「“比較的”面白いナチス内部映画。」ちいさな独裁者 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
“比較的”面白いナチス内部映画。
「誤ったことをしてしまったら、せめて認めろ・・・?」 なんだかわからない父親の言葉らしいが、そんな単純構造の頭の20歳のヘロルト。部隊を抜け出し偶然拾った将校の制服を纏うと人が変わったようになる。道中、脱走兵と思しき兵に何人も遭遇するが、一様に「部隊からはぐれてしまった」と言う。ちょっと騙してみるかという軽い気持ちで始めた成りすましに皆まんまと引っかかっていく様子が面白いのだ。一人、ズボンの丈が合ってないことに気づいた上等兵もいたが、逆にヘロルトを利用しようとしたのだろう。軍用車の後ろを歩くのが不満そうに思えた。
人間は皆権威をまとったかのような制服には弱い。いや、男ならコスプレイヤーやメイド喫茶でも弱いじゃないかと思った方、それもある意味正解なのかもしれない。周りの人間が逆にもてはやし、忖度することによってコスプレ本人もその気になるからだ。
ナチスの映画としては珍しくユダヤ人迫害シーンが一切ない。これも特徴の一つなんだろうけど、ナチス・ドイツに限らず、戦争を行ってる国ならばどこでも当てはまりそうな戦争心理が描かれている。敵前逃亡とか脱走兵というのは重罪であることも全世界共通だろうし、食うものに困った兵士が民家に侵入、略奪、レイプ、殺人など、非人道的な行為すら万国共通。そんな彼らの罪を許し、仲間になれ!と上官に説得されれば、二つ返事でほいほいついて行くのも理解しやすい。病気も蔓延してなさそうだし、人肉を食らうまでの鬼畜に陥っていないだけまだ可愛いものだとさえ思う・・・。とにかく、どんな戦争にもこうした悪魔的状況が必ず生まれるものだということはハッキリ言える。
実話を基にしているらしいので、ここまで空軍大尉を演じ切るのは凄いことだと思う。たしかに嘘のつき方も徹底していて、“総統直々の命令”だと言えば誰も逆らえなくなる。犯罪者収容所では90人ものドイツ逃亡兵を虐殺するが、そこで味を占めたヘロルトは今まで自分で手を汚さなかったのについに自ら射殺する。さらに空爆を逃れた仲間たちとともに“即決裁判所ヘロルト”なる車で街を街宣したりする。タイトルバックがドーンと出たから、もういい加減に捕まれよと思ってもまだ続く。この蛇足的なまでに執拗に映像化するのも嫌戦感を煽る効果なのかもしれないなぁ・・・。
“比較的”ネタのコメディアンのシーンは笑いたいのに笑える雰囲気じゃなかった。同じ状況で自分だったらどうする?と問われると、やはり服従するんだろうな~と、一般人がファシズムに走る心理面を描いたブラックコメディ作品でした。
〈追記〉
ナチスの制服を着る話なら『ウォーキング・ウィズ・エネミー』の方がおすすめです!