の人間の生理として無意識にシャットダウンしていくものなのか分らないが、とにかくその余りにも自分勝手と都合の良い解釈故に、どこにも共感するものがなく、没入感とは真逆の感覚がこれほど心を支配した作品は殆ど無いほどである。今までのシリアルキラーを題材とした作品の中でも群を抜いてその映像の凄惨さ、奴きつい殺人シーンの連続は心を蝕み、抉られ続ける。自身を“ミスターソフィストケーション(洗練)”と名乗る大胆不敵さも相俟って、恐怖や憤怒を超える感情を大いに掻立てられるシーンである。そしてこの主人公の成功体験が決して綿密な計画の元というより、周りの無関心や血を洗い流してくれた豪雨といった悪運が大いに関係しているという皮肉も忘れることが出来ない。“IF”という言葉は陳腐だが、もしそのどれかでも瓦解していればこの残忍極まりない凶行が止まるのにと、主人公自体が感じてしまっているところに底の見えない闇を抱かざるを得ない。フリップ芸のような演出も不謹慎さを醸し出していて薄ら寒さ満点である。強迫観念、サイコパス、潔癖症と、この手のシリアルキラーの精神疾患をベースにはしているが、それだけでは語れない、言葉に出来ない何かを始終根底に流しているようで観続ける辛さもひとしおであり、特に母親と子供の狩りのシークエンスは、自分も途中退館しようかと強く思ったほどである。
夫に先立たれた奥さんの家に入り込む手練手管さや、冷凍庫内で氷付けにしてある子供の死骸を人形のように作り替える所業、そしてあの人間の家・・・なにもかもがクレイジーの言葉以外思い出せない。
この悪魔の所業のラストが、弾丸一発で複数人数の頭を打ち抜く実験をしようと試みる辺りでもう完全に麻痺してしまっていて、抵抗なく受容れている自分もいるのが後ろ暗い。
ラスト前の地獄への旅路はファンタジー色に急にシフトチェンジしてしまったので、幾らハイスピードカメラのスローモーション視覚効果を多用していても、余計な編集というか件なのかもしれない不必要な部分だと思う。ズルをして地上へ行ける階段へのロッククライミングに失敗して地獄に墜ちるのは、なんだか藤子不二雄Aの作品みたいなイメージで、そんな生ぬるさでは贖えない行為なのだから、もっと強烈なしっぺ返しか、又は全くカタルシスを演出しない方法が良かったのではないかと思う程、ダークすぎる悪趣味と露悪さが突き抜けたホラー作品であった。
旅だてジャック!
もちろん大変に非倫理的なアブノーマル・アート映画である。鬼才とも称されるラース・フォン・トリアーというデンマークの監督でカンヌ映画祭の常連なのだが、おそらくはシリアル・キラーと同じように一度「問題作」で脚光を浴びてしまったために、次の作品もより過激な「問題作」を作らずにはおられないのであろうか…彼自身がかなり重症である。想像していたよりグロさは控えめで、それよりジャンプカットばかりの手ぶれグラグラ映像で気分悪く吐きそうになったのだ。殺人の度にデヴィッド・ボウイの「フェイム」が大音量で流れ…それは主人公のジャックと監督のオーガズムをストレートに表している。僕はプータローだった1996年の夏から秋にかけて短い映画を作ったのだが、それが潔癖症の泥棒の話で本作の2番目の殺人シーンとかなり似ていて笑ってしまった。まあコメディ映画として逃げるしか無いのだ。エンディングで流れるレイチャールズの「ヒット・ザ・ロード・ジャック」に救われました。
過激作品にアート的ソースの味付け
結構な奇作・問題作と聞いて、興味本意で鑑賞しましたw
で、感想はと言うと…う~ん難しいと言うか、理解がしずらい。
駄目と言うよりかはなかなかな理解の範疇外をギリギリに攻めてくるんですよね。
