劇場公開日 2019年10月11日

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「夢を諦めることは妥協ではない」イエスタデイ バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0夢を諦めることは妥協ではない

2020年4月26日
PCから投稿

多くの音楽や文化に影響を与えてきた偉大なアーティスト「ザ・ビートルズ」がもしも…この世界から消えてしまったら…という「もしも…」な物語。

ビートルズがもしいなかったら、ビートルズに影響を受けたアーティストは存在しなくなっているかもしれないが、別のテイストでデビューはしていたかもしれない。実はそういう部分を掘り下げていくという音楽マニアに特化した映画ではないのだ。

メインとして描かれるのは幼馴染で親友のような腐れ縁になってしまっている2人の男女は確実に惹かれ合っているものの、打ち明けることで関係が崩れてしまうのではないかと、友達以上恋人未満を続けていて、もどかしいという少女漫画の設定のような30代前後になっても、まだそんな状態という恋愛バカの物語。

主人公ジャックは、自分の才能を信じてバーやクラブで歌う日々を繰り返しながら業務用スーパーで働いている中にも、音楽フェスで歌えるチャンスが舞い込んできたりとチャンスはあるには、なるのだが…それでもシンガーソングライターとして生きていくには不安定すぎるということで、人生諦めモードで更に恋愛バカ。

そのな時に、事故と太陽フレアによる停電の影響で、原理は全く不明ではあるが、目を覚ますと、ビートルズが存在しない世界になってしまっていた。

事故と太陽フレアによって、本来いた世界からビートルズが消えてしまったのではなく、ビートルズが存在していない別のアースの自分と入れ替わってしまったと考えたほうが正しいのだと思う。

シンガーソングライターのジャックだったから、ビートルズが存在していないことに気づいただけであって、ビートルズから影響を受けたアーティスのオアシスも消えてしまっていたしても、これはビートルズが消えてしまったことによる影響なのかは、わからないのだ。

確かに影響されたアーティストが存在していなかったとしても、別のアーティストに影響されて、少し違うテイストではあるが、オアシスは誕生していたかもしれないし、違う名前でデビューしているのかもしれない。

あくまでジャックの目線で観てしまうから、ビートルズ関連が消えている様に感じてしまうが、これは完全にミスリードであり、製作サイドの罠だ。

その後に明かされることだが、コカ・コーラやタバコ、ハリー・ポッターも存在していないことからも解る通り、様々なものが消えてしまっている世界なのだ。逆に元の世界に存在していなかったものも存在している可能性がある。

完全に『ハッピー・デス・デイ』やドラマの『フラッシュ』などで描かれるマルチバース映画なのだが、何故話の軸がビートルズ中心になってしまっているかというと、ジャックがシンガーソングライターであるのと同時に、元の世界に戻る意味がないからなのだ。

マルチバースものは、例えば母親だったり、恋人だったりと何か大切なものが消えてしまっている設定が多いが、今作はそこに意味を持たない。

ジャックは、ビートルズの存在しない世界で、自分の記憶を頼りに自分の曲かの様に新作を続々と発表していき、天才と評されていくが、観た感じジャックは特別歌が上手くないため、結構音を外していたりする。

それでも周りが評価してくれるということは、ビートルズの歌詞がいかに素晴らしいかということを意味している。

つまりビートルズの曲を使ってでしか有名になることができない=自分に才能はないということに気づいていくのだ。

その部分を強調するのであれば、間に自分のオリジナル曲を挟んだけど、全く評価されなかったというエピソードも入れてもらいたかった。

ジャックがスターになってみたことで、罪悪感や商品として売られることへの圧力、過去の人間界を断ち切らなければならないという、スターの抱えるものの大きさを実感すると同時に、自分はそれらを扱えるだけの器の人間でもないことに気づかされる。

夢見ていたスターの道よりも、平凡な人生の中で愛する人と過ごすことが自分には合っているのだと、夢を捨てる物語でもあるのだ。

夢を叶える=幸せではない。

自分を知って、ジャックにとっては、夢を諦めることは、妥協ではなく、幸せになれる道である。ジャックにとっての幸せになる結末は、別の世界でも共通していたということだ。

バフィー吉川(Buffys Movie)