バイスのレビュー・感想・評価
全25件中、1~20件目を表示
イラク戦争当時にネオコン政治家たちのやっていたことを、ユーモアも交えながら丁寧に描いている。
アダム・マッケイ監督による2018年製作のアメリカ映画。原題:Vice、配給:ロングライド
未だ生きているらしいチェイニー元副大統領を始め、ラムズフェルド元国防長官、ジョージ・W・ブッシュ元大統領らネオコン政治家たちを、ユーモアを交えながらも強烈に批判しており、とても驚かされた。日本では殆ど考えられない映画だ。しかも、制作に人気俳優ブラッド・ピットが関わっている。
ただこの映画のおかげで、他国侵略であるイラク戦争を大量破壊兵器保持の偽情報を理由に引き起こしたブッシュ政権の背景を少し理解できた気がした。ブッシュ大統領があんな感じとは知らなかったが、調べてみると大学時代は典型的金持ちのバカ息子だったとのことで、映画の描写はかなり事実に近い様だ。
共和党右派によるFOXニュースや御用学者等の最大級活用による自分達に都合の良い世論形成の描写も生々しい。CNN等とバランス取れている様に錯覚していたが、視聴者数で言えば断然FOXニュースなのか。意外だったが、日本の状況とも類似する。成る程というか、トランプ大統領誕生の理由も教えられた気がした。
クリスチャン・ベールがチェイニーを演じていたことを見終わった後に知り驚愕。あまりの変身ぶりに視聴中は全く気づかなかった。妻のリン・チェイニーが随分と良い奥様ぶりで好感を抱いた。彼女を演じたのが「メッセージ」主演のエイミー・アダムスであることも気づかず。演ずる役に思いっきりなりきる一流俳優たちの姿勢に感嘆。
映画の若い語りべが事故に遭遇し、彼の心臓がチェイニーに移植される展開にはビックリ。やはり権力を使って優先的に心臓移植がなされたのか?流石に当時話題にもなったらしい。
映画を通して、軍事産業や大企業に迎合する米国政治、ひいては資本主義国家の政治の問題をあらためて突きつけられた気がした。やはりそれに異論を主張できる健全な映画を含めてのメディアの存在が非常に重要であることも併せて再認識。日本でも権力者を丁寧に描く、、この手の映画を是非見てみたいものである。
製作ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、ジェレミー・クレイマー、 ウィル・フェレル アダム・マッケイ、ケビン・メシック、製作総指揮ミーガン・エリソン 、チェルシー・バーナード、ジリアン・ロングネッカー 、ロビン・ホーリー、ジェフ・ワックスマン。脚本アダム・マッケイ、撮影グレイグ・フレイザー、美術パトリス・バーメット、衣装スーザン・マシスン、編集ハンク・コーウィン、音楽ニコラス・ブリテル、特殊メイクグレッグ・キャノン。
出演クリスチャン・ベール(ディック・チェイニー)、エイミー・アダムス(リン・チェイニー)、スティーブ・カレル(ドナルド・ラムズフェルド)、サム・ロックウェル(ジョージ・W・ブッシュ)、タイラー・ペリー(コリン・パウエル)、アリソン・ピル(メアリー・チェイニー)、リリー・レーブ(リズ・チェイニー)、リサ・ゲイ・ハミルトン(コンドリーザ・ライス)、ジェシー・プレモンス(カート)、ジャスティン・カーク(スクーター・リビー)、エディ・マーサン(ポール・ウォルフォウィッツ)、シェー・ウィガム、ビル・キャンプ、ドン・マクマナス、ナオミ・ワッツ、アルフレッド・モリーナ。
3.2権力
権力の反乱を見たような映画でした
全体としてきっちりかっちり完成度の高い映画でした
コラージュのように様々な場面、ユニークさを散りばめていていて飽きずに見れました
最初はあまり共感できる場面がなかったので、平凡な印象でしたが
徐々にイラク戦争とPR作戦、権力の反乱の場面が見れて
「権力はしょうもない」という感情が湧いたのでそこで0.2点くらい心的パラメーターが動いたような気がします。
ディックの家族風景を見るたびに思ったのは、その数十億の資産と権力を「なんのために手に入れているのか」という点が疑問に移りました。
魚釣りにはそこまでの資産はいらないはず
アレ?そこまで信念もなかったはず
かれはただ「勝ちたかった、なめられたくなかった」だけなのだろうと思いました。
資産も、経営もできちゃう、しかも一元的なパワーを持ってる点というで「勝たないと」意味がないという発想だったのだろうと思いました。
しかし、少し勝負する機会が少なかったのではなったのかとも思いました。
「なんのために勝たないといけないのか」その点を考察する時間がアレば
もっと欲しい物が簡単に手に入ったのではないでしょうか。
そうしたことを妄想できたという点では良い映画だと思いました。
あとアメリカの法律本当に乱れとうやんけと検索する機会もあったので良かったかなと。
ただ総合的には3.2点という感じでしょうか
もう少し共感性と、パンチのほしいところはありました。
実話を茶化したのはクレーム逃れ?