12年間の間に様々な殺人を犯したジャックの殺人に至るまでの理由や過程を描いているんですが、正直な話、勝手なキ◯ガイの理屈なんですよね。
それをさも芸術的に描いている様に感じられても、無差別殺人に関しての加害者の理屈は理解出来ない。
シリアルキラーと言う言葉が少しカッコよく聞こえるなら、昨今の倫理観上等のアニメ・漫画作品の悪影響にも思えますが、現実にこの様な事が起こって、理解出来る人の方が圧倒的に少ないし、それを声に出してしまうのも躊躇ってしまうのが普通かと思います。
じゃあ、過激ダメダメ映画かと言われると、実はそうではなくて、いろんなシーンにコメディチックな描写もあって、その辺りが余計にタチが悪いw
いろんな拘りが随所に描かれていて、かと言って決して善人であろうとはしていない。
そうは言っても確実にモラルは飛び越えてきていて、いろんな過激描写がわんさかですが、子供と動物はアカンでしょ。そこを描いてしまうとどんなに理屈を言っても、焼け石に水と感じてしまうと自分は感じます。
妙に上映時間が長いのとw、その分ウンチクも長いのもバツw
他の人が書かれてた様に欧米の宗教観をきちんと理解出来てたら、もっとこの作品の良さが分かるのか?とも思いますが…ちょっと変態・エログロ・バイオレンス・クレイジー作品にアートファンタジー的な甘いソースをぶっかけて見栄え良く見せてる様にも感じられてなんか嫌ですねw
オッ◯イの小銭入れなんかは「悪魔のいけにえ」的なアートに感じても…やっぱり嫌だなぁw
まぁそれでもエピローグの地獄への行き道なんかは急にショボくなった感じでも、そこがなんとなく愛嬌が有るような無いようなw
死体の家から通じる地獄への穴も“案外こんなもんなのかも”と思わせる感じです。
「羊たちの沈黙」のレクター博士程の悪魔的カリスマも感じないし、かと言って「ナチュラル・ボーン・キラーズ」程の背徳の美学も感じられない。
もの凄く頭を捻って、約半世紀前のパゾリーニ監督の「ソドムの市」の様な理解しずらい物に何かを見出だそうとする様な苦しみ…
そこまで思うなら嫌いの一言で良いのかも知れませんがw、逆にここまでブッ飛んだ作品も最近は珍しいかなと。
ウイットに富んだ台詞回しなんかもあるし、楽しめる様な要素も無くは無いんですが、やたらと長いし、過激描写とウンチクのメリハリが多くて観る人は確実に選びます。
怖いもの観たさと賛否が渦巻く作品に身を投じてみれる様な稀有な作品です。
お薦めはしませんがw
たぶんトリアー的コメディなんでしょう
ダークな笑いで笑えたのは、前半だけだったかなー。後半も少し笑えたけど─。どうしてもグロさが勝ってしまうという感想。そのグロさ含めて結構堪能したんですけど、どん引きするところもありますね。
ゆらゆらぐらぐら映像としっかりかっちり映像がバランス良くなっている気がして、相当見やすさを感じたり─。ドグマ時代も生かされているだなぁなんて分かった風なことを語りたくなる監督であり、見て必ず何かしら強い印象を受ける作品を作り続けているから、酷いかもと想像しても見ちゃうんだなー、この映画は酷いけど面白かった。尺の割にあっという間に終わった印象だったし。
癖になっちゃう音使いも良かったなぁ、打撃音を伴ったメロディーが鳴る度に、自分の中の笑いが反応してしまいました。
監督の過去の作品とか、映画や絵画のパロディーや歴史的な映像、さらにはアニメといったあらゆる映像が盛りだくさんで、意外に感じてさらに楽しむことができた気がする。
これはラース・フォン・トリアー的なコメディなんだと思ったけれども、サスペンスなのかバイオレンスなのかホラーなのかファンタジーなのかドキュメンタリーなのか!?わからなくなるくらい、あらゆる要素がつまった作品。
