「良い映画になったはずの素材、物語・構成の貧弱さにガッカリし落ち込んでしまった」Fukushima 50 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
良い映画になったはずの素材、物語・構成の貧弱さにガッカリし落ち込んでしまった
若松節朗監督による2020年製作の日本映画。
配給:松竹、KADOKAWA。
原作は未読だが、出演俳優は一流どころだけに、相当にガッカリさせられた。
3.11の原爆事故、あれが起きた原因、その事実を捻じ曲げるために作られた映画なのかとも疑ってしまった。
まず、首相の描かれ方がアンフェアで、まるで首相のせいで事故が起きた、もしくは悪化したかの如き描かれ方であった。当たり前であるが、事故自体が起きたのは原発行政および東京電力の長年の安全性軽視に起因し、当時の首相は全く関係ない。映画でも少し描写されているが、事故が起きた時の東電本社首脳の無責任・無能ぶりを知れば、首相が現場責任者に会いに行ったり、東電本部に乗り込むことは、良く理解できるところ。原作に起因するのかも知れないが、原発行政の責任を守るためなのか、意図的に首相を悪く描いている様に思えた。
何よりも、原発事故の原因を俺たちはいつか驕り自然を舐めていたと、安易に総括しているのが、情けない。非常電源さえ、水が来ない様な高い位置に置いていたら、電源喪失は防げていた訳で、本質的には確率が低いが重要な危機に念のために備える精神さえあれば、防げた事故に思える。これだけの大災害を起こして、あの集約では、未来のための教訓に全くなっていない。多くのお金と時間をかけて作った映画なのにと、本当に情けなく思ってしまった。
現場の人間が献身的に命がけで頑張ったことは、事実だとは思う。だけど、どうして、主人公による娘の結婚反対のエピソードを、物語の中心にぶち込んでくるのだ。日本映画の本当に悪い癖により、稀有の物語性を薄めてしまっていた。純粋な職業人・技術者としての責任感、プライド、使命感、仲間意識、リーダーシップ、そういった部分だけで物語を構成して欲しかった。ドラマチックな展開の事実と世界でもまれにみるような献身的な50人の物語だけに。
報道等で見聞きしてた吉田昌郎所長、随分と魅力的なリーダーに思えた。渡辺謙演ずる所長も良い味は出していたが、もっと突っ込んだ脚本によるリーダー像を是非とも見たかった。とても残念であった。
原作門田隆将、脚本前川洋一、製作代表角川歴彦、エグゼクティブプロデューサー井上伸一郎、製作堀内大示、大角正、布施信夫、井戸義郎、丸山伸一、安部順一、五阿弥宏安、飯塚浩彦、柴田建哉、岡畠鉄也、五十嵐淳之。
企画水上繁雄、企画プロデュース椿宜和、プロデューサー二宮直彦、撮影江原祥二、照明杉本崇、録音鶴巻仁、美術瀬下幸治、衣装加藤哲也、へアメイク齋藤恵理子、サウンドデザイナー柴崎憲治、編集廣志良、音楽岩代太郎。
演奏五嶋龍、長谷川陽子、東京フィルハーモニー交響楽団、特撮三池敏夫。
VFX監督三池敏夫、スクリプター幸縁栄子、キャスティング椛澤節子、技術指導平野勝昭
ラインプロデューサー梶川信幸、音楽プロデューサー小野寺重之。
佐藤浩市(伊崎利夫)、渡辺謙(吉田昌郎)、吉岡秀隆(前田拓実)、安田成美(浅野真理)、緒形直人(野尻庄一)、火野正平(大森久夫)、平田満(平山茂)、萩原聖人(井川和夫)、吉岡里帆(伊崎遥香)、斎藤工(滝沢大)、富田靖子(伊崎智子)、佐野史郎(内閣総理大臣)、堀部圭亮(加納勝次)、小倉久寛(矢野浩太)、石井正則(工藤康明)、和田正人(本田彬)、三浦誠己(内藤慎二)、金井勇太、増田修一朗、堀井新太。