ケネディ暗殺や世界を震撼させた9.11ですら未だに諸説あるのですから、クレジットにあるように本当のようなフィクションというのが落としどころでしょう。
変なおじさんが度々出てきましたがまさかドナーだったとは、シェ-クスピアまで引用して妙にコメディ仕立てにしたところやエンドロールの演出を観てもアダム・マッケイのエクスキューズが見て取れます。実話といいつつ茶化したのはクレーム逃れだったのでしょうか・・。
高校時代のガールフレンドだった妻の尻に敷かれ娘を溺愛する凡庸な人間が狡猾、冷徹な政治家に成り上がったかはドナルド・ラムズフェルドの影響とみてとれました、チェイニーの大体の策略にはラムズフェルドが絡んでいますしね。政治家絡みのダーティな話は映画でも多いので亜流の一つくらいの印象しか受けませんでした。ただ、どこの世界でも悪知恵のブレーンはいるものですね、地球温暖化を気候変動、相続税を死亡税に言いかえるくだりは笑えます。
今まさに大統領選の真っ最中なのでフロリダの開票結果の件は興味津々、ゴアが勝っていたら歴史は変わっていたでしょう、ちなみに本作のプレミアに来たトランプ一家は途中退席したとのこと。チェイニーは観ていないようですがノークレイム、ノーコメントなのは大人の対応とも思えます。
こういう映画を作れるアメリカはすごい
まずもって、そう思う。脚本、台詞含めてどこまでリアルなのかと、実際そのままなんではないか思うし、社会的風刺、ドキュメンタリーでありながらエンタメ要素もある。ただ単にチェイニーを馬鹿にしている訳ではなく、そうさせてしまった、選んだ国民にも責任があるように描いていると感じた。クリスチャン・ベールはメイクも凄いが本人への寄せ方が半端なく、凄まじい。もはや、クリスチャン・ベールの欠片もない。ブッシュのサム・ロックウェルもそのままんだし、パウエルも本人出演かと思った。特にベールの若かりし飲んだくれのバカっぽいチェイニーから、権力を次第に得ていく、ふてぶてしいチェイニーまで演じ分けるのはやっぱり名優。確かにイラク侵攻で両国で多大な死者を出し、収賄疑惑もある犯罪者かも知れないが、家族への愛は絶対的で、人間らしいところも描いており、全面的に悪と描いていない気もする。特に自身が大統領候補だったにも関わらず、娘が同性愛者であることから、家族を守るために下野するなど、良い父親でもある。演説ベタでもあり、ある意味こんな平凡な人が、つまりは誰にでもチェイニーになりうると描きたかったのかもしれない。実際の本人は相当努力したのだろうけど。尻を叩きながら、献身妻を演じるエイミー・アダムスは安定感あり、はまり役だった。
大衆の「凡庸な悪」を告発してもいるような。
構成が面白いと思いました。冒頭からの軽快なナレーションが一体誰なのか、という軽いミステリー要素もあり、映像のリズムもスタイリッシュです。
ナレーションの人は、顔も出します。ええ?だれだれ?って感じです。
無粋な人間なのでさっさとネタバレしておくと、ナレーションの人は、ご近所をジョギング中に事故にあって、脳死状態となり、望んだがどうかは不明だけどその心臓をチェイニーに移植された人です。つまり、チェイニーの”新しい心臓”がチェイニーの人生を俯瞰しているという物語です。
彼は、チェイニーが自分の心臓を”誰かの心臓”ではなく”新しい心臓”と呼ぶことに不満そうでした。そらそうだ。
息子ブッシュが似すぎなので、写ってるだけで笑えます。
息子ブッシュはだいぶあほの子っぽい描写で、面白かった半面、あほの子が曲がりなりにも大統領になってしまうってあんた、というあきれを感じます。
こうして政治家という人々を毛嫌いする感情だけが肥大していくのは良い傾向とは言えませんが、それはおいといて。
チェイニーさんは特段思想もなさげな人です。乱暴者で、飲んだくれで、無為な感じでした。恋人に捨てられそうになって何とかワシントンDCで議員関連のインターンになって、そこで世渡り上手さを発揮し、ほぼそれだけで権力を増大させていったように見えます。おそらく彼のモチベーションは妻と子を食わせる事、ビッグになる事、くらいなんだと思います。マイルドヤンキーのメンタリティと似通っているように感じました。ビッグになる事、つまりある種の権力を握って好き勝手にすること。なんか出てくる政治家たちの望みは、すべてそれに見えました。
