「人は仏の陰に積もる塵に過ぎないかもしれない でも、そこには赤い血が流れている」第三夫人と髪飾り Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
人は仏の陰に積もる塵に過ぎないかもしれない でも、そこには赤い血が流れている
去年あたりから、タイやらマレーシアやらの東南アジア発の作品が公開されているのを見つけたら、積極的に鑑賞しています。ベトナム発のものを見たことないなと思ってたら、先日公開の『その花は夜に咲く』を発見(と書きたくなるのは映画館貸切状態だったからです)、鑑賞しました。なんだか自分には合うなと感じたので、この監督の別の作品を、となって、配信でこれを探し当てた次第です(アッシュ•マイフェア監督のことはまったく知りませんでした)。
タイトルから真っ先に思い出したのはチャン•イーモウ監督の『紅夢』です。そう言えばコン•リーが第四夫人を演じてたな、あんな感じの憎悪剥き出しの愛憎劇かなと思って見始めたら、違っていました。確かに三人の夫人の間に嫉妬や競争心はうっすらとは見えるのですが、ひとつ屋根の下で暮らす運命共同体の成員として助け合って生きています。第一から第三までの夫人それぞれの性格が典型的な長女、次女、三女のそれのように描かれており、三姉妹ものを見ているのかと錯覚さえしました。
そんな物語が印象派の絵画を動かしてみたらこんな風になるのではないかといった美しい画面とともに展開します。見始めてすぐに映画館のスクリーンで見たかったなと思いました。ちょっとソフトな感じの画面で青を基調に緑の木々が繁り、黄色も散りばめられます。そこに交錯するのが赤、血の色です。赤い血が流れている人や生き物の様々な生と死が描かれます。食物連鎖で人より下位にある鶏の死。それと同じような、生殺与奪の権利を自分ではない誰かに握られている者の理不尽な死。
二作だけでの印象ですが、この監督は川や川の流れの使い方が非常に巧みです。川べりのあのシーンで生殺与奪の権利は行使されなかったと信じたいし、上流から下流に流れていった女性の象徴はやがて女性たちの明るい未来に流れつくと信じたいです。