ここまで言うと相当おもしろいような作品にみえてしまうけれど、実際自分はおもしろいと思ったし、そう言っていた人もいたのでそうした見方は間違いではないけれど、ただ観賞するには時間も含めて覚悟がいります。頑張ってください。
倫理が芸術を殺す
倫理が芸術を殺す…と云うことで、
至極アーティスティックなこの作品に倫理は存在しません。
レイトショー30人弱の観客…皆さんどんな映画か覚悟の上でチケットを買ったと思うのですが、やはり途中で退出された方がありました。
まさかの最初の被害者がユマ・サーマンと云うことに気付かない失態を犯してしまいましたが、反芻する場面で気付いてビックリ。
最初はちょっとした苛立ちから殺人を犯してしまったジャック。ところが警察はニアミスするも逮捕しない。で、どんどん殺人を重るジャックは死体のコレクターみたいになるという殺人鬼のお話し。
恐ろしいことに、殺人場面に段々慣れてきえ、アゴの下から頭頂部に向けてナイフを刺して殺された人は、刺されてから大きく口を開けるのだが、そこにナイフがキラリと見えて…私は思わず『カッコいい殺し方じゃん』と。アカンアカン、慣れとは恐ろしい。
殺人の合間にグレン・クルートのピアノ演奏シーンやゴーギャンやピカソの絵画が挿入されています。ドラクロワのダンテの小舟も出てきますが、なんと動き出す!!登場人物達が扮しています。
最後は地獄に落ちますが、なんかとても美しい。
脳が震撼したのか?帰宅してからも全然眠たくならなかった。ワイルド・スピード観た時と同じ現象でした(笑)
ある意味オペラ?
クセのある監督の作品なので、完全に鑑賞する人を選ぶ作品。
ってか、ミニシアターマニア向けですな。
「話題になっているから。」とかの理由で選ぶと失敗するかも。
最低61人殺害した殺人鬼のお話。
1章2章・・・と展開。
R18なんて指定だから、血がドバドバ流れるシーンだらけかと思ったけど、そうではない。
裸体+子供殺害するシーンってあんま無いとは思うけど、これに対してかな。
って印象。
しかも、殺害方法が狩りだし。
オペラを意識したのか。
使われている音楽もそんな感じだったもんね。
もう少し、ジャックの背景を描いてもらいたい気がしたけど、「これでも充分かな。」とは思えました。
2時間30分位の作品だけど、長くは感じませんでした。
この手の作品って、本編終了からクレジットに突入しる間に、大抵、「12年間に渡り○○人殺害し・・・」なんて字幕が入るのが定番なんだけど、こんなの無く突入。
あとは、パンフレット購入するしかないもんね。
クレジットで使われていた曲(曲名がわからん・・・古い人間なら一度は聞いた事ある。)、「出ていけジャック~♪」も、ある意味関心の選曲。(笑)
1人で鑑賞しに来た若い女性結構居たけど、ポップコーンと飲料水・・・
オジサンはアイスティーだけで、食べながらは流石に無理・・・(涙)
目を背けたくなるような殺人シーン
切り裂きジャックの話っぽいタイトルですが、また違う架空のサイコパス連続殺人鬼ジャックさんの話。舞台はアメリカ。
一見冴えない風体で鈍臭そうな主人公。
強迫性障害に悩みながら、その異常な執着で殺人を侵しては作品として写真に収めてコレクションし匿名で公開する。
強迫性障害に苦しみながら殺人を犯す序盤については、異常性はあるものの滑稽な描写にもなっており・・・例えば殺害現場の血を全部拭き取れていたかどうかが不安になり、リスクを冒して何度も現場に戻ってくる・・・楽しく見れていたけれど、徐々に快楽殺人鬼に様変わりしていき被害者の精神的に追い詰める描写などが増えてくると圧倒的な不快感に襲われました。
