「ザ・ビートルズへのラブレター的映画」イエスタデイ HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)
ザ・ビートルズへのラブレター的映画
『スラムドッグ$ミリオネア』のオスカー監督のダニー・ボイルと、ロマンティック・コメディの大家リチャード・カーティスが組んだファンタジー・ラブコメディ。
普段、ザ・ビートルズの楽曲を訳しながら聴く機会もないので、今回、日本語字幕で改めて名曲の数々を訳詞を観ながら聴きますと、流石に凄く響くものがありました。
その点では、鑑賞後に、サントラ盤を購入するぐらいに満足できたのですが、ザ・ビートルズへのラブレター的映画としては「ザ・ビートルズが存在しない世界」を描くというアイデア自体は秀逸ではあったのですが、お話しの出来映えとしてはもうあと一歩といったところでしょうか。
主演のヒメーシュ・パテルのことは全く知らなかったのですが、無名のミュージシャンを地でいくような哀愁を漂わせつつ、ユーモラスな雰囲気を醸し出す表情がうまくハマっていましたし、今回、本作品の主演オーディションを見事に勝ち取った歌声もなかなかのものでした。
お話し的には、予告編にもある様に、鳴かず飛ばずの無名のミュージシャンのジャック(ヒメーシュ・パテル)が幼馴染みのエリー(リリー・ジェームズ)をマネージャーとして献身的なサポートも空しく全く売れず、音楽で有名になりたいという夢も萎えてしまい、ついにその夢を諦めた日、12秒間、世界規模で謎の大停電が発生。
真っ暗の中、交通事故に遭ったジャックが、昏睡状態から目を覚ますと・・・。
史上最も有名なバンド、ザ・ビートルズが世の中に存在していない!
世界中で彼らを知っているのはジャック1人だけ!?
ザ・ビートルズの存在が消え去った摩訶不思議な状況の中、ジャックは記憶を頼りにザ・ビートルズの楽曲を披露するようになる。
すると、ライブは大盛況、SNSで大反響、マスコミも大注目!
さらに、その曲に魅了された超人気ミュージシャンのエド・シーランが突然やって来て、
モスクワでの彼のワールドツアーの前座を任されることに。
エドも嫉妬するほどのパフォーマンスを披露すると、ついにメジャーデビューのオファーが舞い込み、ジャックはロサンゼルスへと向かう。
思いがけず夢を叶えたかに見えたジャックだったが・・・。
といったイントロダクションの映画でした。
このパラレルワールドというかマルチバース(多元宇宙理論)的な発想の世界の中とは言え、ジャックは、あれよあれよと時の人となり、富と名声にまみれ、罪悪感にもさいなまれながらも、ザ・ビートルズの曲を歌っているとそれはそれで気持ちが良い。と、ここまではファンタジーなのですが、お話しの展開としては、ダメ男が架空のサクセスストーリーの中、最後は痛いしっぺ返しにあって人生を見つめ直す映画かと思いきや、リチャード・カーティス原案・脚本だけあって、ジャックとエリーの幼馴染みの恋の行方は、果たして成就するのだろうかといった、結局は王道ラブコメディ。
全くもって優柔不断な幼い2人の関係がもどかしく、また焦れったいジャックを心の中からついつい、ののしってしまうほどでした。
エリー役のリリー・ジェームズがとにかくチャーミングで献身的なので、何故にジャックにそこまで思いを寄せるのか「人は見かけによらぬもの」とはこの事かと思うほどでした。
ジャックが、本当に大切なもの・大切な人・大切な事に目覚めるまでの過程が焦れったくてイライラさせられ通しでした。
それこそ「Help!」の歌詞などが上手くマッチングする演出には哀しいやら面白いやら。
グラミー賞アーティストのエド・シーランは、それこそ本当のチョイ役くらいの出演だと思っていたら、予想外に出演シーンも多く、このお話しの展開を左右する重要な役割を担うほどだったのも驚かされました。
芸能プロダクションのマネージャー役をノリノリで演じたケイト・マッキノンも良い仕事をしていました。
ジャックを監察するかのように見ている謎の男女の存在や、ザ・ビートルズといえば今は亡き彼の人の扱いは意表を突いていましたが、ザ・ビートルズへのラブレター的映画だけあって尊敬の念をも表現したのかと思いました。
同じ事実を歪めて、あった出来事を変えるにしても、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)よりも、今作での彼の人の登場の方が多幸感が溢れてきましたね。
また、パラレルワールドに紛れ込んだジャック以外には、ザ・ビートルズ以外にもオアシスやコカコーラやシガレット(タバコ)など・・・。も存在しない世界という小ネタも面白かったですね。
あたかも、さも現代のCDアルバムの製作過程を揶揄するようなくだりも面白かったですが、ジャックの採った結末が『はじまりのうた』(2013年)と同じ様な結末だったのが少々残念でしたが、あのような同じケリの付け方しか仕方がなかったのかな。
出来れば、ジャックのオリジナル曲という想定の『サマーソング』をもっと上手く使って欲しかったですね。例えば、ラストはザ・ビートルズの『オブラディ・オブラダ』よりも、最後は『サマーソング』で締めるとかにして欲しかったです。
私的な評価としましては、
パラレルワールドというかマルチバース(多元宇宙理論)的な発想の世界に紛れ込んだ先は、「ザ・ビートルズが存在しない世界」だったというザ・ビートルズに向けたラブレター的な映画にしては、逆説的なアプローチで発想自体はすごく秀逸。
そう言ったファンタジー映画の体裁を採りつつも、王道のラブコメディという辺りは良いのですが、ラブコメ的な面ではややお話しの展開が先読み出来てしまう辺りが、いま一歩な感もあり、非常に面白い題材の映画だけにちょっぴり惜しかったですね。
ですので、五つ星評価的には、四つ星評価の★★★★(4.0点)くらいの評価が相応しい音楽映画と思いました次第です。