ゴッズ・オウン・カントリーのレビュー・感想・評価
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"神の恵みの地"で愛し合う者たちへの願いが明確に
"神の恵みの地"と呼ばれるイギリスのヨークシャーは、かつて牧畜業で栄えた地。しかし、今は斜陽の只中にある。そんな希望のない状況が、年老いた祖母や体が不自由な父に代わって、黙々と牛の世話をする主人公の青年、ジョニーの日常には現れている。また、ジョニーが恋に落ちる日雇い労働者のゲオルゲは、故郷のルーマニアでは高学歴のインテリだ。そんな彼が、わざわざヨークシャーまでやってきて牧畜の助けをしなくてはいけない状況には、ヨーロッパが抱える移民問題の根深さが伺える。共に出口のない日々を送るジョニーとゲオルゲが、一緒になって大地に根差し、愛を確かめ合う物語には、ヨークシャーを、またはヨーロッパ全体を、地球の大地を、再び"神の恵みの地"へ返そうとする明確な意思が感じられる。ラブストーリーとして秀逸である以上に、そこが、この映画を味わい深いものにしている。
ジョシュ・オコナーの笑顔と涙
音楽と台詞が極限までずっと抑えられていたのは、ジョニーがゲオルゲに自分の思いと言葉を吐露する最後のシーンゆえの溜めだったかと思いました。
ジョニー演じるジョシュは色が白いからか、はにかんだり微笑んだだけで顔に紅がさす。美しくもめまぐるしく変わる自然の中で、祖母と体の自由がきかない父親と暮らし大黒柱として働かざるを得ない若い彼の孤独と希望の無さが重かった。それが、ゲオルゲの出現によって、羊や牛の存在、小鳥の鳴き声、小川の音、風、干し草、牛舎を掃除する音、刻々と変わる空の色や光、家の中の生活、そのすべてに命が宿り始める。ジョシュもアレックも小さい表情や目の輝きや微笑みが素晴らしかった。ジョシュが好きだから、もあるけれどいい映画でした。
おまけ
Netflix配信ドラマ「ザ・クラウン」でジョシュ・オコナーがチャールズ皇太子を演じるエピソードを2本見ました。「ウェールズ公」(season 3/26)が素晴らしくよかったです。まだまだいっぱいあるようなのでゆっくり見ます。ジョシュの映画を映画館で見られる今年は豊作です💕
ゴッズオウンカントリーの方がめちゃくちゃ良い。
先にアンモナイトの目覚め観てたけど
ゴッズオウンカントリーの方がめちゃくちゃ良い。
監督のフランシス・リーはゲイを公表していて
両作とも美しいが厳しい自然を背景に同性カップルを描く作品だけど
オッズゴウンの視線は優しく、アンモナイトはシビアで冷たさがあるのは何故なのか。
あと性描写が生々しいので観てて気まずくなる。
(最近の性描写の取り扱いの風潮を考えるとそこまで、そうゆうシーンが必要かどうか考えてしまう)
ってところが気にはなるが
この作品は、美しいが取り残されたような田舎町での
家族間の不和や、憎しみや愛と、ゆるしが丁寧に描かれていて
主人公の2人の関係性の変化が四季の様にうつろっていく様もめちゃくちゃ美しい。
出会い、別れて、再開するとゆうシンプルな物語だけど
その中に、人間の感情が丁寧に織り込まれていた。
英国版ブロークバックマウンテンと言われているがゴッズオウンは同性愛者が死ぬ話でないのが良い。
普通の一組のカップルの人生と愛のお話であることがゴッズオウンカントリーの素晴らしいところだと思う。
【”神の恵みの地”と呼ばれる英国、ヨークシャー地方を舞台にした禁断の愛が生まれる瞬間を壮大な映像美で綴る作品。】
■寂れた牧場をひとりで管理するジョニーは、身体の悪い父親の不在を補うべく、過酷な酪農作業をする日々を孤独を感じながら、酒と不毛な男性とのセックスで紛らわしていた。
ある日、羊の出産シーズンにゲオルゲという青年が雇われる。
2人は当初、衝突するが、羊に優しく接するゲオルゲにジョニーは感じたことのない恋心を抱き始ねる。
◆感想<というか、個人的経験と嗜好・・。>
・私が、ゲイ映画に嵌ったのは、学生時代に名画座で学友たちと鑑賞した「アナザー・カントリー」が切っ掛けである事は間違いない。