その殺人の一つ一つで一本のサイコパス映画が取れるようなシーンの連続。
自分の理想の家を建てたいという欲求と殺人からのアート作品作成の欲求となぞらえている点は面白いのだけど、何せ描写が残酷すぎた。
スナフ映像が耐えられる人じゃないと難しいですね。
胸糞悪さと寓意と正しさが共存する地獄絵図
まずお断りしておくと、今までトリアー監督の作品複数観てきて、エロよりもグロ耐性が無い私が唯一『アンチクライスト』だけ映画館できつくて退出しそうになったんですが、今回は途中5分くらいだけ退出してしまったことを告白します…恋人殺すとこです。同じ女として無理でした…
しかし、それ以外を除けば悍ましいと思いつつも興味深く観られたような。
確かに今回は割と胸糞悪いレベル高かったんですけど、冷静に咀嚼していくと本当に寓意的要素やこちらの幅広い教養を試されるし、最後の結末は凄く真っ当なところに着地するから、トリアー監督作品嫌いになれないんですよね…っていうのを再確認するような感想が大きかったです。
たぶんはっきりわかるテーマとしては「殺人という行為が芸術表現の手段として成り立つのか?」ってことなんだろうなーとはビビリながら観ていた私ですら感じたのですが、
彼は殺人を繰り返す一方で、夢だった建築家として自らの家を作ろうとしてはそれを壊し、作業は一行に進まなくて、
最後にヴァージに導かれるまで「家」を完成させられなかったし、その材料は自ら得てきていることすら気づいてませんでした。
殺人を繰り返す中での快楽と罪悪感に挟まれる自意識の揺らぎとか、建築家になりたかった自分&シリアルキラーとしての自分の自己顕示欲とか、いろいろと自覚はあったと思うんですけどね、
最後の決め手がなかったというか結局"作品"は終盤まで完成させられなかったわけだから、建築家ひいては芸術家になりきれない男が、そこに到達するまで過程を見せられてたようなもんなのかな。
そもそもずっと劇中=ジャックとヴァージの地獄までの過程での問答であり、回顧なわけだから、語っているジャックはもう地獄に入っちゃってるから、そこではじめて自分の過去を冷静に振り返って、真理に迫った発言が出来るのかも。
まぁ論理的な感想ではなく、書き殴ってるので信憑性に欠けますが。
私個人としても、文章を書いたり踊ったりするのが好きなんですけども、なかなか1つの作品を完成させられない、自己表現が完成しきれてない、芸術家になり得てない自分はジャックとそう違いはないのかもしれないと思ったりしてます。人は殺したくないけど。
ちなみに先週末の新文芸坐のトリアーオールナイト観てきて正解でした。途中の過去作のシークエンスでアレとコレも繋がるのかなあなんて思って観てました。
過去作もだし、絵画や詩や過去の歴史的な記録映像などをふんだんに盛り込んで、人間がいかに愚かな営みを繰り返してきたかが強調されててわかりやすく感じました。ゲーテの木の話とかね。
ラストで、地獄の底を目の前にしても"I want to see it all."と口にしてしまうジャックはもう地獄のどん底まで落ちるしかなかったんですよね、かつて黄金の心を持つ彼女が"I've seen it all."と舞い歌い天国へと向かったのと全くの真逆ですからね。納得。
僕達の内面や、世界や、社会に潜む狂気
多くの人々に潜む狂気と言ったら、自分は違うという人も多いと思う。
だが、僕たちは、常に心の中に何か怒りを抱えていて、例えば、気に食わない人間や、テレビで見た犯罪者に「こんな奴、死んじゃえ」と思ったり、冗談でも「殺すぞ!」なんて言ってしまうことは結構あるように思う。
