「環境問題を絡めた純愛もの」天気の子 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
環境問題を絡めた純愛もの
新海ワールド全開、「君の名は」同様、神話、伝承をモチーフに気候変動問題にスポットを当てています。それでいて観終わってみると恋愛至上主義だったのかと真意が量り兼ねています。
毎年の豪雨災害、巨大化する台風襲来などが現実化する今日、ヒロインの陽菜頼みの他力本願で済まされるかのメッセージ性は、環境保護活動家の少女グレタさん頼みの温暖化阻止運動で良いのかという社会的構図と重なって見えてきますから意味深ですね、若い観客層向けには響くかもしれません。
大人の世界の厭らしさというか汚らわしさ、権力的なものへの反発が強く描かれていますね、純粋な愛に救いを見出そうともがく様は青春そのもの、若き日の尾崎豊の歌の世界観にも通じる気がしました。
シチュエーションの後ろだてはSFの場合は科学だが新海ワールドではいにしえの虚構が使われる。ところが錦の御旗のように使われる神話、伝承のレトリックも一皮むけば俗にまみれている。
祈願には供物はおろか生贄まで必要とする土着信仰のような虚構もまたホモサピエンスの作り上げたフィクションの産物であり、打算的な人間の心根の投影に過ぎないのです。
超能力を使って地球を救うのではなく生活の糧を得るための手段として使っていますから、人はどれだけ利他的に動けるのかといった哲学的テーマは端から蚊帳の外でした。超能力のもたらす悲劇性のようでいて過酷な労働は健康を阻害するといった過労死問題に寄ってしまいます。
陽菜の命を救うことが背景にあるとはいえ東京の殆どが水没する状況で、昔はこのへんは元々海だったのさと高を括った物言いは何なのでしょう、シチュエーションに縛られ過ぎ、万事神頼みの時代ならいざ知らず市井の人々を無気力無関心に描きすぎの気もします。
世の中なんてどうなっても愛さえあれば良いのさといった恋愛至上主義的な楽な受け取り方の方を好む若者も少なからず出るでしょう。
相変わらず素晴らしい映像美でした、本来、アニメとお伽噺の親和性は高いのですが新海ワールドではリアリティの極めて高い画風や物語性が仇となって虚構に浸りきれない面も否めません、この辺が斬新さでもあり弱点かも知れませんね。個人的には余り俗ぽい登場人物や社会描写よりファンタジーに寄せてくれた方が好み、「君の名は」の方が素直に酔えた気がします。