劇場公開日 2019年3月1日

グリーンブック : 映画評論・批評

2019年2月26日更新

2019年3月1日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

人種の垣根を越えて友情の育つプロセスが、多幸感をくれる

アメリカでは「ドライビング・MISS・デイジー」になぞらえて語られがちだが、それよりもテイストが似ているのはフランスのコメディ映画「最強のふたり」の方だろう。時代や人種差別の社会背景的にはもちろん前者と重なるが、この2人はもっとユーモラスで、簡単に響き合うからだ。生い立ちも性格も正反対、お互いへの嫌悪感を隠そうともしなかった白人と黒人が、徐々にお互いへの理解を深め、自分にない長所を尊重して認め合う。このプロセスを見るのは、なんて心地いいものなんだろう! ピーター・ファレリー監督はこのシンプルなドラマを素直に、丁寧に紡ぎ出し、この上なくいい気分にしてくれる。

“グリーンブック”とは50年代から60年代、人種差別の激しかった南部に旅をする黒人のために作られた施設利用ガイドのこと。1962年、イタリア移民でマフィア御用達のクラブ用心棒だったトニー・リップことバレロンガはこのガイドを渡され、イヤイヤながら新しい仕事に就くことになる。カーネギーホールに住む黒人天才ピアニスト、ドン・シャーリーの南部演奏ツアーに運転手兼ボディガートとして同行するのだ。

知的な芸術家で品がよくて繊細なのが黒人、無知なマッチョで単純かつガサツなのが白人と、従来の映画とは設定が逆なわけだが、彼らは実在の人物であり、ベースは実話。このキャラクターの描き方が面白い。ドンを演じるマハーシャラ・アリは想定内の好演だが、驚くべきはトニー役のビゴ・モーテンセン。「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルンでおなじみの彼は、デンマーク生まれで哲学者のような、詩人のようなパーソナリティの持ち主なのだが、化けた。「ケンタッキーっていやぁケンタッキー・フライド・キチンだろ!」とチキンを頬張るトニーのガハハ笑いを、好きにならずにいられるか? この2人の化学反応は、映画の美点そのものと言える。

とにかくこの映画、人種差別をテーマにした作品としては、あり得ないほど口当たりがいいのである。心が痛くなるような場面もあるにはあるが、全体的には白人寄りの目線だし、スパイク・リーなら「暢気すぎるだろ!」と怒っているかもしれない。それもそのはず。だってこれはトニー・リップの息子、ニック・バレロンガがプロデュースと共同脚本を手がけ、「父から聞かされたいい話」を映画化した作品だから。つまり「いい話」を「いい話」として伝えることに重点が置かれているのだ。ここを物足りない、という人もいるだろう。しかしラストの多幸感は格別。多くの観客にとって、最高に愛すべき映画であることに間違いはない。

若林ゆり

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