チェイニーさんは、妻リンの言いなりです。妻の望みをかなえようと頑張ってきました。妻は優秀だけど女だから進学もいい就職もできなかった人です。全然毛色の違う映画ですが『ギフテッド』の祖母イヴリンを思い出します。
能力を発揮する機会が与えられず、そのうっぷんを夫を支配することで、自分を慰めているんでしょうね。父親から母親が殴られるのを見て育ち、自分の努力は全く報われない。そら、つらかったろうと思います。
チェイニーさんが出世を極めてからは影が薄い感じでした。
いろんなことを思い通りに、自分の好きな人に便宜を図り、嫌いな奴には不利なように(あるいは得をしないように)計らう。仲間内でそういうことをするのが、経験ないわけではありません。こすいことをしてええとこどりできてラッキー!という気持ち、わからなくもありません。とっても下品だけど、ちょっとした万能感ありますもんね。
ほんとはそんなことを目的にしてなかったとしても、そういうおいしい誘惑がいっぱいあるし、激務だし、政治家ってだけでわたしみたいなのには嫌われるし、どうしようもなく利己的な感じに落ち着くのかなって思いました。
また、最後のほうで、うろ覚えだけどナレーションの心臓くんが、だれが彼(ら)を選んだのかということを言っていたように思います。
まじめな問題提議に対して、若い女子2名がそんなめんどくさいこと考えたくなーいって顔で、ワイルドスピードみにいかない?と私語をする描写がありました。
政治家たちだけではなく、彼らに権力を握らせてしまった責任は確かに私たちにあります。
世界のそこここにある不正・不平等・危機etcに対して、私は何をしたか。自分の快楽を優先せずに何かをしたか。
そういう問いかけがあったように思います。
それを放置しているのは、お前だ、と心臓くんは言っていたように感じました。
そして、問題から目をそらしてワイルドスピードで盛り上がるかんじって、まさに”凡庸な悪※”やん、あ、あたしがいわれてるんじゃとおもい背筋が寒くなりました。
※凡庸な悪(第二次大戦中に起きたナチスによるユダヤ人迫害のような悪は、根源的・悪魔的なものではなく、思考や判断を停止し外的規範に盲従した人々によって行われた陳腐なものだが、表層的な悪であるからこそ、社会に蔓延し世界を荒廃させうる、という考え方。ユダヤ人の政治哲学者ハンナ=アーレントが、親衛隊中佐としてホロコーストに関与したアドルフ=アイヒマンの裁判を記録した著書の中で示した。©デジタル大辞泉)
「今度のワイルドスピード楽しみ^^」
メタ表現とブラックコメディ、そしてプレゼン要素を盛り込みながら、歴史映画としての意味合いを込めつつ事件を紐解く独特の様式としての監督作である。
日本で視ていれば、あくまでもテレビのニュース番組でしかお目にかかれないアメリカの権力者の面々が、その本音を余すところ無く吐露しながら活躍というか暗躍している。勿論、ノンフィクションではないし、エンドロール後のシーンでもリベラル側からの視点が色濃いので100%純度のファクトではない。しかし鑑賞後のこの陰々滅々さ、暗澹とした気分はなかなか拭えないのも事実である。コメディ的要素もここまで来るとサッパリ笑えなく、皮肉さもすんなり受け取れない鬱屈な心持ちなのである。それにも増して今作の余りに沢山の専門用語、とりわけ何度も登場した『一元的執政府』という概念が中々飲み込めずにストーリーを集中して観る事を困難にさせた。法解釈を駆使し、とりわけダブルスピークを持ち出しながら、その巨大なる権力を行使することに取憑かれる男達にはまさに“理念”なんてものはジョーク以外のものではないのである。否、男だけではない。チェイニーの妻でさえもその権力の魅力に取憑かれ黒幕としての役割を嬉々として行なっていたことも同罪である。能力がある人間が権力を行使するのは当然という思考はいつまで経っても逃れられない“煩悩”であり、だからこそ人間たらしめている要素の一つなのであろう。その多くは間違った道に向かうのだが、結果に至りそこで歴史的判断が成される。しかし、過ちは何度も何度も繰り返される。あれだけ映画『1984』で警報を鳴らしたディストピアを誰も止めることなどできず現実となって襲いかかる。そうして人々は政治から益々距離を置くようになる。本来ならばその権力に取憑かれた人間を排除できる権利を有している筈の市井の人々なのに・・・。チェイニーは言う。「私は謝らない」。そりゃそうだ、選んだのは国民なのだから、天に唾する喩えを出すまでもない。