”一生、女は愛さない”という惹句に惹かれ、恐る恐る鑑賞したが、若きルパート・エヴェレットと、コリン・ファース(この方は、年齢を重ねても変わらない。凄いモノである。)の姿に一発でヤラレタ。
- で、おバカな男子大学生は”アナザー・カントリーごっこ”を始めたモノだ。ー
・だが、私には当時学友たちに言えない悩みがあった。
それは、高校時代の学友(男性)が私に好意を抱いてくれて、電車で数時間かけて私のアパートに頻繁に来ていた事である。
最初は、ビックリし”冗談は止めろ!”と言っていたのだが・・。(以下、自粛)
・だが、私はストレートだということは認識した。ケレドも、若き時の経験はその後の私の生活には影響を与えなかったが、映画ではゲイ映画に耽溺と言う程でもないが、グザヴィエ・ドラン監督や、トム・フォード監督作品他、数々のゲイ映画は欠かさず観賞して来た。
そして、どの作品も(一つだけ「性の劇薬」だけは除きたい・・。面白かったが。)面白く鑑賞した。
・今作が染みるのは、「神の恵みの地」(ゴッズ・オウン・カントリー)と称されるイギリス・ヨークシャーの荒涼たる大自然の中で、心を通わせていく青年たちジョニーと短期労働のためにルーマニアからやってきたゲオルグの姿に心を揺さぶられる事である。
最初は、馴染むことなかった二人が、羊に優しく接するゲオルグの姿を見たジョニーが彼に惹かれて行く過程である。
・そして、ジョニーが自らの牧場を去った、ゲオルグに再び、会いに行くシーン。
- ジョニーは、初めてゲオルグに真実の愛の言葉を伝えるのである、-
<私は、”BL”という言葉は余り好きではないのであるが、大自然の中、同性同士で愛を交わすのは分かる気がする。
(これは、私が30代後半まで、エクストリーム登山をしていた事も、寄与している気がする。)
そして、私にとっては近年で言えば「君の名前で僕を呼んで」を代表として、このジャンルの映画は、猥雑感は全くなく、素直に受け入れられるのである。
更に言えば近年、日本でも一部の都市で、同性婚を認めるようになってきた風潮。
日本の文化では受け入れられない地域も多数ある事は認識しているが、人間の生き方を許容する幅が徐々にではあるが、広がってきた事は、日本の文化成熟度が進化してきたのではないかと思うのである。>
<2019年3月 京都 新しく出来た出町座にて鑑賞>
<2022年5月 別媒体にて再鑑賞>
「羊の薬買ったよ」 の意味するところ
あまりにアンモナイトの目覚めがよかったもので、ちょうど上映していたフランシス・リー監督作品を迷わず観賞。イギリスのヨークシャーの牧畜を営む家での話。アンモナイトの目覚めでは若い医者役で出ていたアレック・セカレアヌ。ルーマニア国籍だが、エキゾチックな容姿で、主人公のジョン(ジョシュ・オコナー)は初対面のゲオルゲ(英語だとジョージ)をジプシーか?と揶揄し、しつこく、ジプシーと呼ぶ。つい、ケイト・ブランシェットが愛を読むひとで演じたロマの人々を連想してしまいます。ゲオルゲは助っ人の季節労働者。飲んだくれで、なにをやっても適当で仕事に身が入らないジョンと半身麻痺の父親だけでは家畜の出産ラッシュの時期を乗りきれないと父親が判断したのでしょう。ゲオルゲは羊の出産立ち会いの技量が高く、命に対する細やかな心をもっていた。諦めずに蘇生し、仮死の子羊が息をし、すぐさま立ち上がるシーンは感動的だった。まるで獣医さんのよう。死産の子羊の皮を剥ぎ、別の子羊にそれを着せる。ちょっと残酷。プードルの冬の散歩?と思ってしまったが、おそらく、子羊の体温低下を防ぎ、産んだ母羊にも子供の匂いを嗅がせることが授乳に良い影響をもたらし、子羊の成育を促す効果があるのではないか?失った命も決して無駄にはしないルーマニア人の知恵なのではないかと思った。全くの想像ですけど。
羊のオマタに青いスプレー。何すんの? 「羊の薬買ったよ」って、ゲオルゲに嬉しそうに言うジョン。まさか、動物愛護団体の猛烈な抗議の的になるので、映像化できないアレ?
