「今はなきナイト リッダーへ - 孤立する真実」記者たち 衝撃と畏怖の真実 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
今はなきナイト リッダーへ - 孤立する真実
ナイト リッダーは、この後、売却されて、更に理由は不明だが間もなく解体されてしまった。
この踏み込んだ取材が原因だったのだろうかと強く疑念を持ってしまう。
ナイト リッダーは、日本ではあまり知る人のいないニュース配信会社だった。
90年代半ば過ぎまで、僕は、石油関連の情報が欲しくて、会社に頼んで毎週郵便で送られてくるナイト リッダーのニュースレターを読んでいた。
石油関連の情報はまあまあ充実していて、日本でもそういう関連の仕事をしてる人は読んでいたように思う。
ただ、あんな会社が(ごめんなさい)、この真実に一番近いところにいたとは!という感想を持ったことも事実だ。
つまり、政治的に踏み込んだニュースに肉薄するような配信会社というイメージはなくて、エンディングに二人の記者のテレビのインタビューシーンが出てくるが、あの受け答えの感じだけだと、それ程エスタブリッシュメントな会社じゃないよね(言葉足らずで申し訳ない)という印象なのだ。
ただ、冒頭に出てくるように、独立したメディアが、アメリカの民主主義を支えているというのは改めて重要なことだと認識させらる。
記者の仕事は淡々と事実を掘り下げることだ。
この映画には、真実を暴くといった映画にありがちな過度なサスペンスや、緊迫した場面、強面の悪人が裏で仕切るストーリーはない。
映画としては、エンターテイメント性が足りないという人も少なくないと思う。しかし、この映画の演出には、いつの間にか、いくつもの大小の嘘が積み重なり、真実となってしまったことこそが怖いのだと訴えているように感じるところもあるし、新聞記者の仕事としては、地道で地味な取材や、文章を推敲する場面とか、日常の実像感は逆に良く出ていたのではないかと思う。
僕は、世界貿易センターのビルに入っていた会社で働いていた友人がいて、彼はやや遅刻がちに出勤する傾向が幸いして助かったが、彼の友人の中には亡くなった人が何人かいて、今でも、テロの話は、彼の前では出来ない。
こんな状況で僕は、イラクが、この背後にいる、或いは、大量破壊兵器を所有している可能性が高いと思い込むようになっていた。大手メディアのニュースに完全に依存していたことや、何か憎悪のようなものを抱えてしまったからだ。
その後、イラクには核兵器の製造施設も、化学兵器もないことが明らかになった。
しかし、既に、多くの人命が失われていた。
映画では、バイデンも、ヒラリークリントンもイラク侵攻に賛成したと伺える場面が出てくる。
憎悪は、人の冷静な判断を狂わせる。
一般の人だけではなく、正確な判断が要求される政治家や軍人もだ。
また、憎悪に乗じて、影響力を回復させたり拡大したい人間が跳梁跋扈し、真実を覆い隠そうとする。
こうして真実は孤立するのだ。
ニュースから何を読み取るか、何が真実か、発信している側の意図は何か、目的は何か、そして、どこに導こうとしているのか。
僕たちは考えているか。
僕たちは誰かに煽られていないか。
あの時、身近で被害に合いそうになった友人がいた為に憎悪を人一倍感じてしまった人間として考えてみたい。
今世界中で起きている分断の背景は何か。グローバリゼーションの中で阻害されていたのは誰か。何故か。反対に、分断の結果利益を得る人はいるか。いるとしたら誰か。そして、僕たちは結局どこに向かうのか。
日本にもメディアがらみでは、これほどではないにしても、似たようなことがある。
特定の新聞記者の質問を巡る、記者を排除しようとする政治家とメディア側とのやり取りは記憶に新しい。
いくつかの学校法人を巡るトラブルで、政治を批判的な目で追うメディアを、不公平と言って拗ねる政治家がいて、お笑いタレントとアイドルとランチしてイメージアップをはかっているのには驚かされた。
ゴシップはどうでも良い。
特定のイデオロギーを、さもアイデンティティのごとく振りかざす媒体もどうでも良い。
真実を明らかにしようと研鑽するメディア、或いは記者は世の中には必要なのだと改めて感じさせられる映画だった。