残念ながらAIに政治を一任するしか選択肢がないなんてディストピアがリアリティを以て結論に流されてしまいがちになる程の負のパワー全開の作品であった。
映画表現って「自由」なんだ、って思わせる秀作
同監督の前作、「マネーショート」でもあったが、他の監督では絶対やらないような、斬新な演出は面白い。「映画表現・演出って自由なんだ!」って再認識させてくれる作品。
(具体的には、中盤で、エンドクレジットが流れる場面とか、本当のエンドクレジット途中で、「リベラル臭い」と作品への批判を先取りするシーンとか…)
内容については、監督なりの「トランプ時代」を描いたのだと思う。
そういう意味で言えば、スピルバーグの「ペンタゴンペーパーズ」や、ライトマンの「フロントランナー」、スパイク・リーの「ブラック・クランズマン」、ファレリーの「グリーンブック」と同種の作品だと思う。
いずれも、トランプと直接関係ない実話ベースの話ではあるものの、「トランプ時代」の今だからこそ作られた作品であると同時に、普遍的な価値を持った作品だと思う。
上記作品のうち、今回のオスカーノミネートされた「ブラック~」「グリーン~」本作の3作品の共通点は、重いテーマを扱いつつも、全体的な空気はコメディであり誰しも楽しめる作品だと思う。
特に本作は、コメディ要素が特に強く、私は3作の中で、一番好きだし、オスカーに値する作品だと思う。
悪い奴ほどなんとやらというが
副大統領というと陰から支えるという立ち位置なんだと思っていたけど、この映画を観たら認識が変わってしまうというか、大間違いだった。
映画を観る前から悪い人間という先入観があったけど、妻、子供をとても愛している、いいお父さんです。
妻の母が亡くなった時、妻と娘、家族には金輪際、近づくなと脅しみたいに酔っ払いの義父に宣言します。
警察も詳しく調べていないという感じで終わっているし、日宇言う野ってもし彼が政治家の道を真っ直ぐに歩いていたらスキャンダルになるんじゃないと思ったのですが。
娘が同性愛者というのもびっくり。
一度は政治家の道を退いて普通の民間、犬のブリーダー、普通ならアメリカンドリーム、心臓の病気もあるんだから、個々で湯余生を過ごせばいいんじゃないと思ったけど。
こういうのは悪運強いというか、神の気まぐれで何らかの才能を開花させていくんじゃないかと思わせてくれます。
奥さんを演じる、エイミー・アダムスの演技がしたたかで目を奪われました。
駄目な男に何故、そこまで尽くすのかと不思議に思ったのですが。
やはり男尊女卑、女であるが故にどんなに頑張っても上にはいけないという現実の厳しさ。
両親の不仲な生活を観ていたら少しでもいい生活がしたいと思っても不思議はないと思ってしまいました。
そして死にかけたけど、復活って、ええっ、そうなの、この部分も実話なのとびっくりです。
映画が終わった後、初老の女性に難しかったと聞かれて。
「悪い男という者は、なかなか死にません」
と思わず本音を漏らしてしまいました。
よかった
チェイニーは自分の家族にはあれだけ愛情があるのに、イラクやアラブの民衆には全く非情だった。親しい人以外は関心がないというか、虫けらみたいに思っているのだろうか。そういう人たちが選挙で人々に頭を下げるのは相当なストレスなのではないだろうか。ひどい人物だが、日本にも彼のような人物がいたら、とっくに拉致問題は解決しているだろう。
この映画を作った人たちは勇気がある。ところどころふざけた感じが楽しかった。
クリスチャン・ベールの怪演
これがターミネーター4のクリスチャン・ベールが演じているとは衝撃だった。アクション俳優だと思っていたが、確実に演技の幅が広がっている。
内容についてはリベラルの匂いがするが(笑)、ニュースを見る大人なら理解できる内容。
エンディング間近の釣り針の形が意味する比喩、暗喩の批判が一番痛烈。日本では作れない作品だと感じる。
こんなノリは嫌い。
おもんないし!
映画として どーなん?!
事実に基づく…
怖いわ!