セリフが少なく、静かな映画。役者は細かい演技と思いきった演技の両方を要求されるので大変。対照的な二人を対峙させる脚本もアンモナイトの目覚めと良く似ていた。
お客さんはやはりご婦人が多かった。きっと、いくつになっても刺激的なボーイズラブ映画はやめられないんでしょうねぇ。わかる気がする。
おいらはもう一回、アンモナイト見よう!
天が引き合わせた二人
I want to be with You.
ヨークシャ地方で羊を飼育しているジョン。父と祖母と三人ぐらして全ての労働はジョンにかかっている。父親は一度倒れたようで、体を自由に使えない。春の羊の出産時期になると季節労働者を雇うようで、今年もギオーギ(Gheorghe ーAlec Secareanuー初めてみたがハンサムな俳優)が彼の家に。ジョンはギオーギのもみあげをみて、パッキーか(パキスタン人の軽蔑した言い方)と聞くがルーマニア人だと答えるとジプシー(軽蔑用語)かと聞いたりし、まるでギオーギの心を無視しているうえに、狭い社会で生きているから、自分が差別用語丸出しでも気がつかない。
二人の脱いだ服を見つけて片付けている時、使い終わったコンドームをみて祖母は苦しんだ。
祖母の葛藤と息子を理解しょうとする心に私は泣いた。毎日毎日バーで呑んだくれていた息子が、ギオーギを好きになって人が変わったことに気づいている。
それに、ギオーギが去って、日々の仕事だけを夢中にこなしている孫が忍びないと思っている。孫が出かける時、最後に何か忘れているんじゃないととジョージが働いている住所をテーブルからとって渡す。泣けるな。
祖母も父親もジョンを愛しているが文句ばかりで、褒めたり、感謝したりする言葉を全く出さない。でも、父親を入浴させている時、父が初めて息子の手に自分の手をおいてありがとうと言った。
https://www.youtube.com/watch?v=7dLrr9KdnVQ The Days - Patrick Wolf
LGBTQであるということの生きづらさ、それも、片田舎で、閉ざされた世界だと、サポートされずに色めがねでみられているし、受け入れられない。このような状態で生きている人々にとっての救いは家族の理解だと思う。家族の数多くの葛藤の渦の中で、GLTBQもその一つの葛藤として理解し解決していると思える映画。
最後まで観たら・・・。
退廃的な感じを描くのは良いけど「ちょいこれ汚すぎる」って場面も・・・。
まあ全体的にはゲイモノで良く出来ている。
どうやってお互いがゲイと気づくのか?が疑問?
日本版のボカシは不自然、ちょい最後はセンチメンタル過ぎたかな?
観た後、人に感想を聞いて「よかったね」と言いたくなる映画
地元の田舎で仕方なく生きているような覇気のない主人公ジョニーがルーマニアの移民労働者ゲオルゲに出会い、彼の魅力にとりつかれ、孤独なジョニーが少しずつ心を開いていく話。
動画サイトのレンタルで見たのですが、サムネイル(ジャケット)を見て、男性同士の恋愛なんだろうなあということは、うすうす気付いていました。ストーリーは思ったよりも地味で繊細。人が人に惹かれていく姿が細かく描かれていて、いい映画だなと思いました。男性同士の恋愛だし、野性的なセックスシーンもあるので、見る人を選ぶ映画かもしれませんが、ジョニーが一皮むけて成長していく姿やゲルゲオの優しさに心が揺さぶられます。
台詞がとても少ない映画で、映像でどんどん見せていくところが印象的でした。イングランド、ヨークシャー地方の曇天模様の大自然が余すところ無く映し出され、野草や土のにおいが伝わってきそうでした。しかし、ゲルゲオの台詞にもありましたが、美しいけど、どこか寂しい風景です。
自然あふれる地で泥だらけになって牛やら羊の世話をする男性2人だけの世界……、シチュエーションが『ブロークーバック・マウンテン』によく似ていてびっくりしました。一人の未熟な青年が出逢いの中で成長していくということに着目すれば、『君の名前で僕を呼んで』を彷彿させるものがありました。
ただ、ブロークーバック・マウンテンのように、同性愛者であることが世間にばれるのをひどく怖れて、関係を隠したりすることもなく、家族の者にもあえて秘密にしてないようでもあり、わりと開放的でした。
羊の出産など、生々しくて見るのが辛い箇所もあったのですが、ゲルゲオが今にも死にそうな仔羊の赤ちゃんを生き返らせるシーンが感動的でした。(ひょっとしたら、生き返った仔羊はジョニーのことだったのかな??) 料理したパスタを食卓に並べ、ジョニーの皿に盛ったパスタを味見して、いい塩梅に味を加減したりして、甲斐甲斐しく世話するところなんか、女性からみても、ゲルゲオって本当に優しくて魅力的です。母性の域に達しています。
ヘンタイ
ホモ野郎
うるせえ
ホモ野郎
最後もこの言葉で確認し合って微笑むところがよかったです!
