劇場公開日 2019年7月19日

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「無気力な大人には大変イタイ作品」天気の子 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

1.0無気力な大人には大変イタイ作品

2019年10月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

病室の窓から雨に沈む新宿の街を見下ろしていた少女陽菜。雑居ビルの屋上に射す一筋の陽光を見た彼女は吸い寄せられるように非常階段を登っていく。フェリーで東京にやって来た高校生穂高はYahoo!知恵袋で身分証なしで働けるバイトはないですか?と尋ねるくらい無計画な家出少年。そんな都合のいいバイトがあるはずもなく新宿の闇を思い知る・・・からの物語。

始まってすぐ不安になったのはモノローグの多さ。モノローグで心情をイチイチ語ってしまう極めてテレビ的なアプローチに正直興ざめ。『君の名は。』ではテレビアニメ風の導入を採用しながらそんなテイストは薄かったのに反して、いかにも映画的な荘厳な導入からこんなアプローチを採るのはちょっと納得いきませんでした。
あとチキンラーメンの応用レシピ等タイアップがやかましい。これは大人の事情があったのでしょうが取って付けた感が否めない。新海作品はある意味オカルトですが、だからといって今回の『ムー』とのコラボはちょっと引きました。

恐らく『君の名は。』のある意味真逆の話、すなわち愛する人を救うために世界を滅ぼす話にしたかったのかと思いました。デル・トロ監督が『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』で言及したようなディストピア。それを五輪を来年に控えた今ぶつけてきたところはグッときました。子供3人で2万8000円払ってラブホ宿泊とかにも攻めた片鱗もありますね。

個人的にはRADWIMPSの続投もピンときませんでした。ピアノがポロンと鳴るだけで二番煎じ感が滲む。映像と劇伴のシンクロが物凄く繊細ですが、『君の名は。』に無数にあった、魂が鷲掴みにされるようなグルーヴが余り感じられなかったようにも思います。
勝手な想像ですが、本作は現代の大人に不満を持つ中高生を鼓舞する話かなと。そういう意味でまさしくその標的である無気力な大人である自分にはキツイ作品でした。

そんな中でそんな大人でもグッとくる素晴らしい描写が2つありました。ひとつはなぜか『セーラー服と機関銃』オマージュがあること。雑居ビルの屋上を俯瞰するイメージと穂高がピッと頬を切って出血するところですね。あれを新宿と代々木でやる、そこはよかった。あと本田翼が演じた夏美がメチャクチャ眩しかった。ちょいエロパートを一手に引き受けて誰よりも母性を滲ませる令和の峰不二子に生命を吹き込んだ彼女は素晴らしかった。『空母いぶき』、『新聞記者』、そして本作、彼女こそが海の底に沈もうとしている邦画に陽光を導く巫女なんじゃないかなと思いました。

よね