自覚も責任感もない但の
ゲス野郎にしか…
「記者たち」観た後なので
流れ的な事は理解できてたような
気がする。あっちの方が見応えあったし。
でも この映画、何が言いたいのか分からん!
コメディ?
どこで笑うん?
「ワイルドスピードが楽しみ」
まぁまぁでした。
俳優各々の役作りはすごい(特にクリスチャン・ベール)のですが、展開の仕方が単調で、退屈しました。皮肉っぽく笑わせる箇所も今ひとつ弱くてくすぶって終わりという感じ。真面目に糾弾するでも笑い飛ばすでもなく心が動かなかったです。
面白かったのは、ブッシュ大統領のアホさ加減とニュースキャスターにナオミ・ワッツが登場したこと、エンドロール中のオレンジ顔の大統領のくだりくらいかな。
悪い冗談であってほしいけれど…
存命の政治家をここまで「悪役」として描くというのは、いくらアメリカとはいえ、相当な覚悟が必要だったのでは思う。
9.11以降のイラク派兵には何の大儀もなく、むしろ取り返しのつかない負の遺産を残してしまったことは、いまや疑いようのない事実として伝えられている。
その戦犯のひとりとして名前が挙がるのが、ディック・チェイニー氏。
法律の隙間を縫うかのように、副大統領でありながら、大統領以上の権力を手にしていたとは…
本作では、強烈なブラック ユーモアと共に、チェイニー氏がやらかしたことの数々を描いている。
中盤に出てくる仕掛けには、思わず苦笑してしまった。
そうだよね、あの時、そうなってくれていれば…
ブッシュJr.が大統領になったことも、当時としては意外中の意外だったようだけれど、それを凌ぐ現実が、トランプ大統領として具現化している。
歴史は繰り返す。だからこそ人は歴史から学ばなければいけない。
本作と「記者たち」の両方を観ることで、本当に絶望的な気分になるのだけれど、こんな愚かなことは二度と起きてはいけないという思いにもなる。
政治というものについては、常に疑いの目をもって対峙しなければいけない。
副大統領の陰謀
ジョージ・W・ブッシュ政権時に副大統領を務めた
ディック・チェイニーが、実は大統領以上に強大な
権力を振るう“影の大統領”として暗躍し、挙げ句
イラク戦争を勃発させたりISISを台頭させたりして
世界をシッチャカメッチャカにした……という、
嘘か真か、トンでもない内容の政治ドラマが登場。
...
毎度ながら驚かされるのは、チェイニーを
演じたクリスチャン・ベールの変貌ぶり!
今回もまた若きデ・ニーロばりのイカれた役作りで
臨み、かつて筋骨隆々のバットマンだったはずが
マイケル・ケイン版アルフレッドみたいな風貌に……。
外見だけでなく話し方や立ち振舞いもまるで別人!
あれはもうクリスチャン・ベールじゃない、
クリスチャン・ベールですよ!(錯乱)
ディック以上に肝の据わった論説で夫をのしあがらせる
妻のエイミー・アダムス、冷徹かつ打算尽くしの政治論
をお下品な言動に乗せて連発するスティーヴ・カレル
など、脇を固める役者も芸達者揃いで楽しい楽しい。
ナオミ・ワッツやアルフレッド・モリーナなどの
大物が何の前触れもなくスッと現れるのにもニヤリ。
セリフにも演出にも人を食ったユーモアがポンポンと
放り込まれていて、思わず笑ってしまうシーンは多い。
副大統領になる決心を固めるシーンをシェイクスピア風
の文学的比喩ゼリフまみれ(雷鳴付き)で演出したり、
高級レストランで法律を自分達に美味しく料理して
もらったり、苦笑いが浮かんでしまうシーン満載。
“最初の”エンドロールが流れ出した瞬間には
思わず吹き出しそうになってしまった。
まあ、あそこで本当に終わってくれてたら世の中
もう少し平和だったのかもしれないけどねえ……。
...
