「左利きの太宰治が象徴するデフォルメ世界」人間失格 太宰治と3人の女たち Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
左利きの太宰治が象徴するデフォルメ世界
自死する38歳の太宰治を演じる小栗旬も同世代(36歳)ではあるものの、こんなヤサオトコでいいのだろうか。これは太宰治ではなく、やっぱり小栗旬だ。
執筆シーンで左利きのまま、太宰治を演じてしまうのが気になって仕方ない(太宰は右利き)。しかしこれが確信犯で、実話ベースだけどフィクションであることを象徴している。
小説「人間失格」の映像化ではなく、「人間失格」を地で行く太宰治の晩年の生き様をかなりデフォルメしている。太宰治を取り巻く3人の女性(正妻と愛人)を、宮沢りえ(46歳)、沢尻エリカ(33歳)、二階堂ふみ(24歳)という各世代の主演級が演じるのはじつに豪華だし、それぞれがオーラを放ってぶつかり合う。
いちばん若いはずの二階堂ふみが、キャリアの長い2人に負けていないのが凄い。もちろんこれまでの出演作を見てくれば納得なのだが、同世代の女優でこれだけの濡れ場を堂々と演じられるひとはいない(そもそもそんな役が回ってこない)。
現実にも太宰治の妻たちは美人ばかりで、太宰は酒・オンナ・薬にだらしないクソ野郎だった反面、愛し愛され、破滅的だった"精神性"を、蜷川実花監督の世界観で表現している。
これまでの激しい色彩は本作では抑えめだが、別のやり方でその個性はしっかりと主張されている。いつも感心するのは、むしろ蜷川実花の要求に応えるスタッフ側の努力。歌舞伎の屋台崩しのようなセットで、太宰治の書斎を表現するシーンが印象的だ。
太宰治を肯定的に表現すると、"自殺"を美化してしまうことになるので危険だ。ほとんどの成熟した観客は心配ないが、意気がる若者が感化されないとも限らない。良くも悪くも、小栗旬の太宰像は美しすぎる。
(2019/9/14/TOHOシネマズ日本橋/ビスタ)