「本人は狂気でなく、大真面目という恐怖。」ハウス・ジャック・ビルト ytoshikさんの映画レビュー(感想・評価)
本人は狂気でなく、大真面目という恐怖。
ヒトラー発言でさよならとなったので、何やってんだよと思っていたが、そんな事も忘れてた頃にそう言えば、で鑑賞。
映画づくりという点では、視覚的、音的に相当なもの。殺人鬼物語云々の既成概念で、当然見始めるわけだけど、2人目くらいからすでに、大きく道がそれていく。
題名の通り、ジャックが建てた家は、ラストに明らかになるものの、彼は技師であり、建築家では無いというセリフも手伝って、単なる表現めいた箱だけの家が無目的に出来上がっている。
狩猟やらぶどうやらで、サイコパスにはサイコパスなりの理由があり、回路があり、思考があって、その経路自体はノーマルと何ら変わらない事を提示する。
提示はするが、お前だって、毎日毎日自己本位で生きてきたし、これからも自己保存だけで腐りながら生きていくんだろ、と問いかけてみた所で本質の確認で終わってしまうのが玉に瑕。
ましてや神曲CGで地獄行きは、彼の苦痛より欲望が上回っていく影のようで罰には思えない。映像作家としては、有数の人でも、精神世界についてはあまり深みに到達していない印象も。
とは言え、60人以上も殺すのを「止められない」人間の精神構造とその結果を描き尽くすなんて誰がやるのか、やれるのか。そういう意味では、”ラースの建てた家”をその類まれな作家性と映像技術で、二時間半見せ続けられたのである。絶対住まないけど。
草刈り風景に涙できたんだから、もう少し上の階のところで隠れサイコパスとして生きることもできたろうに。
つくづく人なんて紙一重なのか。いやいや愛と教育は必ず存在する。と、次回作では、落とし前をつけて欲しいところ。地獄のもっと先に何かあるかもよ!