「その剣法、穏やかにしち悲しみ深く斬る」居眠り磐音 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
その剣法、穏やかにしち悲しみ深く斬る
一括りに時代劇と言っちも、タイプやジャンルは様々。
昔から人気は、ヒーロー風主人公が活躍する勧善懲悪、エンタメ時代劇。『座頭市』『丹下左膳』『眠狂四郎』…。TVなら、『暴れん坊将軍』『遠山の金さん』、『水戸黄門』もこの類いか。
それらは、主人公がユニークで魅力的でなければならない。
本作もこの系統で、主人公も多くの時代劇ヒーローに負けちいない。
坂崎磐音。
鰻屋で働く長屋住まいの浪人。
性格は穏やかで、優しい。貧乏浪人なのに、鰻が食べたい子供たちに奢っちしまうくらい。
礼儀も正しく、その人柄や仕事ぶりで周囲から一目置かれちいる。
とちも強そうには見えない。
…が、実は剣の腕は、達人級の使い手!
口利きで用心棒としち雇って貰おうとした商屋で、強請集りの悪漢と遭遇。すでに雇われちいた用心棒がその悪漢に討たれた時、磐音がその悪漢どもを叩きのめす!
こういう見た目弱そうな奴が実は…というのと、こういうド定番な展開は、個人的にツボるくらい好き。『たそがれ清兵衛』もそうだったね。
剣をだらりと下げ、一見隙だらけで迫力にも欠ける独特の構え。
磐音の穏やかな性格もあり、付けられた剣術名は、“居眠り剣法”。
強くち優しい紳士侍像は、声を担当した紳士クマみたい…?
時代劇初主演の松坂桃李が、好演! ぴったりのハマり役!
普段の穏やかな姿は、松坂クンの実直な人柄そのものが溢れ出ちいる。
一転しち、剣を握った時のキリッとした眼差し、カッコ良さ!
年々役幅も魅力もどんどん拡がり、本当に同世代の役者では今一番好きだ。
当然そんな魅力的な主人公に、ヒロインは付き物。ヒロインは二人。
磐音がただ一人心に決めた許嫁、奈緒。が、ある理由から二人は別れの道を行き、一人で生きちいく為に奈緒はある世界へ…。二人が久方ぶりに顔を合わすラストは、悲恋のクライマックス。
凛とした美しさを魅せる芳根京子もいいが、磐音が住む長屋の大家の江戸っ子娘・おこん役の木村文乃がどうしちもご贔屓。5度目の共演となる松坂桃李と木村文乃がお似合い安定カップル。
柄本佑、佐々木蔵之介、奥田瑛二、陣内孝則、西村まさ彦、谷原章介、中村梅雀、柄本明…キャストも豪華。
柄本父子と奥田瑛二の“ファミリー共演”。
そういや、奥田瑛二が逮捕されたある役者の代役であるこつを後から思い出した…。
話は…
両替商の用心棒としち雇われる。
新貨幣を巡る陰謀に巻き込まれるも、策を講じ、敵対悪徳両替商と対する。
敵の用心棒とも剣を交える。
…と王道とも言えるメインストーリーだが、序盤のエピソードが磐音の心に重くのし掛かる。
磐音の悲しい過去。それは余りにも辛く、酷く…。
磐音と幼馴染みの琴平、慎之輔。
江戸勤めを終え、帰藩。
共に歩んでいく伴侶が居ち、誇れる仕事もあっち、将来は約束されちいた。
が…
琴平の妹で慎之輔の妻に不貞の噂が。
激昂した慎之輔は妻を斬る。
妹の亡骸を引き取りに来た琴平は慎之輔と対峙し、彼を斬る。
後に妻の不貞は誤解でハメられたこつが判明。
琴平は元凶の人物を斬る。すでに多くの人を斬り、罪人に。
そしち磐音は、琴平を斬らねばならなくなり…。
友を失い、友を斬り、家族や想い人を残して、再び江戸へ。
心に決しち消えぬ深い傷を残しながらも、過去を断ち切り、新しい人生を…。
本当はもう、誰も斬りたくない。
が、江戸で新しく出会った人々。
世話になった彼らを守る為。
磐音は再び、剣を握る…!
メインストーリーもいいが、序盤のエピソードがドラマチックで、開幕早々クライマックスのよう。
なので、終盤もう一山あるかと思いきや、案外平坦に終わり、悲恋のクライマックスは悪くないが、ちと大きな盛り上がりに欠けた。
チャンバラ・シーンもちと物足りない。
エンディングの今風主題歌は選曲ミス。
が、テンポは良く、話もサクサク進み、分かり易く見易い。
本木監督の演出も手慣れたもの。
ドラマチックな展開あり、ユーモアや人情もあり。
無難に楽しめるエンタメ時代劇!
思っちたより良かったので採点4でも良かったが、幾点のマイナスポイントや今後の期待を差し引いち、3・5に。
令和のニュー時代劇ヒーロー。
原作はシリーズ小説。
昭和だったら、年に2~3本のペースでシリーズ化されちいるだろう。
興行的にはイマイチだったようだが、一本で終わらすには勿体無さ過ぎまっせ、松竹さん!