「国家によって個人の自由は束縛されるべきではない」ホワイト・クロウ 伝説のダンサー MPさんの映画レビュー(感想・評価)
国家によって個人の自由は束縛されるべきではない
クリックして本文を読む
ロシアが生んだ天才バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフが映画にフィーチャーされたのは、1971年の映画「バレンチノ」以来かもしれない。あの時、鬼才ケン・ラッセルはハリウッド黄金期のレジェンド、ルドルフ・バレンチノ役に同名のヌレエフを起用して、賛否はあったものの、映画が夢を紡いだ時代の雰囲気を画面に蘇らせた。特に、ヌレエフ扮するバレンチノが同時代のアイコン、ニジンスキーにタンゴを伝授する場面は、異様に艶めかしかったものだ。監督のレイフ・ファインズが今作で描くのは、そのヌレエフがいかに祖国ソ連に束縛され、自由な表現、自由な場所を夢見て足掻いていたかだ。そんな天才の内面にどこまで切り込めたのかは疑問だが、映画のクライマックスで展開する亡命に至る経緯のスリルとサスペンスは、過去のいかなる作品をも凌駕する緊迫感に満ちている。すぐ目の前にある自由をつかみ取れそうで取れない、ギリギリの駆け引きは、とりあえず自由な空間で生きる保障を約束された観る側の恵まされた状況を改めて考えさせられる。天才であろうがなかろうが、国家によって個人の自由は束縛されるべきではない。単純にそんなメッセージが胸に突き刺さる実録ドラマである。
コメントする