冴えない大統領に言葉巧みに取り入り(釣りに例えた
所は笑えるし秀逸)、自分の都合の良いように法を
拡大解釈して副大統領の権限を濫用、自分と意見の
合うメンツばかりに権力を与え、己の信じる正義を
遂行せんと、周囲に議論の余地も与えず突っ走る――。
いやはや、アメリカのみならず国内外の何億もの人々
の命を左右するような強大な権力を、たった独りの
主観に基づいて振るうだなんて恐ろしい話も無い。
その権力を振るうのが『自国のためなら証拠をでっち
上げてでも敵国を潰して資源を奪っても構わない』
という行き過ぎた愛国心の持ち主ならば尚更だ。
チェイニー自身も危険だが――
この映画は、彼のような人間が好き勝手に振舞うこと
に歯止めを掛けられなかった周りの人間やシステム
そのものも同じくらいに危険だと訴えている気がする。
そもそも自分で何も考えられないようなリーダーが
選挙で選ばれ、くわえて誰か1人あるいは一部に
権限が集中するような曖昧な解釈のできてしまう
システムだったからこそこんな事態になった訳で。
ま、逆に決定力が無くて大事な事を何も決められない
というのも困りものなので、その辺のバランス取りが
難しい所とも思うのだけれど。
...
一方で本作は、チェイニーを単なる権威主義の
ド悪党のように描いている訳でもない。
彼は事あるごとに「家族を守る」「国を守る」と
口にしていた。何が国益につながり、祖国を強く
するのかを常に意識していた。彼のやり方自体には
僕は全く賛同できないが、国や家族にかける彼の
その想い自体は割とまっとうなものだったと思う。
レズビアンだった次女を反保守派の攻撃から守ろう
として政治の表舞台に立つことを避けるようになった
というのも、彼が「家族を守る」という点では
まっとうな人間だったからだと思う。
(終盤では長女と次女の人生を天秤にかける
ような真似をしてしまった訳だけれども。)
チェイニーのような価値観を含めて、様々な立場の
人間が議論して、お互いの妥協点を見出だしながら
策をまとめていくのが政(まつりごと)というもの
の有るべき姿だと、個人的には思うのだけどねえ。
意見が一方に偏るのがいっとう怖い。
...
不満点。
愛する妻の為にいっぱしの人間になろうと奮起した
とはいえ、成績イマイチだった電気工の彼がなぜ
政界入りを果たせたのか、また、なぜあそこまで
強大な権力を持つことにこだわる人間になったのか
といった、彼の起源や動機に近い部分について
あまり描写されなかった点は残念な点ではある。
そこもけっこう興味を引かれる部分ではあるので。
あと語り部の正体についても、あれだけ引っ張って
心臓の気持ちの代弁と言われても、「なるほど!」
と得心の行くような展開ではなかったかな。死人の
気持ちを勝手に代弁してる感じになっちゃってるし、
単に観客の興味を引く以上の意味は無かった気がする。
...
だけど、総じて非常に楽しめ、考えさせられました。
監督の前作『マネーショート/華麗なる大逆転』は
経済破綻の裏事情という頭の痛くなりそうな題材を
ユーモアたっぷりに切り捌いた作品だったが、
はたして今回も、政治という複雑で地味になりそうな
題材を、皮肉と笑いを散りばめ軽妙に描いていて見事。
それに今回はそこまで専門的な知識がなくてもついて
いけたし、群像劇のような作りだった前作に対して
今回はチェイニーという“キャラクター”を描くことに
集中した作りなので、そこも含めて観易かった印象。
大満足の4.0判定です。
<2019.04.05鑑賞>
.
.
.
.
余談:
エンドロール後の映像で苦笑い。
ウルトラ能天気なセリフで映画は終わっちゃう
が、政治に無関心な若者が多いのは確かですよね。
県議選には行きましたか、皆さん?