愛と希望のカントリー
当初はノーマークどころか存在も知らなかった小品。
しかし最近になって、単館系で絶賛&評判になったのを知り、気になり始めた。
タイミング良くレンタル開始。
見てみたら、評判違わぬヒューマン・ドラマにして同性愛ラブストーリーであった。
開幕早々嘔吐し、精気と覇気無く、虚ろな表情。
主人公ジョニーの境遇も分からんではない。
イギリス・ヨークシャーの雄大な土地に暮らす…とは聞こえはいいが、実際は何処か物寂しく、家業である牧場は寂れている。ジョニー曰く、“クソ溜め”。
祖母と病気の父に代わり、一人で牧場を切り盛り。父は厳しく、細かく、口を出す。
募るは、孤独と空虚とつまらなさと不満。
その鬱憤を酒と、酒場で知り合った同性とのセックスで晴らすが、身も心も生活も荒んだ日々…。
そんな時出会ったのが、
羊の出産シーズンにやって来た、ルーマニアからの雇われ季節労働者、ゲオルゲ。
初対面時はソリが合わず、反発し合ってばかり。
が、羊の扱いに優しく、無口だが頼れるゲオルゲに、ジョニーは今まで感じた事の無い“特別な感情”を抱き始める。
そして二人は、結ばれる…。
片やいい年した青年なのに、全うな生き方が出来ない。
片や包容力があり、実年齢以上の落ち着きがある。
長所も短所も含め、お互い無い魅力に惹かれたのか。
二人が惹かれ合うきっかけは明確には描かれない。
ジョニーは序盤で同性愛描写はあるものの、ゲオルゲは唐突でもある。
しかし、説明や設定描写はほぼ省かれながらも、少ない台詞や表情/感情、さらには舞台の風景やムードまでもそれらを物語り、ドラマチックでもある。
本作は、“感じる”作品だ。
監督フランシス・リーのきめ細やかな演出、ジョシュ・オコナーとアレック・セカレアヌの主演二人の繊細な名演は称賛もの。もっと映画賞で注目を浴びても良かったと思う。
実を言うと、最初はなかなか入り込めなかった。
嘔吐、性交、羊の出産など、思ってる以上に描写が生々しい。
また、題材が題材なだけに、好き嫌いや敬遠もされるだろう。
が、淡々と静かながらも話が進むにつれ、スッと引き込まれていった。
二人の青年の愛の物語だけではなく、主人公と家族、主人公の成長もコンパクトに纏められている。
父が遂に倒れた。ジョニーはゲオルゲに「残ってくれ」と申し出る。それは一緒に牧場の仕事を続けてくれでもあるが、自分とゲオルゲの二人の事の意味合いが強い。ゲオルゲは牧場経営の事も考えるよう諭すが…、二人の気持ちがすれ違う。そしてジョニーのある行動が二人の別れを招く…。
退院はしたものの身体が麻痺し、もう牧場の仕事復帰は出来ない父。ジョニーは本格的に家業を継ぐ決心をする。これまでの父の古いやり方ではなく、新しいやり方で。ジョニーが自立し、成長した瞬間。変わらず辛辣ながらも、息子を認める父。
祖母も好助演。ある時、ジョニーとゲオルゲの関係を知ってしまう。さすがに動揺するが、咎めたりせず、自分の胸に留める。優しくもあり、牧場の経営を一人で背負うとする孫に「あんたの父さんみたいになるよ!」と強い口調で気遣う。
ラストは、去ったゲオルゲをジョニーが連れ戻しに行く。牧場の経営は一人では無理で、ゲオルゲが必要。自分にとっても、欠けがえのない大切な人…。
このラストの旅立ちは、ジョニーの成長をよく表していると感じた。
再会した二人。
「ヘンタイ」「ホモ野郎」…二人の合言葉ならぬ“愛言葉”に、心満たされる。
監督も無名でキャストも知名度低く、本当に地味な小品。
少なからず映画祭や映画賞で注目浴びなかったら、埋もれてしまっただろう。