最初の犠牲者は、そんなジャックの怒りに触れたことによって、ジャッキで顔面を殴られて殺害される。
こんな簡単なことがきっかけで、連続殺人鬼が誕生するのだが、やはり、これは普通じゃない。
しかし、これが紛争地域や、戦場だったら、どうだろうか。
僕たちの内面に潜む狂気は、増幅されないだろうか。
ジャックは、次第に殺害や殺害方法を分類し、それを記録でもするように、死体を冷凍したり、好みの形に作り変えたり、写真に撮ったり、殺人を日常の一部にしていく。
まるで、アートだと言わんばかりに。
もし、アートを、政治的なイデオロギーに置き換えたり、民族や宗教的な原理主義に置き換えたら、どうだろうか。
僕は、映画の凄惨な場面は苦手だが、実は、人々が目を背けている残虐な殺人行為は、世界のあちこちで起きているのではないか。そう、政治イデオロギーや、民族的・宗教的原理主義の名を借りて。
エピローグで、ジャックは、遺体という新たな材料でハウスを完成させる。しかし、その地下に広がるのは、ヴァージに案内される地獄だ。
エンディング近くで、ヴァージが、その地獄を階層で説明してる場面があるが、これは、ダンテの神曲を模しているのだろう。
ダンテの神曲は、地獄や天国を階層にして説明したルネサンス期より前の物語だ。
また、ダンテの神曲は、現在のイタリア語に繋がる当時のトスカーナ語で書かれて、ラテン語で書物を記さなくてはならなかった当時、支配層や宗教上の教養層からは相手にされなかった作品だ。しかし、密かに読み継がれ、今では文学史上最も重要な古典という位置付けだ。
まあ、つまり、トリアーは、映画の評論家や、鑑賞者に対して、「今、お前らが分からなくても、この作品がきっと理解される時代はいつかやって来るのだ!」と挑発しているかのようだ。
また、「ベルリン天使の詩」の天使役のガンツが、ヴァージとして地獄を案内するというのも皮肉たっぷりだ。
新しい材料を使えば、アートになるんじゃないかというアドバイスも苦笑いだ。
世に氾濫するアートもどきなんて、そんな材料を変えた程度のものということだろう。
そして、世界中で起こっている狂気の殺人の背景にある政治的なイデオロギーや、民族的、宗教的な原理主義の動機付けだって、大したもんじゃないと言ってるような気がする。
殺害が伴わなくても、日本人の尊厳は…と言った民族対立を煽る意味不明の思考回路だって大差ない。
そう、ジャックの建てた家と同じで、僕達の社会や世界の下には地獄がポッカリ穴を開けて広がっていて、僕達を待っているのかもしれないのだ。
そして、自分は特別と思ってる者に限って、最下層まで落ちていくのだ。
出て行け、二度と戻ってくるな
とある殺人中毒者「ミスター洗練」が語る、数編のエピソード。
一つ一つのエピソード映像は短編スラッシャー映画のように、挟まれるジャックとヴァージの対話はサイケなコラージュのように、現実と幻が混ざったような大団円は宗教画のように、それぞれ映し方が全く違うつくりが面白い。
スマホのムービーか?というほど粗い映像になったり。
人が殺されていくまで意外と焦らされる。
いや、まどろっこしい会話や愛すら感じられる交流と駆け引きの段階から、彼の殺人は始まっていたのかも。
「彼は殺す」と分かっているからこその尋常じゃない緊張感。
しかしその間にどこか抜け感もあって、終始奇妙な空気が流れていた。
「焦らし」の段階も含め、人間の命を強制的に終わらせて回る彼にときめいてしまった。
計算高く、しかし場当たり的に、大胆に。
強迫性障害を顕著に表した一連の流れに一番ゾッとしたかもしれない。まだやるか、そこまでやるか、この窮地でもやるのかー!と言わずにいられない。