近頃めっきり「誰に入れたって世の中良くならない」
という諦念に駆られてる僕も、一応は行きましたよ。
この映画みたいに、自分の預り知らないうちに
自分や自分の周りの生活を無茶苦茶にされてる
だなんてのは真っ平だもの。
肝心の911について触れてない
確かにチェイニー副大統領が黒幕だとは以前から聞いていたが・・・
イラク侵略は自身の石油関連企業、軍需産業の株価を上げる為に大量破壊兵器のCIAによるでっちあげを大義名分として起こしたというのが真実なんだろうが、イラク侵略するには "真珠湾攻撃"のような大事件が必要との事で911そのものを軍事作戦として計画したのではないか、もっともアフガニスタンではなく、何故イラクなんだ?とホワイトハウスのスタッフのなかでも強硬に反対があっという。チェイニー副大統領の映画だからジョージ・W・ブッシュ大統領のダークサイドは殆ど描かれていないが、ブッシュ家とサウジアラビア第二位の大富豪ウサマ家と付き合いが40年に渡ること、そのウサマ家から総額1500億円もの資金援助があったこと、問題は2000年の大統領選挙でブッシュ陣営がヒスパニック系黒人系日系人の選挙人名簿145000人余りを削除したことだ(投票できなくしたこと)こうしたインチキ選挙で当選したブッシュ大統領 まともにホワイトハウスにいなかったこと、ブッシュ政権そのものがめちゃくちゃであり、そもそもの911について触れて欲しかったですね
黒幕
妙に納得した作品であった。
冒頭、ちょっとした言い訳が語られる。
事実に基づいた話ではあるが、正確には分からないというような内容だった。
まぁ、一国の副大統領をやり玉にあげようというのだから、そんなものかと思う。
そんな注釈から始まったものだから、どこかボンヤリとした印象のまま作品は進む。
特殊メークは流石の出来栄え。
クリスチャン・ベールである事すら忘れてしまう。
ただ…あのクリスチャン・ベールがなぜこの作品をチョイスしたのかと思う程淡々と本作は進む。公表されている事象と、その内側をちょこっと憶測を盛り込んで羅列してるだけだ。
ディック自体は悪でも善でもない。
予想以上の事は起こらないし、起こそうとする器でもなさそうだ。
なんて事を思ってる内にエンドロール。
「えっ?俺寝てた?」
と思う程早かった。
なんて事を思ってたら、第1幕の終了みたいな事で…第2幕目からはブッシュ政権下の話が展開される。
丁度「記者たち」を前日に見た事もあって、俺の目はランランと輝く。
ブッシュは傀儡で黒幕はこいつなのか、と。
さあ、どんな悪事が暴かれていくのかと思っていたら、これまた目新しい事はない。
文字と言葉によって得た情報を映像化したような事で、基本的には第1幕と変わらない。
…盛り上がらねえなあ。
ラストカットは、ディックのインタビューだ。
どおやら本国では、かなり糾弾されていたのか、ド直球で戦争の話題が振られる。
ああ、このまま終わりかと思っていたら一転、ディックはカメラ目線で「俺は謝らない」とまくし立てる。
こりゃまた…とんだ幕引きだぜと思っていたら、こっから先が主題だった。
エンドロールが流れ始めた後の映像。
マーベルでいうところのオマケ映像だ。
ものの5分もない。
そこでこそ、この物語の黒幕が語られる。
「虚栄心」と「無関心」だろうか?
あまりの断定感に吹き出す程だ。
ディック自身、初めから腹黒かったわけではない。芝居もアングルも、照明でさえ、わざと色をつけぬよう配慮されてたように思えた。
敢えて「中立」の立ち位置を、ずっとこの作品はとっていたように思う。
映画クルー達は盛大な前振りを、精一杯のリアリズムとともに提示していたように思えた。
まさに冒頭の「言い訳」通りだ。
このラストが語るものは、ディックは「虚栄心」と「無関心」を餌に育っていったのだ、と。
このままでは、第2第3のディックは出て来るぞ、と。
エンドロール途中の5分足らずの映像。
ここに来て曲者クリスチャン・ベールとこの作品が結びついたような気がした。
エンディングまでみて!
素晴らしいです。
こういう映画が、作られ、公開され、鑑賞できる事を幸せに感じます。
確かに民主党に偏った感じにはなっていますが、制作者もそれを承知の上で、それさえも映画の一部としているのが、公平さ(それも少しズルイ!)を感じます。
最近のハリウッド映画あるあるな演出を思う存分パロディとして楽しめます。途中のエンドロールは本当に笑えました。半分くらいまではまさにコメディで、それからは徐々に笑えなくなってきます。
「ハウス・オブ・カード」の夫婦のように権力に取り憑かれた実在の人物!