日本では配給会社が見つからず個人が買い取り、評判から拡大公開になったという。
ちゃんとこういう作品に陽の目が当たるのは嬉しい。
観客も良質作品に惹かれ、発掘された良質作品は決して埋もれる事は無い…そう信じさせてくれる。
ラストシーンは、帰ってきた我が地へ。
序盤、物悲しく寂しく感じたこのカントリーに、ささやかな幸せと希望を見出だせた。
胸に染み入り、見て良かった。
圧倒的説得力
限られた時間、閉鎖された空間に男2人という設定は
とても説得力がある。
同じようなアングルと決して派手でないカメラワークが
代わり映えのない毎日と同じような日常を過ごしてる
んだなぁと理解出来て、
2人が結ばれる事がとても納得出来た。
主人公が初めは俯向いてて酒浸りだったのが、
良い恋愛をして人が変わったように仕事に打ち込み
家族に向き合う様に、
恋愛相手が異性であろうが同性であろうが、
良い恋愛をして男が上がるのは変わらないなと
思いました。
グッと来たのはおばあちゃんの涙だった。
あの世代が理解するのは人格とは別で、理解できない
事だと思うので、とても辛かったろうと思ってからの
主人公に髪を渡すシーンにグッと来た。
しかし、ゲイのカップルは
事が始まる前はどっちかが女の子みたいに可愛なったり
するのに、事が終わったらカッコいい二人組に
なったりして見てて飽きないな。
良かった。
イングランド、ヨークシャーの片田舎で、祖母と病の後遺症で体がうまく動かない父親と暮らす主人公ジョニーが、家業の牧場で家畜の出産期をやり過ごすために雇われたゲオルゲと出会うお話。
ジョニーは、高校卒業後、大学に進学することもなく、地元に残り家業を継いだ。だから、外へ出て行った人たちやこの場所に縛られて暮らしていかなくてはいけない自分に屈折した思いを抱えている。
物語は全体的に暗く、寒々しい空気が漂っている。
自然こそ雄大で美しいが、牧場にあるのはその自然のみで、そこに吹きすさぶ空気は冷たく、厳しい自然の一面を見せる。
そんななか、ともに山小屋に籠るゲオルゲに当たり、ぶつかり、セックスをしてジョニーが少しずつ解きほぐされていく。
最初はかなり感じ悪いジョニーですが、ちょっとずつ仮面が取れ、可愛い顔をのぞかせるようになります。
ゲオルゲもジョニーも雄弁ではありません。軟派なことは一切言わない。
でも二人の間に確実な何かがあるのはお互いに感じている、言わないけどね。
印象に残ったのは、口下手で正直でなくて臆病なジョニーに、ふたりの関係のこと、ジョニーがなぜゲオルゲを追いかけてきたのかを言わせようとするシーンがあります。
家庭環境のせいでひとり、牧場に閉じ込められて、父親は病により介助無しでは食事もとれない、というちょっと同情しそうな境遇ではありますが、それでもゲオルゲは流されない。
ジョニーが自分の言葉で、一歩を踏み出す瞬間を待ってあげるけど、手を差し伸べるわけではない、そんなシーンに見えました。
変わりたい、いままでとは違う自分になりたい、そう思った青年がその一歩を踏み出す瞬間はグッときました。
良かった。
「ヘンタイ」「ホモ野郎」
王道ラブロマンス
私的にはまぎれもないラブロマンスだった。しかも王道。
もはや男性同士というところは一要素でしかない。
しかしジョニー、仕方ないやつすぎる…!
(目をそらしたいことがあれば酒に逃げるし、酔ったら判断力なくなるし、謝れないし基本は仕方のないやつ。ゲオルゲを迎えに行ったとこでは、「ジョン、ちゃんと謝って戻ってほしいと言うのよ!意地っ張りはやめなさい!頑張れ!」と脳内応援上映状態だった。)
そしてゲオルゲ、スパダリすぎる…!