殺人の告白と彼の物語の先、ぐるりと回って繋がった先の唐突に抽象的な世界観には流石に翻弄された。
人の脚が敷き詰められたような壁や、ドロドロとした半液体がゆっくり蠢く壁、とにかく気持ち悪い要素がいくつもあってドキドキする。
聞こえてた水音の正体が結構汚くて笑った。
付かず離れずのヴァージと共にあの世の狭間を巡り巡っている過程かな。
メタファーや深い意味を読み解くのが苦手なのでそのまま受け取ってしまうけど…。
苦悶の表情の裸の人たちが船を支えるあの図はもうルーブル美術館に飾って欲しい。原画の隣にでも。
ジャックが今まで殺してきた人間に支えられているようだった。人を殺すからこそ生きて来られた。
最後に造った家が銃弾から彼を守ったように。
誰にも理解されない特別なジャック、人とは違うジャック、選ばれしジャック。
その語り口に恍惚と洗脳されそうになるけど、そのたびにヴァージのたしなめに引き戻される。
アルコール中毒や麻薬中毒と同じ、ただのサイコパスだ、と切り捨てられる。
建てては壊し建てては壊しを繰り返してきた、ジャックの家。
結局造り上げることが出来たのはただ一軒。
ジャックにしか造れないその一軒の、悲しいほどに簡易的なことよ。
設計も建築の知識もあったもんじゃない。
そのビジュアルと唯一無二の材料には大喝采だけど。最高です本当にありがとうこれが観たかった。
それでも結局はやっぱり、ただの殺人中毒者、ただのサイコパス、ただの人間。
運や天をも味方に付けてきた彼ならば、と思わせておいた先の呆気ない転落。
飄々としているように見えてプライドが高く、思い上がりも強かった彼への最後の裁きに思える。
ラストカット、彼がこだわってきた「写真のネガ」になるのがもう巧すぎてため息が出た。
強い光は強い闇となる。
一番暗い部分が焼き付いて離れない。
光に惹かれるように闇にも惹かれるじゃない、正直なところ。
泥臭く地道で鮮やかな殺人シーンの一つ一つに高揚した。
監督がどうとか作風がこうとか話のああだこうだは抜きにして、やっぱり一番分かりやすくて入り込めるのがそこなので。
ジャッキー修理の女性、どうしてああも高飛車な態度になれるのか。初っ端から「早く殺されておくれ〜!」と思ってしまった。薄情でごめんね。
ぱっくり割れたおでこが痛々しい。
太った奥様、人並みの警戒心は持ちつつお金にがめつい一面が命取り。
首を絞められてグェッグェッという音と口からコポコポ出てくる唾液が苦しい。
もはや人の形もしていないすりおろされた姿に合掌。あんなにいっぱいあったお肉が…痩せたね!
金髪の娼婦らしき若い女性、死の直前まで強い目で抵抗するも虚しく、流れ落ちる涙と共に命尽きるのが地味に恐怖だった。
謎の夜道散歩おばさんとペアにされちゃって可哀想に。
写真を新聞に送ったとのことだけど、時代が今だったらSNSに投稿したりするのかしら。
母と子供たちとの悲劇のピクニック、このシークエンスが一番好き。
急にジャックの見た目が変わるもんだから最初は戸惑った。関係性が謎。シングルマザーと恋仲になっていたのかな。
楽しいピクニックが完全に一転する様や、響く銃声が本当に恐怖だった。狩猟犬に倣った探し方も。
そしてやばすぎるお食事タイム。からの怒りん坊君の剥製風。いや悪趣味が過ぎる。好き。
シンプルことジャクリーンのシーンもとても良かった。
唯一ジャックが愛したらしい人。
二人のすれ違いから見せられるので前に何があったのか細かい機微は分からないけれども。
変人な恋人からじっくりと恐ろしく変貌していくさま、切られた電話線に戦慄。
まさかのおっぱい財布!まじか!