息子ブッシュ時代の副大統領ディック・チェイニーの半生を「マネー・ショート」のアダム・マッケイ監督が「マネー・ショート」の手法をよりブラッシュアップして作ったコメディ。
映画は面白いし勉強になるけれど、現実に起こった事は笑えない。
9/11の同時多発テロ以降、テロ防止の名の下に拷問を解禁させ、何も関係の無かったイラクに攻め込み自国民もイラク国民も大量に死にその結果ISが誕生した。
しかもチェイニーは元ハリバートン社の幹部で株を大量に保持してた。イラク戦争で大儲けした会社は言までもないが石油会社。
劇中チェイニーは「リバー・ランズ・スルー・イット」(若い頃のブラッド・ピットが美しい釣り映画。この映画はブラッド・ピットの制作会社プランB製作)のようにフライ・フィッシングをしている。
そしてエンディングロールでは思考を凝らした毛針が沢山登場する。
毛針は本物の虫と勘違いした魚が食い付くように釣り人達が自作する疑似餌。
チェイニーがした事を考えると考え深い。
オールスターキャストなのでキャストにも一言。
チェイニーが「ダークナイト」のバットマンを演じたクリスチャン・ベイルだなんて。
クリスチャン・ベイルが体重を増やしてたり減らしたりしてももう誰も驚かなくなって来ているのが悲しいところだけれど…
スティーブ・カレルが出ている映画は間違い無し。
出て来るだけで映画に深みがでる。
個人的にはクリス・ロックウェルのブッシュが憎めなくていい。
ディック・チェイニーの妻役のエイミー・アダムスはポール・トーマス・アンダーソン監督が信仰宗教のサイエントロジーを元にした映画「ザ・マスター」と同じ夫を操る妻を演じているのも映画好きには面白かった。
アダム・マッケイ監督はサタデーナイトライブやマイケル・ムーアのテレビ番組の脚本を書いていた、サタデーナイトライブで鍛えた脚本力とマイケル・ムーア仕込みの編集で間違い無く面白い。
彼の作る作品はコメディだけれど、必ずキツイ風刺になっている。
おかげで見やすくとても勉強になる。
日本でもこういう作品が作られて欲しい。
ネタになりそうな政治家は沢山いるから。
アダム・マッケイのセンスが光るブラック・コメディ
最強の副大統領(Vice President)と言われたディック・チェイニー。「副(Vice)」だったからこそ、彼はその力を行使出来た。副大統領でありながら、副大統領だったからこそ、ブッシュを盾に大統領以上の政治力を見せた。それが功に転じたか罪に転じたかは神でもなければ判断が出来ないし、ましてやこの映画では判別しようもないし、人それぞれの主義や解釈もあるだろう。ただアメリカ兵やイラク民間人が多数亡くなった一方で、心臓が止まったはずのチェイニーが臓器移植で存命している皮肉。イラク戦争の口火を切った事実と、彼の心臓の病気とは無関係であるはずだが、やっぱり皮肉だと感じる。
アダム・マッケイはもうすっかり社会派のテーマを風刺するブラック・コメディが巧い監督に成り代わった。ウィル・フェレルのコメディ映画を撮っていたとは俄かに信じられないほど。ただ風刺のためには十分なコメディセンスが必要なわけで、この映画にしても、生真面目に撮ればそれこそキャサリン・ビグロー映画みたいな感じになっていてもおかしくないところ、しっかりブラック・コメディしているあたり流石。
冒頭はありがちな伝記映画みたいな筋書きで凡庸だなぁと思いつつ眺めていたら、それを見透かすように所謂「伝記映画」のエンディングをパロディにしたエンドロールが流れ出したり、突然ディックとリンがシェークスピア調のセリフ回しになったり、観客が難解に思うであろう内容の説明を高級レストランのメニューの説明に擬えたり、遊び心と面白い試みで溢れていて実に愉快。一見すると小難しそうな内容を観客に理解させる配慮が上手だなぁと感じた。それは「マネー・ショート」でも思ったことで、そういう部分でコメディ映画を撮り続けてきた勘が働いたりするのかなぁなんて勝手に思ったりした。
この映画は恐らく、ディック・チェイニーの賛否を決めるためではなく、毀誉褒貶の激しい人物を取り上げ、映画がどこまで真実に近づけるかに対する挑戦だったのかなと、冒頭に表れた一文を思い出す。だから見終わった後も、チェイニーをどのように捉えればいいか頭を悩ませることになる。かと言って、権力を手にすると人間って怖いよね、みたいな感想で締め括りたくはない。なんだか全然すっきりせず、心にモヤモヤが残った状態で映画は終わったが、でもそれも含めてブラックジョークであり、風刺なのかな?という風に私は受け留めた。
アメリカンジョーク苦手です
結構、評価が高かったので鑑賞しました。でも、政治経済は苦手な私に、理解できるかなって心配してたんですよね。意外と、理解はできたんですが…これって実話ですか?どこまで、本当のことなの?と、そんなことばかり考えながら観てました。そもそも、社会派エンターテイメントドラマって何ですか?
脚本っていうんでしょうか…心臓を提供した彼が、ストーリー展開というか、進行的にナレーションするあたりは、面白かったと思いました。でも、ストーリーは、さっぱり…。ダラダラと、起こったことを並べてるだけのノンフィクションって感じでした。(…って言っても、これが実話かどうかすら、私には分からないんですけど…)それから、あちこに散りばめられていたアメリカンジョーク、あまり好きじゃないです。とても豪華なキャストで、見応えはありました。面白い作品と錯覚したくらい。でも、「映画賞あるある話」で、どこが面白いか分からない作品でした。
全25件中、1~20件目を表示