ジョニーを気づかい、ごはんを作り(ジョニーが味付けに不満そうならパスタに塩振って混ぜ混ぜしてあげる)、終止仕方ないジョニーへの包容力がすさまじい。イケメンがすぎる。こんなイケメン、少女マンガかBLマンガでしか見たことないぞ。
そんなラブロマンスなんだけど、ジョニーの成長と救済の物語にもなっているのが良い。
映画冒頭のジョニーはかなり感じも悪いのだけど、何より追いつめられて虚ろな目をしているのが痛々しい。
まだ若く内面も幼いのに、半身不随の父と老齢の祖母と家業の牧場を背負って、一家の大黒柱として働くことを余儀なくされている。
彼には頼れる人も、日々の楽しみもなく行きずりのセックスと酒に溺れて顔色も悪い。そんなジョニーだから彼なりに頑張っているのに、家族は彼を肯定する言葉もかけてくれない。
そこに現れるのがゲオルゲだ。
彼はジョニーを案じていつしか慈しみ愛してくれるようになる。
ジョニーは顔色も良くなり、笑顔も見せるようになり生の喜びとエネルギーを取り戻していく。
たぶん男性だって時には頼れる背中が欲しくなるときがある(私は女だから想像だけど)。
ジョニーがゲイなのもあるけど、たぶん彼は無意識に頼れる背中を求めていて、だからこそジョニーはゲオルゲに惹かれたのだと思う。
そういう意味でこの作品においてはやはりジョニーの相手は男性である必要があったのだ、と思う。
恋って、「あの人の姿が見れて嬉しい」とか「(意中のあの人は)私のことをどう思ってくれてるのかしら」みたいなドキドキも醍醐味だけど、「自分を認めて慈しんだり求めてくれてる人間がいる」という安心感も重要で、ジョニーはゲオルゲに愛されることで、家族にはもらえていなった肯定感を得たんだろうし、それが彼に生きるエネルギーを取り戻させたんだと思う。
そういう意味でも恋っていいよなあ、としみじみ思って観ていた。
あと個人的にグッときたのは、ジョニーのおばあさんが彼がゲイであると気づいてアイロンがけしながら一人で涙するとこ(ジョニー本人には何も言わない)。切ないシーンで泣きそうになった。
あとジョニーとお父さんが自然の中で今後について話し合うとこ。お父さんもジョニーの幸せを願ってゲオルゲとの関係を許した。サラッとしてたけど、感動のシーンだ。
あと「ブロークバック・マウンテン」でも取り入れられてたけど、男性同士のセックスを描く舞台には雄大な自然の中がいいのかもなあと。
街中だと彼らのエネルギーを内包しきれない気がするものね。
本作も割とガッツリセックスシーンがあったけど、スポーツを観るような感覚で、「お、始まったぞ」と観ている自分がいたww ちょっとセックスシーン長すぎだったかな…。
羊の皮を被った羊
ゲオルゲさんのパスタ
雨のなか映画館に向かい、観終わって外にでるとすっかり晴れて街が夕陽に輝いていたのだけど、まさにそんな作品だった。
これからの彼らに神の祝福があらんことを祈らずにいられない。帰り道、夕暮れの光のなかで映画の余韻に浸りながら暖かい気持ちになった。
田舎の牧場で抑鬱した生活をおくるジョニーと、移民労働者として差別に苦しんでいる(と思われる)ゲオルゲさんが、衝突しながら、互いの手の温もりに触れて、愛を見つけるんだねえ…
荒々しいジョニーだったけど、ちゃんとゲオルゲさんにほんとうの気持ち伝えられるかな…思わず応援しちゃう。
最高だったところ、たくさんあるけど、とりあえず2つ。
ひとつめ。バスタブにふたりで浸かって、ビール飲みながら、ひとつの煙草を順番に吸うところ。最高。絵が強い。
ふたつめ。ゲオルゲさんの作ってくれるパスタ。トマトソースのショートパスタを2人分つくってくれたゲオルゲさん、まずジョニーのお皿のパスタをひとくち食べて、味が薄かったのか、塩をぱっぱ、そしてジョニーにどうぞと。台詞はひとつもないけれど、だからこそ静かで穏やか。愛の結晶みたいなものを観た気がした。
こういうちょっとした演出?ってどうやって生み出されるの天才か……………
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