破天荒ボクサー
劇場公開日:2019年7月6日
解説
自身の世界タイトルマッチ再挑戦のため、日本のボクシング界に現状に疑問を抱いた1人のボクサーの姿を追ったドキュメンタリー。大阪帝拳ジムに所属していた山口賢一はデビューから11連勝を果たし、いよいよ日本タイトルマッチへ挑戦かと期待が高まっていた。しかし、明確な理由がないまま、彼のタイトルマッチが組まれることはなかった。業を煮やした山口はJBC(日本ボクシングコミッション)に引退届けを提出し、戦いの場を海外へと移す。海外での経験を積む中で日本ボクシング界の現状に疑問を抱くようになった山口は、「いつか自分の経験を日本に持ち帰りたい」との思いを強くしていく。そんな中、山口にOPBF(東洋太平洋ボクシング連盟)タイトルマッチのオファーが舞い込む。しかし、その条件として提示されたのが山口のJBCへの復帰だった。山口は決別したかつての所属ジムとLBCへ話し合いに向かうが……。監督は「南京 引き裂かれた記憶」の武田倫和。
2018年製作/115分/日本
配給:ノマド・アイ
スタッフ・キャスト
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2019年9月15日
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鑑賞方法:映画館
主人公の自由さが羨ましい、なんの柵も気にせず、自分の人生やから、好きに生きるで片付けられる彼の立場は私にとって羨望の的である。
自分の人生は確かに自分のにはちがいないが自分だけの人生とは違うのである。
昨今、各種のスポーツ団体で、今まで隠されてきたような問題が、いろいろと表沙汰になっている。
相撲界の暴力、体操のパワハラ、アメフトの危険タックル、そして、アマボクシングの山根元会長問題など、きりがない。
ボクシング界は、野球やJリーグなどの他競技と比べて、最も組織改革が遅れているという。
しかし、バスケットボールのように国際的な圧力がかからなければ、旧態依然とした体制が変革されないというのは、どのスポーツ団体でも同じだろう。
この映画で直接の対象になっているのは、「亀田処分」でも問題になった日本ボクシングコミッション(JBC)と、「ジム制」という日本独自の慣行であった。
きちんとしたボクシング競技の運営には、ボクサーやジムのライセンス制度、国内ランキング・システム、そして、権威ある世界王座認定団体への加盟が不可欠だろう。
JBCの存在意義は、その公正かつ透明性のある運営にあるはずだ。
だが、この映画で描かれるJBCと有名ジムは、結託して既得権益を握っている、独占禁止法に抵触するような存在であった。
不満をためた山口は、日本のライセンスを捨てて、海外参戦などで7年間活動する「破天荒ボクサー」となったが、タイトルマッチのオファーを受けて、JBCや元所属ジムとの交渉を強いられる・・・。
本作を見て、“興行”というものにまつわる、恣意性や“うさん臭さ”を強く感じた。
“興行”であるからだろう、本来、実力だけで上り詰めて、タイトル挑戦もできるはずが、実際には、ジムの会長に気に入られたボクサーだけがチャンスをもらえるという。
逆に言えば、ジムに気に入られれば、ボクサーは何もしなくても、ジムが強力にバックアップしてくれるのだろう。
海外では、ジムは無関係で、ボクサーのマネージャーが、プロモーター(興行師)と交渉して認められれば参戦できるようだ。
実際、本作のクライマックスは、WBFという団体において山口が戦った世界タイトルマッチである。
だが、それだけではない。
JBCと有名ジムは結託して、もはやJBCとは無縁の山口を呼び出して、JBCの管轄外の“興行”を阻止しようと、圧力をかけるのである。
「ジムの勝手な移籍を認めない、出て行ったら業界全体で結託して“干す”」というところは、芸能界と似通っている。
JBCから離脱したボクサーは、あらゆる面で「国外追放」となる。これが、独占禁止法違反でなくて、何であろうか?
本作品は、山口賢一というボクサーに対する密着取材としては、とても面白かった。
しかし、逆に言えば、ほぼ山口一人への取材になっており、密着しすぎである。
日本のライセンス制度を自ら離脱した、同じような境遇のボクサーも少なくないというのだが、彼らに対するインタビューがほとんどない。各人で、事情は異なるはずだ。
また、顔隠しの匿名取材でもいいから、業界の現状を広い視点から語る人間とか、JBCや有名ジム側のインタビューとか、自分のような事情通以外の観客にとって、何か客観性を担保できる話があればと思った。
本作の範囲では、“単なる山口側の言い分にすぎない”と見なされてしまうし、山口の周囲からの評価や業界における立ち位置も分からない。
対象を絞りすぎるのは諸刃の刃だ。スッキリとまとまった映画にはなるが、全体像がつかめないので、一個人の“人間”ドキュメンタリーにとどまり、訴求力が弱い。
問題点が整理された、社会問題としての“スポーツ”ドキュメンタリーになっていればと惜しまれる。