「色と艶を色彩豊かに歪に描いています。」人間失格 太宰治と3人の女たち マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
色と艶を色彩豊かに歪に描いています。
秋の話題の作品の1つでしたが、公開してから約1ヶ月近くが経って、やっと観賞しました。
蜷川実花監督作品は好みが結構分かれる作品で、観賞した人の感想も割りと辛口がありますが、自分的な感想は、そんなに悪くないです。
色彩豊かなビジュアル性を重要視した感じで、戦後の激動の時代背景と太宰文学の映像表現としては合っているのではないかと思います。
また、晩年の太宰治の私生活を真面目に描くとかなり陰鬱などろどろした感じになるし、太宰治のダメさ加減だけが目立ってしまうので、これぐらいアート的に描いた方が良いかと思いますw
また、映像的にもヌーベルバーグな感じもありますし、五社英雄監督作品を思わせる様な色と艶の描き方は結構好みではあるんですよね。
なので、作品の質と蜷川実花監督の方向性が割りと合致したのではないかと思います。
ただ、それでもツッコミどころはやっぱりあって、ラストの身を削る様な執筆シーンなんかは“なんでもっと前半でこれを出さなかったのだろう”と。
太宰治が女好きと言うのは分かっていても、もっとそれ以上に小説家としての才能の片鱗を見せないとただの酒飲み女好き野郎にしか映らないんですよね。
人間 太宰治は色を好む刹那な生き方をしてますが、人間的にはチャーミングな部分もあって、だからこそ女性とあれだけの仲になる訳で、そこを描かないと女誑しのジゴロにしか見えないし、人間的に弱い男にしか映らない。
小説家としての太宰治を描いてこその太宰治の魅力が栄えるので、天才たる由縁を描かないと魅力が半減します。
特に「人間失格」の執筆シーンなんかは駆け足でしか描かれてないので、割りとサクッとし過ぎ。
エンディングのスカパラの曲も悪くないけど、なんか合ってない。
1番は製作陣と蜷川実花監督との方向性が微妙にズレてる様に感じます。
監督のやろうとしている事はかなり独特な感性での表現なので、この辺りを理解と言うか、上手く足りない所をフォローしないとただ変わった作品にしかならないのではないかなと思うのですが、如何でしょうか?
キャストの方々はなかなかな布陣で小栗旬さんの太宰治は合ってる思います。
また、3人の女性もまさしく身体を張った演技で富栄役の二階堂ふみさんは「翔んで埼玉」の檀ノ浦百美役から考えるとちょっとビックリです。
坂口安吾役の藤原竜也さんはなかなか豪勢ですなw
好みの分かれる作品ではありますし、「ヘルター・スケルター」同様、蜷川実花監督のやりたい事をそれなりに貫いた感はあります。
そこに共鳴出来るかどうかなんですが、足りない所を埋め過ぎると蜷川実花監督作品の良さも消える様にも感じます。
歪な美しさと言うのでしょうか? それでも足りない所を感じてしまう困った作品ですが、ちょっと癖になる感じもあります。
なんでもそうですが、観ない事には分からないし、観る事で自身の枠は広がっていくので、こう言った作品はたまには嫌いじゃないですw
感性に語りかける作品であるので、興味があって、タイミングが合いましたら、如何でしょうかw