「本作は映画で有りながら、法要です 過去の沢山の登場人物と私達観客が、スクリーンという仏壇の前にうちそろい 法要を挙げる映画だったのです」男はつらいよ お帰り 寅さん あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本作は映画で有りながら、法要です 過去の沢山の登場人物と私達観客が、スクリーンという仏壇の前にうちそろい 法要を挙げる映画だったのです
2021年のお盆
実家に家族や親戚一族がひさびさに集まって、やがてお寺さんがお越しになって法要が行われるのは、普段のお盆なら普通のこと
そのあとはお酒やご馳走もでて賑やかにすごしたものです
でもコロナ禍の2年目のお盆です
今年も帰省を自粛されて、寂しいお盆になった所も多いのではないでしょうか
本作は2019年12月公開
コロナ禍の直前のことでした
まさかこんな世の中になってしまうなんて誰も予想もしていませんでした
フーテンの寅さんならなんて言うでしょうか?
県の境を跨いじゃならねえ?
馬鹿いいなさんなよ!
え、こっちとら50年は前からずーっと、北は北海道から、南は沖縄までフーテンしながら商売してるんだよ
だからフーテンの寅と発しているんじゃねえか
でもよ、人様にコロナをうつしちゃあならねえからな
第一、お祭りがなくなっちまったら、商売もままならねえよ
さくら、ちょくら緊急なんとかが終わるまで、しばらく厄介になるぜ
とかいいながら、柴又に帰って来てるかも知れません
あの四角い大きな顔に馬鹿みたいに大きな四角いマスク姿で
ちょっと想像しただけでおかしいです
渥美清さんがお亡くなりになったのは1996年8月4日、早いもので今年でもう25年
前作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」は1997年11月の公開
本作の公開はそれから22年後のこと
本作の劇中でも同じ時間が流れています
満男は結婚し娘も生まれ、妻と死別しているのです
サラリーマンは辞め小説家になっていました
冒頭のシーンはお盆でなく、満男の死別した妻の七回忌の法要です
季節は晩秋のようです
御前様のお経の間様々な思い出が去来します
まるで先ほどまでの自分と同じです
劇中に回想シーンとして写される寅さんの名シーンの数々
そこに自分の過去の思い出が入り混じって、あの頃、あの時は何をしていたととどめもなく様々な事を思いだしてしまい、何だかわけのわからない涙が溢れてきてしまいました
本作は映画で有りながら、法要です
過去の沢山の登場人物と私達観客が、スクリーンという仏壇の前にうちそろい
法要を挙げる映画だったのです
山田監督はさしずめお経をあげる御前様です
寅さんのCGでの登場は寅さんの魂魄が還ってきたような趣でした
正にお盆に観るべき映画でした
「あぁ生まれてきて良かったなって思うことが何べんかあるじゃない。そのために人間生きてんじゃねえのか?そのうちお前にもそういう時が来るよ。な?まあ、がんばれ」
寅さんの台詞がいつまでも心に残ります
満男もその瞬間とは何かをついにみつけたのです
探し続けてきた人生の答えを満男はついにみつけたのです
だからあれほど考えあぐねていた書き下ろしが、すらすらと書け始めたのです
寅さんシリーズの満男の物語もついに閉じられたのです
戦前のおいちゃん、おばちゃん、御前様、タコ社長の世代はもう鬼籍に入りました
寅さんの遺影は仏壇にないのでまだ生きているのでしょう
団塊世代の博やさくらももう後期高齢者です
団塊ジュニアの満男だって第1作で生まれたのだから満50歳
寅さんシリーズの物語は遂に完全にとじられました
これからはさらにその下の世代の物語です
さくらの孫、満男の娘ユリの物語の時代なのです
彼女は21世紀生まれなのです
21世紀の新しい寅さんシリーズなんてものが成立するなんてことはないでしょう
それでも寅さんシリーズに登場してきた人物達の子供や孫達が、この21世紀を生きているのです
日本人は日本人です
法事やお盆になったらまた一族あつまって昔話をしていくでしょう
それを小さな子供達は聞くともなしに聞いて育っていくのです
こうして世代を越えて日本人が日本人らしく連綿と続いていくのでしょう
名作です
但しこのシリーズを初めての方は最初に観てはなりません
本当の意味が全く伝わらないと思います
本作は単なる総集編ではないからです
2021年のコロナ禍のお盆
「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ」
寅さんの言葉が頼もしい
本当はちっとも役に立たないんだけど
お兄ちゃん❗️
お兄ちゃんにも接種券来てるわよ。あたしがちゃんと予約しておいたからね。
御前様と一緒に受けてきて❗️
とさくらが段取りを整えても、注射が怖くて、あれこれ言い訳して逃げ回る寅さんが私の場合、浮かんできます。
人によって、場所によって、色んな寅さんが帰ってきてるんですよね、きっと。