劇場公開日 2019年5月17日

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「現代的視点で構成された本格時代劇」居眠り磐音 悶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0現代的視点で構成された本格時代劇

2022年4月9日
PCから投稿

本作品の原作は、時代小説のベストセラー作家、佐伯泰英が生み出した「居眠り磐音シリーズ」で、現在は、50作以上が発表されているそうです。じつは、私、シリーズの最初の方をかつて読んだことがあって、第1作「陽炎の辻」がとにかく面白かった記憶がありました。

このシリーズの主人公の本名は、坂崎磐音で、「居眠り」というのは、その剣法が、居眠りしている年寄り猫のような格好で険を構えることから「居眠り剣法」と呼ばれていることによるもの。磐音は、見かけは、ゆったりした感じの優しい男性で、闘いの時も、険の構えは、ゆったりして、全く強そうではない。ところが、一旦、相手が切り込んでくると、その切っ先を身軽にかわして、たちまち相手への猛攻撃へと転じる。この「静」から「動」の動きが、見せ場のひとつです。

私が、予告編で驚いたのは、磐音を演じる松坂桃李が、小説で得た主人公のイメージとあまりにぴったりしていて、「これは期待できるぞ」と感じたことです。松坂桃李のことは知っていましたが、「居眠り磐音」のキャスティングは思いつきませんでした。

物語は、江戸後期、老中田沼意次の時代、九州・関前藩の中老の嫡男、坂崎磐音は、三年間の江戸での勤めを終え、幼なじみ二人とともに、帰郷した。そこで、ある悲劇的な事件が起こり、磐音は、許嫁の奈緒を残して、藩を出奔。江戸に戻った彼は、深川の鰻屋で職人として働いていた。ある日、両替屋の用心棒として抜擢されたが、そこには、江戸幕府を揺るがす陰謀が渦巻いていて…。

藩を出奔して浪人となった武士という設定は、時代劇の定番のようなものであるし、許嫁との結ばれぬ運命というのも、一般的。また、得意の剣法を使って、幕府を揺るがすような悪と対峙していくのも、時代劇らしい展開です。

──と、書いてくると、凡庸な作品と捉えているかと思われるかもしれませんが、この作品には、現代人に訴えかける大きな要素があります。それは、江戸時代のお話なのに、古めかしさが全くないのです。

この作品の原作のような時代小説は、時代設定は、現実にあったものですが、主人公は架空のものですし、当然、エピソードも架空。でも、そのフィクションという部分を原作者は巧みに活かしています。

現代人にとって、江戸時代に対して多くの方が描いているイメージがあると思います。現代人が忘れてしまった、人情や正義感、人間関係。それを彼らは持っていたのではないか、というか、持っていたものであってほしい、というある種の憧れのようなもの。

原作小説では、そのような訳で、「現代の視点で、こうであってほしい江戸時代の人々」を巧みに取り入れています。それは、現実の江戸時代の人々の心情とは違うかもしれません。でも、そこはフィクションの強みで、現代風に人間描写をアレンジしていると思われます。

この映画作品も、その原作小説の意図を踏まえていて、現代的な視点で観た時、違和感がないように仕組まれていると思いました。だから、磐音や許嫁の奈緒に感情移入できる作品に仕上がっているのだと思います。

私は、21世紀らしい本格時代劇として、本作品を高く評価します。

悶
みかずきさんのコメント
2022年7月28日

悶さん
みかずきです

お久し振りです。

本日、居眠り磐音のレビューを投稿しました。

-以上-

みかずき