脂肪質の多い乳房はヌルついてベトついて切るのが難しいらしいので、欲を言えばそこに手間取る描写も欲しかった。
シンプルのカリカリとした咀嚼音が気に障った。
最後の一発連殺、観たかった…。
ジィジはひとまず置いといて一回引き金引くだけで良かったのに。
銃弾が違ってブチ切れるの分かる。
自分の計画通りにならないと急にパニックになるでしょう。
妙な映画だった。
カメラワークに酔い、劇場内の食物の匂いに酔い、目の前で繰り広げられるエゲツない心理戦と殺人に酔い、常に吐き気を催しながら命を削る感覚で観ていたけど、終わって外に出た瞬間に体調が回復した。
鑑賞中ジャックに何かされていたのかも?みたいな変なことを考えてしまった。
殺しの快楽もその恐怖も、人間のちっぽけな尊厳も、淡々としながら色々感じられた。
草原の呼吸が好き。
今ここにある寓話
ラース・フォン・トリアーのキャリア最高の傑作になりそうな作品だ。「アンチ・クライスト」もなかなかのキワモノで、キリスト教的な世界観を挑発していて、とても面白い作品ではあったが、この作品はその辺りを洗練させた感じだ。キリスト教的な背信行為を開き直って見せ付けた挙句、キリスト教的な教訓に基づいたとても分かりやすいエンディングで締め括る。長いループがくるりと一回りしてとても上手くその輪を閉じて終わる小気味良さ。素晴らしい。彼が持つ道徳や宗教心を取り込み、自らの内部で見事にそれらを超えて、冷めた価値観を軸にした感性が作り上げた作品。ブレイクやグールド等のストック・フッテージ、ボウイ、バッハ、エンディングのレイ・チャールズの音楽も作品の演出を見事にこなし、外部映像や音楽が演技をする妙味を初めて実感した。「殺人者は殺す相手の最期の吐息を嗅ぐ」という台詞がとても良かった。この作品が今年のベストになりそうだ。
あるある
面白かった!
「あれ?ちゃんと拭いたっけ?」って何度も戻るとこ、私もあるある〜って思った!
逆に「そんなひどいことやっちゃって!」って共感できないとこも、人間の歴史からみればあるあるで、いやむしろもっとすごいことやっちゃってるよね、ってゆー。
さらに、アンチクライストやら奇跡の海、ドッグヴィルやらあれはおそらく噂のドラマ、キングダム?(これだけ見てない)からのメランコリア、ドーン!!
素敵なお家が建ちました!
ファンにはたまりません。
音楽も良かった!
ただ、最近の作品は見終わった後、胸がザワザワしなくなって寂しい。
今回もスカッとしちゃった。
技師と建築家
ジャックの話す、技師と建築家への見解が印象的だった。技師であるジャックは芸術の表現として建築ではなく殺人を繰り返す。マテリアルにこだわるジャックは最後に建築家としての芸術作品を産む。
前半の緊張する場面から終盤の非現実的な展開まで、時折笑いを誘いながら魅せてくれる面白い作品でした。
すごかったです!
最初はなんだろうなぁ~と感じながら観ていましたが、とても体力が消耗する作品でした。
後半のまとまりがとてもよかったです。
人におすすめはできませんが、個人的に観てよかったです。
実話じゃなくてよかったです。
脚本が素晴らしい!
まずはホッとしました。
2019/06/16
コメディ楽しかったです。
テーマはいつもと同じで「善悪の境界線とは?」って感じです。
◆鑑賞前の不安点
・「ニンフォ・マニアック」のように期待したけど、がっかりするかも…。
・映画祭で退出者続出って信用できない。
・実録殺人鬼モノって映画でどこまでやれるの?
◆鑑賞後の感想
・殺人鬼って非常に魅力的!(レクター博士も同様)
・事実って割とコメディ。
・欧米の宗教観が理解できればもっと楽しいはず。
・地獄のモチーフはダンテの『神曲』
・オチとしてはやっぱり地獄行き。
◆結論
・トリアーファミリーは変態で最高です。
◆その他
・新聞社に写真を送っていたようだが、捕まらんもんなのか?
・殺しの手口がかなり雑。
・宗教画のようなポスターアートの男はアンソニー・ホプキンスではない。
・第一被害者のユマサーマンは殴られてもしょうがないと思います。
・虎は生まれつきの殺人鬼で、羊は狩られる側。人類にも虎と羊がいるのでは?
もう一回観たいです。
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2019/06/06
非常に楽しみです♬
来ました!ラース・フォン・トリアーの新作。
殺人鬼かぁ…………最高やん!
楽しみで、楽しみで、楽しみでならない。
感想は観てから……
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